暇中の嵐
固有魔法ー
オリジナルアーツと読む。
魔法は無詠唱だと世界の理で制限、増強された威力が増減する物が大半である。
そして、魔法を自らの構想で練り、編み出す事もできる。それらは固有魔法と呼ばれ、無詠唱で強力な物である。
禁術、禁忌呪、禁忌魔法
竜を呼び出したり身に纏う類の魔法、そして命を操る魔法は基本的に使うのが禁止され、このカテゴリーとされる。
しかし、竜の魔法が禁忌とされるのは下級魔法士のみである。
「『はぁぁぁぁぁ!!』」
カイルとフードの男の戦いはバチバチと何かが打ち付けられるような音に包まれる。
勿論何かが打ち付けられているのではなく、男の光剣とカイルの拳がぶつかる音である。
高速の打ち合い、打ち出される炎の渦を畏炎龍との龍依に換え吸収。虚空から放たれる光の矢を爆炎で消し飛ばし、また嵐龍に戻し打ち合い。
キリが無いのだ。
「どうすれば…。!?…」
左手の違和感に気づく。
「まさか…あの力…!?いや、ダメだ…!」
星の力を使えば暴走する。
そう思っていた。
しかし。
「!?」
左手が勝手に伸びる。
空間が歪み、斬馬刀のような刀身の【魔力剣】が出でる。
「まさか…使えって言ってるのか…?」
男が迫る。
もう一本、元々の嵐龍との剣を出し打ち合い。
剣と剣のぶつかる音は、まだ暫く続く。
「貴様…あの隊で一、二を争う程弱いな。排除する。」
寡黙な大男がアトリアに言う。
「カイル…アイツがいなくても、戦って見せる!…」
アトリアは手を出す。
手の平から、光る鞭が現れる。
「踊れ!我が凄惨な金色の羽衣!…」
震え動く鞭ー (ウィップ オブ シバー) ー !
「ほう、で、どんな魔法なのだ…?」
「こうするのよっ!…」
鞭を掴み、男へ振る。
光の鞭は空を切り、撓りながら男へぶつかる。
「っ…ヌウッ!?…」
男は苦しむ。
「威力はあるようだな…。」
男にぶつかった後は、利口な犬のように手元に戻る。
「シバーの力はまだこれからよ!」
虚空から光。
アトリアが触れていない鞭が男へと五方向から襲い掛かる。
「ぐああぁぁ!」
男に五本が勢いよく叩き付けられる。
伸縮、発生、操作。そのすべてが自在。
これがアトリアの固有魔法の鞭である。
「さて、まだまだ行くわ…よ…!?」
アトリアの手元の鞭が震えだす。
ブルブルと少し波打つと、弾ける。
何故か、完璧な魔法として仕上がらないのである。
「…しまった…!」
「ほう…不完全な固有魔法だな。」
そう言い終わらない内に、男はアトリアの懐へと踏み込む。
「くぁっ…!!!」
腹部に衝撃。
男の拳が打ち込まれていた。
しかし、ただの拳ではない。
真っ黒なローブで見えていなかった、隆々とした筋肉。更に、拳が鉄のような色になっている。
「がっ…あぁっ!…」
転がる。
「効くだろう?…私の隕石化、固有魔法だ。」
「隕石化…!?なら、あなたが…!」
アトリアはその魔法の名に驚く。
「そうとも、私が掩蔽団鋼のアルデバランだ。」
アルデバランは腕を組み、言った。
「くっ…。」
アトリアはかろうじて立ち上がる。
「遅いッ!…」
「ッ!?」
鞭を出すも、アルデバランの拳が鞭を捉え打ち込まれると、その光は易々と砕かれた。
そして体を回転させ、その脚をアトリアへと振るう。
(マズい…!)
「…!?」
アルデバランの動きが止まる。
光。
光の鞭が、アルデバランの四肢を掴んでいた。
そして、ほどけると強くアルデバランの肉体にぶつかる。
「ぐぅわっ!?…」
地面を少し滑り、体勢を元に戻す。
しかし、後ろから鞭。
「がっ!?」
アルデバランをよろけさせる。
「貴様は…何者だ…!」
顔を上げ、アルデバランが問う。
そしてアトリアの後ろから靴の音がする。
「あ、アンタは…!」
赤のローブ。フードで見えない顔。
光の鞭を扱う魔法士の名は…。
「私は…アウストレイル…。」
ベコォっ!と何かが凹む音がする。
「なぁんだ、これっきりかよ。弱っちぃなぁ。」
スハイルは魔法士の頭を殴り伏せた。
魔法士がドロドロと溶けだす。
「…!?これは…。」
倒れた魔法士から出てきたのは、キャンドルだった。
「なんだこりゃぁ…こんな物から人を作ってたのか…?面白い真似しやがる。」
「アプラ…!」
「ハァ~イ☆、ミアおねーちゃんっ。私と会えて残念ー?」
姉妹が邂逅する。
「どうしたの?ミアおねーちゃん顔こっわーい。幸せも好きな人も逃げちゃうぞー?☆」
「それは否定します。ミアは反応に困っているだけです。こんなに…竜に…。」
ミアは目線を下げる。
「なぁにぃ?…私のこのカッコをバカにしてるの…?パパの事も侮辱してるのよ?…それ。」
「あなたは間違っています。」
「どこが間違ってるの!?私は竜になっても、そこらのアホとは違って悪いことしてない!ただ楽しく遊んで生きているだけよ!賞金稼ぎだって立派な仕事なんだから!」
怒りを強く表に出したアプラ。
ミアは彼女を一蹴する。
「でも、それが召喚士の修行から逃げた事には変わりありません。」
「っ!!」
「あの日、あなたが消えた日。私はとても心を痛めました。一体どうして…」
「才能のある奴には私の気持ちはわからないわ!」
「っ…!…アプラ…」
ミアの言葉を遮ってアプラは続ける。
「おねーちゃん…ぶっ殺してあげるッ!…上から説教してばっかりで…!調子にのって!…許さないんだから!…私の方が格上な事。見せてあげる…!」
「やはり、こうするしか無い運命…。」
「『おおぉぉおぉぉおおぉぉおおぉ!!!』」
父を愛した妹と、父に愛された姉。
「さぁて、到着です。始めましょうお二方。」
「あぁ…。始めようか。」
「ハウトったらへばり過ぎですわ。」
「敵は、三人くらい余ってると思うか?…」
「えぇ。サルガス先生、私達はこっちに行きますわ。」
城。協会の中の三つの扉の前で魔女は言った。
「わかりました。ご武運を。」
全てが集った。
To be continued.




