時間は繋がりそうで
キドが作り出した空間。座る場所以外何もないこの場所には轟音が響いていた。
「すごい…一時間経っているのにカイル様の魔法が解けない…!」
エルナトは無意識にそんな言葉を漏らす。
キドとカイルはひたすら戦い続けている。
暴れるように炎を振りかざすカイルと、爆炎を食らってもびくともしないキドの戦いは長時間に渡っていた。
「んー、他のところに魔力をまわすと安定するねぇ。まぁ、それだけ魔力を有効に使えてないんだね。魔力が無尽蔵に沸き出しているのに、溜め込んでしまって急激に吐き出すから制限時間がある。」
キドはそういうと手を前に出す。
「いくよカイル君。これが【魔力剣】だ。」
何もない所から風が起こる。
ゆっくりと風が集まり、色が付いていく。
緑で、棒状へ。少しずつ剣へ。
キドの【魔力剣】は、棍の先に刃がついた物。
緑のそれは輝き、空をも切り裂く雰囲気である。
「それが俺に必要な力…!」
カイルは力を込める。
今までで一番の火炎球攻撃、【交竜龍依】が解除される勢いで魔力を火炎に集め、放つ。
「ちょっ…!バカイル!死ぬ!私達まで死ぬから!」
アトリアはエルナトを抱き締めて騒ぐ。
「大丈夫さ、こんなのバターより柔らかい。」
そういうと、剣を一振り。
火炎球が破裂したかと思うと何処かへ吸い込まれていく。
「これが…魔力剣…。」
カイルは落下して行きながらそう呟く。
城 ーーーー
「アウストレイル、仕事を頼みたいんだ。」
協会の王、シリウスは側にいるフードの魔法士に声をかける。
「そろそろカイルを見に行って欲しい。お前もやりたいことがあるだろう?」
それに答えるかのように、アウストレイルがペンと紙を魔法で動かす。
滑らかにペンの先が紙の表面を削り、そこにインクが走っていく。
〈あの学者は好きじゃない。〉
そう書かれている。
「ハッハッハッ!…そんな事はいうな。教えに行ってやれ。」
アウストレイルは近くにあった印鑑を手に取ると、シリウスに投げつける。
「ぐっ…」
シリウスが悶える間に、扉を開けアウストレイルは出ていく。
「全く。相変わらず、少し乱暴だ。」
キドの研究室 ーーー
「さて、君にはもう気を付ける事だけ言えば仕事は終わりだ。力量も見た、お手本もやってみせた。後は何もない。」
キドは満足げに言うと、近くにある皿からバケットをとる。
「え?…キドさん?俺ただキドさんに火球投げてただけじゃ…」
あのあと、直ぐに景色は部屋に戻ってこう告げられているのである。
「それでいーの。器を見てただけだし、ホントはお手本だけでいいんだから、コレ。」
そう言うと両手でバケットを食べ始める。
小動物のようで魅力的である。
「ん?なに見てるのさ。僕は魔具の修理がある。時間稼いで。」
そういうとキドはカイルを蹴飛ばす。
「え!?ちょっとキドさん!!」
アトリアが驚くのは無理もない。
カイルの体は扉を開け、そのまま階段の下、柔らかい草の上へ落ちる。
「行きなよ、エルナトはここに残すから。正妻パワーで応援してきなさい。ほら、早く。」
何か言いたそうな顔をして、アトリアも飛び出していく。
「いっ…てぇぇ…。頭割れそう…。」
そう言いながら立ち上がると、目の前に誰かがいた。
「カイル・セイリオスか?…」
目の前の男が訊く。
顔半分は鉄のマスクで見えないが、男だというのはわかる。
黒いローブからは赤黒い肢体が覗く。
「でも良かったんですか?キド様のカイル様を見る目は、力不足だと言わんばかりでしたが… 」
エルナトは言う。
「問題ないよ。むしろ、それがいいんだ。劣等感は人を強くする、これは常識だよ。それに、彼は才能溢れる若々しい青年だ。かなり強くなるさ、この戦いで。」
「にしても、よくわかりますねぇ。敵が来た時とか、カイル様の弱点とか。エルナトにはさっぱりです。」
キドの作業を見ながらエルナトが呟く。
キドは笑った。
「そりゃあね?僕は魔力に敏感だから。」
「あ、そういえばどうしてキド様はドラゴンのお姿にならなかったんですか?」
エルナトは扉の小窓からカイルの方を覗こうとしながら訊いた。
「来る戦いに備えて。人間の姿でもそれなりに戦えないとさ。」
(どうする…?ダイモスは飛行能力があるが…相手を見てからじゃないと選べない。)
カイルは相手の魔法士を警戒する。
「バカイルー!ファフニールでそんな奴はぶっ飛ばして全身骨折させてやりなさい!」
「表現生々しくて怖くない!?」
ふふっ。と、カイルは笑う。
そして、こう言った。
「全く。相変わらずちょっと暴力的だ、アトリアは。」
To be continued




