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日本で騎士を目指します!  作者: とど
高等部編
82/93

73話 お酒の勢いって恐ろしい

「ひなたちゃん、すごく可愛いよ!」

「そ、そうかな」



 さて、待ちに待ったクリスマスパーティである。終業式は昨日のうちに終わり、今日は夕方からパーティの為に学校に来ている。届いたドレスを着て、普段は割と適当にまとめている髪をアップにして化粧までしてきた。


 ドキドキしながら会場まで足を運ぶと、既に来ていたみーちゃんと恭子ちゃんが私を見つけ、そして全身をくまなくチェックされて合格を貰った。



 恭子ちゃんは赤を基調とした、しかし派手すぎない絶妙な加減のドレスで彼女の可愛さを何倍にも引き立てている。一方みーちゃんは落ち着いた青の衣装を身に纏い、大人っぽい雰囲気だ。




「あのさ、陣達はまだ来てないの?」

「もうすぐ着くと先ほど連絡がありましたわ」

「ほら、昴からのメール」



 恭子ちゃんはすばやく携帯を操作するとメールの受信ボックスを開いて件の文面を私に見せてくれる。……確かにもうすぐ来ると書いてあったのだが、やたらと顔文字や絵文字に溢れた文面に驚くと共に少し呆れた。昴らしいといえばそうなのだが。



「ほら、来ましたわよ」



 みーちゃんに促されて画面から顔を上げると、そこにはホールの入り口で出席名簿に名前を書いている三人の姿があった。


 私は思わず髪が崩れていないかチェックしたり、ドレスに皺が寄っていないかを確かめたりしてしまう。ちらりと隣の二人を見ると、全く同じことをしていて少し笑った。

 やっぱり、好きな人の前だとそうなるよね。



 最初にこちらに気付いたのは藤原君で、片手を上げて二人を連れこちらへやって来た。


 男子三人は騎士科、魔術科それぞれの式典用の制服に身を包んでいる。こちらの制服はなかなか見ることがないが、いつもよりも煌びやかな衣装である。




「よう、三人とも揃ってるな」

「ねえ昴、どう?」



 さっそく恭子ちゃんがその場でくるりと一回転して昴にアピールを始めた。うん、可愛いなあと思いながら見ていると、昴は珍しく照れた様子で「綺麗だぞ」と頬を掻く。


 そんな光景をみーちゃんが羨ましそうに見ていたことに気が付いた藤原君も、彼女の傍に行き「似合ってるぞ」と褒めている。



「この髪飾り、薔薇なんだな」

「ええ、大吾郎がわたくしに似合うと言ってくれましたから選んだのです」



 こっちが恥ずかしくなるやり取りを眺めながら、私はつい一人取り残された陣に目を向けた。


 同じようにこちらを見ていた陣と目が合い少し動揺する。いつの間にか昴達が揃って私達に注目していたことにも気付き、妙な沈黙が流れた。



「……」



 昴や藤原君に触発されたのか何か言いたげな陣だが、珍しく困っている。何だかこちらが逆に申し訳なくなってきた。



「あの、陣。無理しなくていいから……」

「駄目だ」



 きっぱりとそう私に返してきたのは陣ではなく、みーちゃんの隣に居た藤原君だった。




「お前がそうやって陣を甘やかしてるから、こいつはいつまで経っても言葉足らずなんだ。陣、ちゃんと言うまで駄目だからな」



 なんか別の人から聞いたことがある言葉である。


 陣は藤原君をちらりと一瞥した後、再び私に向き直りそしてまた沈黙を開始した。

 最終的に彼は殆ど睨み付けるような視線になりながら、小さく一言だけ呟いた。



「悪くない」

「……ありがとう」



 以前ドレスを着た時の感想が「似合わない」だったことを考えると少しは進歩していると言っていいのだろうか。陣も、私も。


 無理やり言わせた感じがすごいので、ちょっと素直に喜んでいいものかは微妙である。




「今日はこれで勘弁してやろう、な」

「まあ何か言っただけで陣にしては合格か……」



 昴と藤原君がそう言葉を終わらせた所で改めて皆で会場入りする。



 私も流れに乗って皆の後を追おうと歩き出したのだが「おい」と陣に背中に一声掛けられて立ち止まった。



「何?」

「手を出せ」



 むしろ銃を突きつけられて手を上げろと言わんばかりの形相に驚きながらも、私は言われた通りに右手を差し出す。



「何なの?」

「いいから」



 手を引っ張られて、何をしているのかと思えば不意に手首に冷たい感触がした。そうして陣が私の手を放すと、そこには先ほどまでなかったブレスレットが嵌っているではないか。


 細身の金属製のチェーンで作られているシンプルなものだが、所々にある小さな飾りやよく見ると細かい装飾が施されているのが分かり、中々値段が張るだろうということは予想が付く。



「どうしたの? これ」

「……クリスマス、プレゼント」



 陣の表情を窺おうと顔を覗きこもうとするが、逸らされて叶わない。私はもう一度注意深くブレスレットを確認した。


 ……見た所魔石が嵌っている訳でもないし、本当にただの装飾品のようである。

 魔道具でもないアクセサリー、しかも高価なものを陣から貰うなんて本当に予想外で一瞬戸惑ってしまった。



「私、何も用意してないのに……」

「別にいい……気に入らなかったか」

「違う違う、すごく可愛いよ! ありがとう!」




 動揺してしまったものの、嬉しいかと聞かれれば嬉しいに決まっている。シャラン、とブレスレットを鳴らすように手首から滑らせる。偶然だけれどドレスとも合っていて、わざわざ選んだように全身のコーディネートの一部に嵌っている。


