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日本で騎士を目指します!  作者: とど
初等部編
9/93

9話 新たなスタート

初等部編、スタートです。

 大勢の子供達の声が響き渡る朝、私は母様と父様と一緒に門の前に立っていた。


 そう、王立華桜学園初等部の入学式である。





 ……いや、本当に受かったのが信じられない。私がここは出てほしくない、と思った所をピンポイントで出題されまくったというのに、どうにかこうにか入学することができた。


 受かった瞬間、正直裏口を想像してしまった。だってうちお金持ちだし。


 もし受からなかったら、きっと今頃父様に勘当されていたと思う。鳴神家の人間として相応しくない! とか言われて。







 受付を済ませると、名札に花が付けられる。……紙ではない、造花だ。


 式まで少し時間があるので、のんびりと辺りを見渡す。やはりというべきか、かなり良いところの坊ちゃんお嬢ちゃんが集まっているようで、隣にいる保護者はこれでもか、と着飾っている。主役がどちらなのだ、と思うくらいに。


 子供達もしっかりとした恰好をさせられているものの、そこは年相応にはしゃいでいたり、不安で泣きそうになっていたりしていた。




「ひなた、学校は楽しみ?」

「勿論!」



 前世で学校が好きだったかと言われれば微妙だ。勉強は嫌いで友達と話すのは楽しい。部活は半分半分で、好きな時も嫌いな時もあった。


 しかし私はいつも懲りずに、新学期になるといつもわくわくしながら学校へ行ったものだ。……たとえ三日で「早く次の長期休暇にならないかなー」と思ったとしてもだ。




「ひなた、入学おめでとう」


 母様と話していると、突然背後からそう声を掛けられた。



「不知火さん」


 話しかけてきたのは不知火のおじさんだった。最初に会ってからというもの、時々ふらっとうちに立ち寄っては、何てことない会話をして帰っていく、ちょっと変わった人だ。


 そんなおじさんは、今日は見たことのない男の子を連れていた。

 その子はおじさんの服をしっかりと掴み、俯いている。私よりも背が小さい為、その顔を窺うことはできない。


 私の視線に気付いたのか、不知火さんは男の子を自分の前に出し、その子の両肩に手を添えた。




「ひなたとははじめましてだね。この子は息子のじんだ。ほら陣、ご挨拶しなさい」

「……不知火陣だ」


 おじさんに促されて男の子――陣君は顔を上げた。そして、鋭い目付きでこちらを射抜きながら、ようやく聞こえる小さな声で名前を口にする。


 あの、ものすごく睨まれてるんですが。

 私が何かしてしまったんだろうか、と思えるくらい陣君の目付きは鋭い。狼狽えていると、不知火さんが笑いながら陣君の頭を撫でた。



「この子は少し人見知りするんだ。ひなたが嫌いで睨んでる訳じゃないから、安心してほしい。……陣、この子は鳴神ひなたちゃんだ。一緒に初等科に入学するから、仲良くするんだぞ」

「鳴神……おじさんの子供?」


 私をじっと睨んでいた陣君が私の後ろに立っていた父様を見上げる。父様のことは知ってるんだ。



「ああ。陣、入学おめでとう」

「……ありがとうございます」


 おお、知り合いだったとはいえ父様の顔に怯えることなく会話できるとは。陣君、なかなかやる。



「さて、そろそろ式が始まるだろう。講堂に行こうか」


 不知火さんの言葉で、私達は歩き出す。


 講堂とか、さすが王立学校である。普通、式は体育館でやるものじゃないのかな。セレブな学校に驚くことが多い。

 講堂に到着すると、保護者とは別れて座ることになった。生徒の席順は自由だったので、私と陣君は並んで端の席に座ることにする。……本人はあまり嬉しそうじゃなかったが。



 入学式が始まるまでの時間、私は沈黙に耐え切れずあれこれと陣君に話しかけた。不知火さんの子供ならこれからも色々と会うことになりそうだし、小学生第一号の友達になろうとしたのだ。


 ところが、陣君はかなり素っ気なかった。

 何を聞いても「別に」としか返してくれず、終いには無視されてしまう。人見知りするというし、あんまりしつこくしてもいけないと思ったので、大人しく黙ることにした。




 式が始まる直前、陣君は「おい」と私を呼びつけ、そして一言だけ口にする。


「父さんはああ言ったが……俺に関わるな」

「え?」



 聞き返そうとしたが、檀上の司会者が話し始めてしまったので断念せざるを得なかった。
















 来賓の紹介が長すぎて寝そうになった式がようやく終わった。やっぱりこういう学校はスポンサーが多いのかもしれないが、いい加減長すぎた。


 欠伸をかみ殺しながら椅子から立ち上がると、すでに陣君はどこかへ行ってしまっていた。彼が立ち上がった記憶がないのだが、やっぱり少し寝てしまっていたのだろうか。


 まあいいか。眠くてあまり物事を考えられない。



 式が終わると、次は教室に移動だ。配られた栞にはクラス分けがずらりと書かれている。鳴神、鳴神……と探すとすぐに見つかった。一組だ。


 そういえば兄様が言っていたのだが、この学校はクラス替えをしないのだそうだ。初等部の間は六年間ずっと一緒で、中等部に入ると学科ごとに分かれる。つまり、最初のクラス分けがこの六年間の学校生活を左右すると言っても過言ではないのだ。


