堕ちて行く
星の魔法。
それはどの属性にも縛られない、異端。
使えるのは極低温、極高温。
そして…。
「もう、行くの…?せっかくその格好で来たのに、それに話したいことも…。」
ベネトナシュがグラスを磨きながら言う。
「バカねぇベネ。明日もこれで来るわよ。」
魔女は扉の方へ歩いていく。
「待って、そういえばあなたのお気に入りが来たわよ。カイル君だったっけ…?」
魔女の動きが止まる。
「あの子は…もう弟子じゃない…はずよ…。それに、改竄された時代の中で会っても嬉しくないわ。またね。」
そう言うと姿を消す。
「嘘つき。」
ベネトナシュは呟く。
火球がカイルへ向かう。
ふと、力の抜けた足が動き出す。
自らの意思とは別に、立ち上がる。
体の中央から赤黒い何かが飛び出すと火球を消し去っていく。
そうすると、カイルの周りを回り、少しずつ細長いだけの姿を変えていく。
竜。
そして、カイルの体へ戻っていく。
五感が無くなったようにカイルには感じられた。
何もできず、何が起こっているのかもわからない。
「………。」
カイルの足元が凍り、それが広がっていく。
「わ…」
「わ…」
双子まで到達すると双子の全てを覆う。
次に、カイルの足元から紫の衝撃波。
氷が砕かれていき、双子を吹き飛ばす。
「これ…仲間…!」
「仲間だけど…敵…!」
少し転がると双子は立ち上がる。
どの【交竜龍依】にも見られない、白い体。鱗と言うよりは鎧のようで、肘、膝から下はさらに厚い。
そして、白に内側が黒い翼。
時たま身体に走る紅い線は全体を引き締める。
【星の竜依】。
「…!」
カイルではないカイルは双子が飛び掛かるのをしっかりと捉えていた。
勢いをつけてターン、先が斧になったような尾で叩き飛ばす。
転がり、立ち上がる少年の方を見逃さない。
一睨み。瞳を赤紫に光らせると、少年が凍る。
「…あ…」
少年の声が結晶に吸い込まれる。
そして爆発。
氷を溶かし、中の物まで焼き切る高温の爆風は、ヒトの形を一瞬で炒めた挽き肉へと変える。
「……グルル…!」
人とは思えぬ声をあげると、口を開け、何かを吸い込むようにする。
爆発した跡から、紫の塊がカイルの口へ吸われていく。
葬ったモノの魔力を喰らったのである。
「…!」
左手を虚空へ翳す。
黒い歪みから、【魔力剣】が出でる。
シンプルな斬馬刀のような太く白い刀身。
しかし、片手で振るえぬような程ではない。
「………グルル…」
カイルの右手が刀身へ向かう。
「に、逃げなきゃ…!」
片側を殺された少女が走り出す。
カイルは刀身を砕いた。
刃は地に落ちず、カイルの周りを浮游する。
持ち手を振り上げ、少女へ向けて降り下ろす。
刃が飛んでいき、少女へ突き刺さる。
刃が紫に発光。
少女の眼からは涙が流れる。
爆散。
少女だったモノは身体に収まらぬカイルと剣の魔力で散った。
少年の時のように魔力を喰らう頃、
刃は知らぬ間に元の刀身へと姿を戻していた。
「…カイル!」
アトリアが遠くから声をかける。
今カイルを見つけたのだろうか。
「……。」
今のカイルはカイルではない。
アトリアでさえも敵と認識する。
「カイル…?」
アトリアは固まる。
いつもの心寄せる彼では無いことが伝わる。
「あ…。」
足元が動かない。
既に氷が走っていた。
「バカ野郎、こんないい子を怖がらせんな。」
歩み寄るカイルへ、知っている声。
カイルの動きが、世界の動きが止まる。
カイルは地面に倒れる。
子供が持ってきた砂が風でさらわれるように、竜依が解ける。
それと同時に、五感が戻ってくる。
「あっ……!?俺は…。」
我を取り戻す。
そして記憶が流れてくる。
「うっ!?…」
嘔吐感。
少年を無き物にした事が脳に焼き付いている。
分身体とは言え、あれほど惨く殺したのは自分でも信じられない。
「お前、随分とヤバそうだな。」
スハイルが言う。
「時間止めてメイスで殴らなかったらこの国も終わりだったな。それ、使うの控えろよ。」
「俺は…こんなの…知らない…。なんで…」
カイルは力無く言う。
「それも、原因究明だな。」
スハイルがカイルを担ぐ。
「ほう…カイル君、やるようだ。」
カノープスが眼鏡を直して言う。
「しかし、星の力にどうやって対抗したのか…私の力の片鱗を嵐か炎が上回ってる。ということですか…。より強い僕を産み出さなくては…。」
近くのキャンドルを空へ投げる。
紫色に溶け、ヒトの形へと姿を変えていく。
「さぁ、私の元へ、カイル君。」
To be continued




