一つ目の歯車
用語解説 魔法教書
魔法教書は数多く存在している。俗に言う教科書。
教書のタイトルシリーズと、大まかに区切った単元、更に詳しくした章から成る。
単元→章→魔法の順に詠唱すると威力が増減する。
これはこの教書によって確立、制限されている魔法が混在しているためである。
《光輝》、《栄枯》、《堕落》、《酔狂》、《英知》等様々なシリーズがある。
どの教書も単元は四つ、その中の章数は十二。
時は少し遡って、カペラの魔法指導十三日目。
今日は珍しく実技ではなく講義だ。
「は~い。今日はぁドラゴンちゃん達のお話をしまぁーっす!」
「師匠、めんどくさいんでその口調やめてください。嫌いますよ。」
カイルの冷静な対応にカペラはうなだれる。
「あぁ…もう、ノリが大事だと思って気分変えてみたのにぃ。」
カペラは続ける。
「気を取り直して。ドラゴンっていうのは要するにだけど、生物が体の許容範囲を越えた魔力を有している場合に魔力に呑まれて異質な進化を遂げた。と、思ってください。いろいろパターンはあるけど大体こんなで、後はドラゴンに関する魔法を使うとドラゴン化が進みます。」
「はい、質問です。」
カイルが手をあげる。
「はい!勉強熱心だけど私の谷間をたまに見てしまうカイルくんっ、なんですか!」
無駄な動きを数回挟んでカイルを指差す。
「そういうのやらないと生きていけないタイプなんですか…。あの、例えばどんな魔法ですか?」
カイルの一言に、待ってました。と言いたげの顔でカペラは答える。
「例えばね、ドラゴンを使役する、ドラゴンを身に纏う、ドラゴンを利用した何かを自身が長く使用する、が挙げられます。ま、才能の無い一番弟子君は使役止まりだし、百年使役し続けて一緒に暮らしてもなーんにも起こらないよ。才能が無いからね。」
「才能無いのは知ってるんで二回も言わないでくださいよ…。」
カイルは少し悲しげな表情をした。
「まぁまぁ、ドラゴンを使った魔法の才能が無いのは、ドラゴン化を防ぐとっても素晴らしい才能でもあるんだよ?」
「…あれ?ドラゴンになったらどうなるんです?やっぱりガオーっと街を破壊してる記録が残ってるんですかね?」
カペラのフォローを受け取りながらカイルが言った。
「体が元の時のとドラゴンの時を切り替えられるようになって、空とか飛べるみたいよ。特に不便ではないみたい。」
でも、大事なのはこれから。と、カペラは続けた。
「自我を失う事例があって、暴走して国が滅んだなんて話もあるわ。それを信じてる国が嫌って追放しようといろんな手段を使ってくる事があるわ。妬みと軽蔑の目で見られたりもあるわね。まぁ、ドラゴン化してる人のほとんどが、無法者って所がいけないんだけど。」
「へぇ…俺は才能があってもなりたくないですね…。いくら平和に生きようと思っても罪人と同じくくりにされたくないし、なにより使いこなせる気がしません…はは。」
カイルの一言にカペラは微笑む。
「力に溺れないという決意ではないのは、あなたらしいわね。よーしお姉さん脱いじゃうぞー!」
カペラは理由も曖昧なまま、おもむろにローブを掴んで上に持ち上げようとする。
「わーっ!なんで!?ストップ!ストップですよ!し…いやいやホントに止まってっー!」
あ、とカペラは動きを止める。
ほぼ下着一枚である。
「一番弟子君がもし、無理矢理とか何かのきっかでドラゴンにされるとかなりたくないのになってしまいそう、なんて時は心を強くもってね。こちらが食べてやる勢いで。一番弟子君は自分からはなる方法がないけど、他人から使い魔になる魔法なんかをかけられたら耐性が皆無だからすぐコロッと人間捨てちゃうから気を付けてね。んしょ、」
そういって師は服を脱ぎ捨てた。
戻って二年後。
俺は道の上に。
大地の国の城への森に、俺はいた。
香りが強い木が多く生えているのか、鼻にしっかりと伝わり俺に安らぎをもたらしてくれている。
国に着いたら何を食べようか。そんな事を思っている内に、俺は大きな木の前に導かれていた。
というか真ん中にあった。
見上げると、枝が揺れて葉が不規則に音を立てていた…揺れ方が変だ。
これは人為的な物だ。
そう思った辺りで声が聞こえた。
少女の声。
少しずつ近づいてくるのが、ぼーっとしている俺にもわかる。
目の前には枝と葉しか見えないがこの向こうにいるのだろうか。
突如目の前に人が降ってくる。
ドスッ。っという音と共に 俺の目の前に少女が墜落した。
先を丸めたブラウンのショートパンツに、青いトップス。少し透けた白い上着を羽織っている。
髪の色は黒で本人とは異なるが、瞳の色は薄紅。
輪郭はよく似ている。
師匠に。
カペラさんに。
背丈もそこまで変わらなかったからなのか、もしかしたら。という気分は既に俺の口を動かしていた。
「カペラ…さん…?」
少女は顔をあげる。
そして微笑んだ。
「申し訳ないです。私はあの有名な星の魔女、カペラ様ではありません。」
落ち着いている。
上品で、引き込まれる声だ。
「私の名前はエルナト。大地の国を治める、ただの姫です。」
新たな旅路の始まりに立つ。




