暗算
「にしても驚いたぜ、カイル。この一日で見違えた。もう二年前とは別人だぜ?」
スハイルはカイル達の帰路を歩きながら言う。
一度、カペラを探す前に大地の国、雷の王国へ戻るのだ。
「そんなこと無いだろ、茶化すなよ。」
カイルはスハイルを叩いて言う。
「大分違うわよ。悪いけどスハイルの言うことに賛成だわ。昔とは別人よ。」
アトリアがエルナトを撫でて言う。
そう、カイルの顔、雰囲気、精神は二年前とはまるで別人のように成長したのだ。
「カペラさんが見つけるの苦労するぜ?こりゃ。」
「ったく、皆してやめてくれよ。」
カイルは少しだけ嬉しそうに言った。
「ほんとにいいの?」
「ええ、構いません。」
カペラの問に答えるのはカノープス。謎多き学者である。
「私の分身体を食べるという事は、星の魔力を吸収するって事。相性が悪ければ、体が壊れて二度と魔法が使えないわよ?」
「問題ありません、続けてください。そういえば、記憶改竄の件は?」
カノープスが魔方陣を書きながら言う。
「その話はしないで。」
「わかりました、控えましょう。」
血で綴る魔方陣が完成して、カノープスの体が何かに押さえつけられる。
「大丈夫?余った魔力はどこかに散らばるから、コップに水を入れる感じかな。」
「わかりました。」
「やぁ、カイルご一行。」
エルナトの国へ戻る帰路で、見覚えのある顔に出会う。
「アルニラムか。」
「それだけじゃないわ。」
木陰からアルニラムを横切って一人の魔法士が現れる。
「か、カペラ…!?」
アトリアは驚く。
「いや、魔力で作った分身体だよ。随分と自我があるみたいだけどな、これだけ本体と離れてるって事は。」
カイルは落ち着いて言う。
「あら?カイル君、本物がどこにいるかわかってるような口振りね?」
「勿論、それでなんのようだ?」
アルニラムが竜へと姿を変える。
「『決着をつけにきた。さぁ、やろうか。』」
「いいぜ…。」
カイルが竜人になったアルニラムに飛び掛かる。
「『【交竜龍依!!!】』」
「『だから、雷と風では効かぬと言ったろう。』」
【魔力剣】で魔力のコントロールができるようになり、力を効率よく使えるようになったカイルの一撃をアルニラムは受け止める。
(く、やっぱり炎のダイモスじゃないと厳しい。でもこの距離だと皆に被害が…)
「『ふぅんっ!』」
アルニラムが腕をふるい雷でカイルを吹き飛ばす。
「カイルの奴、俺達に気をつかってんな…。」
「え?」
スハイルは驚くアトリアに言う。
「わからねぇか?強くなって、どれだけのパワーを放つかわからなくて抑えてるんだ。どれ、お互いテキトーに場所移るかな、【機械竜】、場所移せ。俺とこの二人を一くくり、あっちの三人を一くくり。五分後に元に戻せ。」
『了解した。』
どこからか声がすると、少しずつ、ゆっくり景色が変わっていく。
「全力でやれ、カイル。」
スハイルは言う。
「『随分と広いな。空間を作り出せるのか?貴様の仲間は。』」
アルニラムは腕を鳴らして言う。
「『ぐっ…。』」
「カイルくん、私を忘れてなぁい?」
後ろから蹴り。カペラの分身がカイルの体勢を崩す。
「『嫌なコンビだな、アンタら。』」
カイルは龍依を解いて言う。
「『誉め言葉だよ。』」
「まったくだわ。」
「『クロス…』」
カイルがボソりと言う。
「え?…」
カペラの分身も、アルニラムも炎に包まれる。
「なんだお前…?どうしてここに…?」
スハイルがたじろく。
「私は…。」
フードの魔法士が口を開く。
「…!!??」
「アトリア様!?」
エルナトがアトリアを支える。
アトリア急に体勢を崩したのだ。
(なんで…こんなに、この声が?…)
どうしてこれほど気持ち悪く感じるのか。
普通の声であるはずの声が。
「私は…アウストレイル。」
「何者だ、テメェ。」
スハイルが警戒する。
「私はそこの魔法士に、用があるだけ。」
アウストレイルが言う。
「ぐっ…まさか、これ程とは…。」
アルニラムは人へと姿を戻していた。
炎の渦が巻く。その中から、カイルが出でる。
「が…か、カイル君…」
「『喋るな。アンタは偽物だろ、最初からダイモスにすれば良かった。そうしたら蹴りとか、食らわずに済んだな…。』」
変わっていく。




