最後はすぐそこに。
用語解説。
竜人 ドラゴニュートと読む。
人が竜となった存在であり、人型の竜と人であった姿を行き来できる。
重い重い扉を開ける。
雷の王国から少しだけ離れた、シリウスの城。
魔法協会総本山。
カイル達は、未知の魔城に入る。
中は暗く、お互いが確認できない中、
カイル達は知らず知らずの内、引き離されていく。
「ふぅむ。俺の相手は君か。」
ミザールは腰の愛剣を抜く。
「へへへー!かっこいい騎士サマ、ぶっ殺してあげるねー!」
「カイルとはぐれたと思ったら…私一人でコイツを…?」
アトリアは不安がる。
練りに練ったオリジナル魔法は未完成。そして、目の前には協会の精鋭。
「……排除……。」
寡黙な男がそう言う。
四日前。
王国
「カペラが最終的に命を奪ったのは、母親を処刑した部隊長だけだった。」
ミザールは言う。
「しかも、彼の悪行はすぐにバレてカペラは執行猶予付きで、無罪になったんだ。」
「じゃあどうして?」
カイルは問いかける。
「執行猶予の条件は、五年以内に身の回りの人間を死なせないこと。死人を五年間出さないことだ。そして、四年と六ヶ月経ってそれが満たされていればそれも終わり、晴れて自由の身となる。筈だった。」
「筈だった?」
ミザールは窓を見つめながらこう言った。
「死人が出たのさ。俺のところに来る前にな。」
「そんな!?」
カイルと正反対に、ミザールは表情を変えない。
「思い出せ。誰が死んだ?お前との旅で。」
「火の国では師匠本人が殺されかけたけど、生きてる!水の国のフォーマルハウトだって衰弱しただけだ…王国でも誰も…」
ミザールはため息をついた。
「また今度話す。」
そう言ってその日は終わった。
現在、協会。
「アトリア…一体どこに…。」
カイルは歩いていく。
暗い部屋に少しずつ灯りが点いていく。
「…!」
目の前にはフードで目元を少し隠した魔法士が立っていた。
カイルは距離を取る。
灯りが見えないところまで続いていくと、魔法士が右手を出す。
周りから小さく電気が集まっていくのがわかる。
光剣。
魔法士はいつの間にか両手に短めの光剣を持っていた。
右手だけ逆手持ちという少し奇怪な持ち方だが、その構えから殺気が溢れていた。
殺気が消える。
「!!」
カイルは前方に跳ぶ。
カイルは左手を虚空にぶつけた。
そこから閃光が走り、光剣と魔法士が現れる。
(速い…!)
交竜龍依しながらカイルは思う。
高速戦闘が始まる。
早朝。
王国
「教えてくれ、ミザール。一体誰が、俺と師匠の旅で死んだんだ。」
ミザールは前と同じようにため息をついた。
「教えよう…。驚くなよ。」
協会。
「カっペーラさーんっ!」
召喚士、ミアの妹アプラは陽気に話しかける。
「なぁに?アプラ。」
「アプラちゃんね、ミアお姉ちゃんが来たから下に降りるよー?」
アプラは椅子に座っているカペラの周りをぐるぐる歩きながら言った。
「好きにしなさい。」
カペラは手元の本を閉じて言った。
「姉妹の戦いとは、個人的に惹かれる物がありますね。」
アプラが降りていくのを見届けると謎の学者、カノープスは言った。
「そう?私はあの家系に生まれたあの子達は不幸だと思うけど。」
「そうですか?私は興味があります。カイル君と同じくらい。」
カノープスは少し笑って言った。
「…カノープスさん、体の具合はどう?」
「調子はとても良いです。魔力が馴染んで湧き出る力が止まりません。」
カノープスはカペラの目の前に立ち、機嫌がよさそうに言った。
カペラも少し微笑む。
「なら私は用済みね。今のあなたなら私を殺せるかも知れないし、ここらで失礼しようかしら…?」
カペラの一言にカノープスは笑い、続けた。
「そうですね。カペラさん、貴女には死んでいただきたい。」
「ぐっ…!?」
カペラの腹部を、カノープスの腕が貫く。
「っ…はっ!?…がっ…!」
「身悶えるその顔も美しい方だ。カイル君が惚れるのも、無理はないですね。」
カノープスは淡々と言う。
「一体…何を…!」
「どうです?貴女の魔力がすべて私に流れているのが、わかりますか?星の力の一端だと貴女が教えてくれた。」
カノープスは腕を引き抜くと、カペラは力無く倒れる。
「ぐぅっ…。」
「魔力切れの貴女は死ぬのを待つしかない。そこで燃え尽きる命と共に見ていてください。私が、この世界を掴む瞬間を…。」
早朝
王国。
「お前だ…。」
ミザールは言った。
「え?…」
カイルは飲み込めず疑問の声を漏らす。
「お前が水の国でフォーマルハウトに殺された。それが執行猶予を破った扱いとなり、カペラは数年前の事件の罪ごと、魔法協会の処罰を受けることとなった。」
「まさか…そんな…!?でも、影の国は…」
「影の国に入れるのは自らの死を至近距離に感じた者か、一度死んだ者だけだ。死を感じる間もなくハウトに殺されたお前は後者だろう?」
ミザールの言葉にカイルは仕方なく頷く。
「さらにカペラは許可無く使えない蘇生魔法もその瞬間に詠唱した。これでカペラは大罪人となる。」
「…そんな…。」
カイルは力無く膝をつく。
「しかし、だ。」
ミザールは言う。
「カペラは生きている。捕まってもいない。自首しに協会に入るも、他国各地で姿を確認されている。」
「え…?」
カイルを気にすること無くミザールは続ける。
「つまり、彼女はお咎め無しだったわけだ。しかも見事に協会から逃げ切れている。」
「てことは…!」
気力が戻るカイルを左手で制止させると、続けた。
「そして、まず、罪状が実刑に値していない。どんなに蘇生魔法が禁忌でも、この手の不慮の事故では罪に問われない。加えてお前が死んだだけでこの仕打ちはどう考えても差別的だ。記録の改竄がバレバレだ。甘すぎる。ちなみに、この辺りで大規模な記憶改竄魔法が唱えられた。矛盾点が数多く存在する記憶が作られ、カペラは記憶改竄の黒幕を探してか、各地を奔走。そして既に城に潜り込んでいる。シリウスの帰還を待っている。暗殺のためにな。」
「…じゃあ…!」
「あぁ。その連絡が来たのは五日前だが…問題は掩蔽団だよ。」
カイルは尋ねる。
「何があるんだ?」
「彼らを指揮しているのはカペラではない。カペラを守る名目で動いているが、指揮官はカノープスと言う。」
「カノープスだって…!?」
「そうだ。彼の指示で動く掩蔽団は脅威だ。
俺達でも勝てる可能性は半分程。助っ人を呼んでいるが来ても時間稼ぎにしかならないかもしれない。とにかく、気を付けろ。竜人に対応できるお前が希望だ。」
To be continued




