始まる三年目。
「それで?蹂躙された魔法士を治療しただけの星の魔女は大虐殺の象徴に、蹂躙したはずのシリウスは人々の命を救った英雄扱いですか、本人の記憶すらも書き換える魔法とは、驚いた。」
「お姉様は気付いたみたいで取り戻しましたけれどね、まだ断片的なようでとりあえず隠れ蓑を探して居着いているみたいです。さ、行きますわよサルガス先生。」
「が…カイル君…。」
「『喋るな。』」
カイルは偽のカペラの首を絞める。
「『魔力剣は、随分と俺に変化をもたらしてくれたな…。二人を薙ぐ程とは思ってなかった。』」
カイルは偽物を投げる。
「『【魔力剣…。】』」
地面に深々と大剣が刺さって現れる。
刀身には紋章、金文字だ。
そして、剣に渦が巻く。
「熱で…気流の操作か…?」
「『ご名答…それじゃあ死んでくれ。』」
カイルが右の拳を握る寸前。
アトリアの顔が浮かぶ。
「『…っ!』」
我を忘れていた。
いつからか。
少し前。
龍依をしたときである。
少しずつ自分では無くなっていく。
そんな気がした。
呑まれるな。
師からそう教わった。
ダメだ。
これ以上は…。
迷いを払う。
荒ぶる炎のダイモスを使う上での鉄則も、忘れていた。
「これ以上は入らないわ。余ってしまったわね。これ、そこいらに捨ててしまおうかしら。」
赤い塊が、カペラの周りを浮遊する。
カノープスは、涼しい顔で紅茶を飲む。
ふと、赤い塊がどこかへ飛んでいく。
「いいのですか?」
「いいのよ、この魔力に耐えられる人間なんてそんなにいな…」
カペラが固まる。
「どうしました?」
「いいえ、ちょっとね。」
(まさか、ね…。)
「どうした…?殺さないのか?」
アルニラムが言う。
「『殺さない。その分身には消えてもらうけどな。お前は生かしておく。』」
拳を握り締める。
迷いと穢れを焼く、畏炎。
「『畏怖を焼く雷の爆勇!!』」
爆発。
強力な。
カペラの分身とアルニラムが炎に消えるのが見え、そして、何かが入ってくる感覚。
赤い何かが見えた気がした。
「っ!?」
急に、龍依が解ける。
何かが体の中を駆け巡る感覚。
戻る景色の中、意識が遠退く。
「あなたは…!?何、なの…。」
アトリアはふらつきながらアウストレイルに寄る。フードから顔は見えない。
「無理しな…。」
アウストレイルは言葉を中断すると、紙とペンに綴る。
無理をしなくていい、また来る。
邪魔をした。
そう書かれた紙をアトリアに手渡し、アウストレイルは少しずつ消えていく。
アトリアは見た。
アウストレイルの、自分によく似た瞳を。
どこか懐かしい風を感じる。
火の国の…森の…。
カイルは、目を覚ます。
本当の、幕開け。