 私はドキドキしながら教室へと向かった。


 一年一組と書かれた教室を覗くと、もう既に何人かの子達が席に着いている。前後の席で話している子もいれば、緊張したようにキョロキョロと辺りを見回している子もいた。この学校は受験しなければ入学できないので、基本的に幼稚園から一緒の子が少ないのだ。


 私だけが一人じゃなくてよかった、と思いながら黒板に示された席に座る。前から二番目で結構先生との目が合う困った席である。


 席替えはあるのかなーと考えていると途端に、前の席に座っていた栗色の髪の女の子がくるり、と振り返った。



「はじめまして、私とお友達にならない?」

「え?」


 第一声に驚いた。自己紹介もなく突然友達と来たもんだ。私が沈黙していると、女の子はちょっと慌てた様子でごめんごめん、と謝ってきた。



「勢い余ってつい……知り合いがいないから、後ろの席の子が来たら話しかけようと思って意気込んじゃった」

「そうだったんだ。私は鳴神ひなただよ、よろしくね」

「私は時森恭子ときもりきょうこ……って、鳴神!? あの剣の?」


 私の名前に、女の子――恭子ちゃんはこちらに椅子を傾けるほどに身を乗り出してきた。

 ガン、と机に椅子が当たってびっくりする。



「うんまあ、そうだけど」

「うわああ、入学早々すごい子と知り合いになっちゃった!」



 彼女は頬を紅潮させながら、興奮気味に話し続ける。



「あのね、うちってそんな名家じゃないのよ。所謂成金ってやつ? ……あ、そういう家の子とは関わるなとか言われてる?」

「まさか、そんなこと言われないよ」

「良かったー。でもこの学校、そういう子ばっかりじゃない? だからいじめられたりするかと思って心配だったの。それで色々調べてきたんだけど……鳴神家ってかなり有名なんだね。まるで芸能人にでもあった気分だわ」

「芸能人って」



 名門とは言われていたものの、そんなにすごいのか鳴神家。ちょっとプレッシャー掛かるな。



「あの、うちはどうか知らないけど、私はそんな大層なものじゃないから期待しないでね」



 兄様姉様のような美貌は無いし、ちょっと人よりも体力があるくらいだ。



「むしろ思ってたよりもずっと普通の子で安心したよ。これからよろしくね」


 恭子ちゃんはそう言ってにか、と笑った。



 ズバズバ思ったことを言う子だなあ。しかし変に気を使われて接されるよりもずっと小気味いい。私も笑い返した。


 陣君は断念したが、ようやく初等部の友達第一号が出来ました。












 それから色々と話をして――恭子ちゃんの夢は玉の輿なのだそうだ。この年にしてすげえ夢。――いると、徐々に人が増えてきた教室に陣君が入ってくる。彼はそのまま指定の席に座ると、すぐに机に突っ伏した。離れた所から見ても話しかけるなオーラがすごい。


 同じクラスだったんだ。


 私が彼を目で追っていると、恭子ちゃんが気付いたのか「知り合い?」と声を掛けてくる。



「一応。さっき会ったばっかりだけど」

「ふーん、何か怖そうな子だね。何ていうの?」

「不知火陣君だよ」

「不知火……あの子がそうなんだ」



 なるほどねー、と訳知り顔で頷いた恭子ちゃんに私は首を傾げた。不知火家も何か有名な家系なのだろうか。


 私がそう聞くと、「知らないの?」とむしろ驚かれた。



「不知火は有名な魔術師の家系だよ。剣の鳴神、魔術の不知火ってセットで言われてるくらい」


 セットって……だから鳴神なら当然知っていると思われたのか。不知火のおじさんも教えてくれればいいのに。

 更に恭子ちゃんは「噂だけど……」と前置きして少々声を潜める。




「不知火の末っ子は歴代当主と比較してもかなりの魔力があるらしくて、その所為で――」

「はーい、静かに。席に着きなさい」


 彼女の声を遮るように、先生が教室に入るや否や声を張り上げた。


 一番前の席である恭子ちゃんはさすがに話を中断し、きちんと席に座り直す。周りもこの学校に受かるくらいなのできちんと教育されている子達ばかりで、大人しく席に着く。



「今日から皆の担任になる――」


 先生の話を聞いていると、ようやく入学したんだ、とじわじわと実感が湧いてきた。

 あの勉強地獄の日々が懐かしく思えてくる。あの努力が無駄にならなくて本当に良かった。



 前世と似てるようで似ていない世界で、私はようやく新しいスタートを切った。





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