 嬉しいなあ、と思わず口元が緩んでしまい、へらへらと間の抜けた笑みを浮かべてしまう。



 いつまでも入り口でにやけている私に呆れたのか、陣は一つため息を吐くと私を引っ張るようにして会場へと入って行った。

















 パーティと言っても同学年だけが集まる気軽なものである。司会の挨拶が終われば皆好き勝手に話し、食べ、そして飲む。当たり前に用意されているお酒に「今日くらいいいか」と周りの空気に流されるようにして口に含んだ。


 成人してから三年目だというのに、私は今まで殆どお酒を口にしたことはなかった。薄っすら残っている前世の記憶が引っ掛かったというのもあるが、ためしに少しばかり飲んだビールが美味しくなかったのだ。


 しかし今何となく飲んだシャンパン? カクテル? 何か分からないがそれは美味しかった。すぐに飲み干してしまい渡されるままにお代わりを受け取った。




 しばらく時間が経ち、陣が私の元へやって来た時には既に私の脳内はお花畑になっていた。






「ひなた、お前どれだけ飲んだんだ……」

「えー? 三杯は飲んだよ? あと覚えてないけど」



 何だか楽しい気分になっている私とは違い、陣は平常通りである。ただし片手で頭を押さえて眉を顰めている。



「酒臭い」

「え、本当?」

「……来い。風にでも当たるぞ」



 自分で嗅いでみても分からない。私は陣に連れられて窓際へと移動することになった。流石に十二月なので外には出ないが、それでもやや開かれた窓の傍まで行けば涼しい風が吹いていて気持ちが良い。


 ふわふわした気分で陣に目を向けるが、彼はあまり楽しそうではなかった。……まあ陣が楽しそうにしている所なんて殆ど見たことがないけど。



「陣はお酒飲んでないの?」

「結構飲まされた」

「でも全然酔ってないね」

「酒を飲んで酔ったことはないな」



 へー、陣ってお酒強いんだ。これは意外だった。何故かと言うと父様はあまりお酒が得意ではないようで、すぐに顔が赤くなるからである。陣はよく父様に似ているのでお酒もあまり強くなさそうというイメージがあった。



「お前は全然強くないみたいだな」

「そんなに酔ってないよ。意識だってはっきりしてるし」

「そんなに顔を真っ赤にしておいてよく言う」



 そんなに赤いかな。鏡が無いので確認できないのだが掌を顔に当ててみる……うん、手も同じ温度なので分からない。


 首を傾げた私に陣は呆れたのか、自分の手を私の顔に当ててくる。




「冷たくて気持ちいいー」

「ほら見ろ」



 でも陣って元々あんまり体温高そうではないというか……と言い訳をしていると「酔っ払いは大人しく風に当たってろ」と私の顔から手を放した。


 陣の手を名残惜しく見送って、仕方がないので風に当たる。風に吹かれると先ほどパーティ前に貰ったブレスレットが揺れてシャランと音を立てた。



 それを見て再び笑みを溢しながら隣にいる陣を窺う。自分のことで精一杯で最初に会った時はあまり見ることが出来なかったが、こうして見ると式典用の制服をさらっと着こなしている陣はとてもかっこいい。藤原君も同じ格好をしていたはずなのだがあんまり思い出せなかった。


 横顔を眺めていると陣は訝しげな表情でこちらを見た。




「なんだよ、さっきから」

「え? かっこいいなって」

「……」

「やっぱり陣のこと好きだなあ」



 うんうんと頷いて納得していると「……そうか」と短い返事が来る。そうなんだよ! と力強く言葉を返すと、彼はくるりと踵を返して私に背を向けた。




「……先に、戻ってるからな」


 と、それだけ言った陣は私が口を開くよりも早く足早に去って行ってしまった。




 何か陣が嫌がることでも言っただろうかとぐるぐるする頭を更に回転させて自分の言葉を思い出してみる。




 ……。


 ……。



 ……あ。



 うわああああああっ!!





「え、まじで、私、口に出してた!?」



 陣のこと好きだって言っちゃった!?


 言葉にならない悲鳴を上げて頭を抱える。一気に頭が覚醒していくのが分かった。いやむしろ覚醒しないでほしい、自分の所業をまざまざと自覚するのが恐ろしくてたまらない。


 いくら少し酔っていたとはいえここまで自制心を奪われていたとは……お酒って怖い。






「ひなたちゃん? もうすぐ終わるからホールに戻った方がいいよ?」



 唸って遠巻きにされていた私に臆せず声を掛けて来た恭子ちゃん。彼女もお酒を飲んだのかほのかに頬を紅潮させている。



「どうかしたの?」

「……気にしないで」

「そうなの? ひなたちゃん酔ってるみたいだし手貸すよ。ほら」



 私の可笑しな行動を酔っ払いで片付けた彼女は、私の手を引いて歩き出す。



 大人しく恭子ちゃんに引っ張られるまま足を進めていたのだが、直後に彼女が発した言葉に、私は足を止めざるを得なくなった。





「そういえばさっき陣君とすれ違ったんだけど、陣君ってお酒弱いんだね。顔真っ赤になってたよ」

「え?」





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