新たな力
「カイル・セイリオス、クー・シーだ。君をここで殺す。」
男はそういうと一歩前に出る。
男は凄まじいスピードでカイルへ飛びかかる。
反射的に出した腕はクー・シーが自らの側へ引き、それによって空いた体へ肘が打ち込まれる。
「がっは!?…」
苦悶の声を上げるカイルは、そのまま後ろの樹へ一直線。
「ぐぅ…【交竜龍依】!」
空中で一回転、樹に背中ではなく足の裏をつけ、バネにしてクー・シーへ。
選んだのは嵐の龍ファフニール。
雷の竜リーレイとの相乗効果で、スピードとパワーを合わせ持つ形態だ。
「その姿は、アプラと戦った時の物か。甘い、それでは甘いッ!」
その言葉と同時にクー・シーは姿を消す。
「『…!?』」
気配を察知して上向きになる。
「せぇぇぇやぁぁぁぁあ!」
クー・シーの踵が凄まじい速さでカイルに向けられる。
「『っぎぃ!』」
今度は腕での防御に成功する。
背中を打つのは仕方ない。
滑りながら策を練る。
(どうすれば…魔力剣を出す時間すら無い。)
「どうした?アプラを退けたんだろう?本気を出せ。 」
クー・シーは歩み寄る。
「『お前が無駄に速いから何も出来ないのさっ…!』」
カイルも素早く近づいて三撃、そして離脱。
(やっぱり…魔力剣を出さなくちゃ…。)
「まぁ、カペラ様の期待は無駄だったという事だな。さようならだ。」
「『…!?』」
カイルは気付く、自分を取り囲む物に。
自分が死の目の前に立っていることに。
ナイフである。
無数のナイフは浮遊し、カイルを全方位から狙っている。
気付かぬ内に、クー・シーは竜人になっていた。
黒紫の鱗と、オレンジの爬虫類の瞳。
「『残念だ。カイル・セイリオスよ。』」
そういうクー・シーはとカイルから視線をはずす。
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
アトリアの悲鳴で、肉の音はかき消された。
アウストレイルが、結晶を見ながら歩く。
結晶にはカイルが戦っていた場所が写り、クー・シーがアトリアに歩み寄る姿が見える。
(…あなたは、まだ強くなる。立ち上がると、私は信じている。たとえ、あの人と同じで無くとも。)
そう、アウストレイルは心で言う。
俺は…?死んだか…?
『何をしとるか、主よ。』
ファフニールか…?
『主、魔力剣とやらを使わなかったな。』
だから、使い方わからなかったんだって。
『ワシは問うたよな。貴様がこのあと何をしていくか、それが知りたいと。』
そんなこともあったな。
『貴様はまた、あの星の娘の為に動いておった。二年間はあの献身的な娘のおかげでそんなことは無かったが、ワシは残念じゃよ。』
何がさ…。
『さっさと自分の為に動け。まぁ、あの献身的な方の為でもいいが。』
アトリアか?
『おうとも、星の娘はお前を弱くする。判断力を鈍らせ、周りを見えなくしている。』
そんなことは…
『ある。今必要なのは心だ。前に進もうとする、な。お前は過去を追いかけすぎだ。こうしてる間にも、愛しのアトリアは刺客に殺されそうではないか。ワシはお前の答えを待っている。はやく決めろ。どう進むのか。お前はカペラという偶像にすがり付いて立ち止まっている。』
俺は…。
「『貴様も殺してやろう、小娘。』」
「っ…ひっ!…カイル…。」
アトリアの涙は止まらない。
思いを寄せる人物が目の前で肉片になったのだ。
「『静かに、殺してやる。目を瞑れ。』」
(カイル…!)
「『おい、待てよ。』」
クー・シーは振り向く。
血に濡れて、カイルはクー・シーの肩を叩く。
クー・シーは跳んで離れる。
「『まさか、生きているとは…。』」
地に落ちた数本のナイフを浮遊させ言う。
「『悪いな、クー・シー、俺はこれ以上知り合いに目の前で消えてほしくないんだ。だからさ、』」
お前には死んでもらう。と、カイルは言う。
「『【魔力剣】!』」
カイルの右手に風と電気が走る。
エメラルドグリーンの剣は、外側の刃は滑らかに、内側は雷が走るように結晶のような棘が突き出ている。
「『…!?その姿で魔力剣を生成できるのか?まさか、そこまで進化を…』」
驚くクー・シーをよそに、カイルは距離を詰める。
体の左側に右肘を出す形で構え、突き。
クー・シーは頬に切り傷を負う形で避ける。
(身体が軽い…!これならいける!)
カイルは瞬時に後ろへ回り込む。
右腕の振りを、左足の踏み込みで加速させてクー・シーの首を狙う。
「『ぐうっ!?』」
クー・シーはしゃがむ。
途端に察知し回避行動を取る。
「『残念だけど、俺の方が速くなったみたいだな、クー・シー。』」
そう言うとまたカイルは姿を消す。
「『ぐうっ!?』」
クー・シーの腹部に、カイルの拳が突き刺さる。
雷が弾け、カイルの追加の踏み込みでクー・シーは空へ投げ出される。
「『終わりだ。とびきりのをくれてやるよ…!』」
『主よ、答えが出たようだな。こういうときは必殺技として名前をつけるべきだ。』
ファフニールは水を差す。
「『なんだそれ…まぁ、それっぽいのにするか。』」
カイルは笑う。
「『雷の災風魔!!!』」
下から斬り上げるように剣を振るうと、閃光。
雷が風に乗せられ槍となり、クー・シーに突き抜ける。
「やった…。」
カイルは倒れこむ。
「ば、バカイル…。」
アトリアは歩み寄る。
「あ、アトリア悪い。ちょっと怖い思いさせたな。勝ったから許してくれ。」
笑いながら振り向くと、アトリアはカイルに抱きつく。
「この…死んだかと思ったでしょ…。」
「ごめん、あのカッコの時は再生力あるから、心配させたね…。」
許すわけないでしょ。と、泣くアトリアを抱き締めると、カイルは笑う。
「あらあら…いい雰囲気ですねぇ。」
エルナトは微笑む。
「ん~。青春だなぁ、若者たち。僕もそろそろ相手探さないと。」
キドの一言に、エルナトは笑う。
「キド様、キド様はまだまだお若いじゃありませんか。」
「いやいや、あと二年もしたら彼らと同じ歳になっちゃうんだから、大変な事だよ。」
さて。とキドは言った。
「魔具は直したよ。君達も頑張ってね、帰りも大変だと思うからさ。」
「はい。」
エルナトは扉を開ける。
ここから旅は折り返しで、さらなる難が待ち受ける。
To be continued




