表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本で騎士を目指します!  作者: とど
高等部編
80/93

71話 血筋

 高等部三年も後期に入り、徐々に寒々しくなってきた某日。今日の授業は特別で、なんと現役の騎士がわざわざ講義をしに来てくれるというのだ。


 騎士採用試験は年明け一月。就職する前に本物の騎士から話を聞ける良いチャンスということで、騎士科の面々は皆浮足立った様子で大教室へと足を運んでいる。




「ドキドキするね、みーちゃん」

「ええ、どんな話が聞けるのか楽しみですわ」



 そう言って柔らかく微笑むみーちゃん。彼女は前期の一件で、日本で騎士採用試験を受けることを決意したようで今回の講義を受講するのも気合が入っている。この所以前よりもずっと優しい表情が増えたように見えるのは決して気のせいではないだろう。何だか昔のみーちゃんを思い出すようで懐かしい気持ちになった。これもきっと藤原君のおかげだ。




「昴は身近に望月さんとかいるし、そんなに真新しいことは聞けないんじゃないの?」

「いや、あの人とはそんなに頻繁に会ってる訳じゃないし、第一やってることが特殊だからなあ」



 聞けば望月さんは昴の護衛の任務が終わった今は、桜将軍とは別の国王直属の騎士として働いているとのことだ。内紛の時のこともあり、あまり表に出たがらなかった彼は通常の騎士の仕事とは離れた任務を負っている為、昴の参考にはならないようである。……そもそも任務内容も教えられないらしいが。




「昴は、その……騎士になるんだよね」

「……まあ色々あったから、そう聞きたいのは分かるが。一応叔父上も俺が騎士になっても問題はないと太鼓判を押してくれたし、むしろ分かりやすく臣下に下ることになる訳だから立場をはっきりさせるには良いんだよな」



 国王に忠誠を誓う騎士の立場になれば、現政権に逆らわないというアピールにもなる。無論昴が反旗を翻す訳がないのだが、国民にはそう示しておかなければならない。






 そんな話をしていると、授業開始のチャイムが鳴り響く。ざわざわと騒がしかった教室内は即座に静まり返り、皆一心に前方の扉を見つめている。


 数秒と待たずに扉が開かれ、そして入って来た人物を見て私は心の中で「あっ」と声を漏らした。どこかで見たことがある顔だ。

 騎士らしく鍛え上げられた体にびし、と騎士の制服と来た若い男性は教壇の前まで来ると、少し緊張した様子で教室全体を見回した。




「今日この時間の講義を担当することになった、黒崎祐樹くろさきゆうきだ。まだ騎士になってから五年目だが、疑問や気になることがあれば気軽に聞いてくれて構わない」



 そうだ、思い出した。

 黒崎と名乗った騎士は、確か昔司お兄ちゃんと共に国王杯で優勝した人だ。あの後一度図書館で会ったきりだが、国王杯の時の戦いの姿が印象に残っていた為思い出すことが出来た。周囲にも気付いた人達がいるようで、こそこそと小さな声で情報交換を行っているのが聞こえてくる。




「はいはい、静かに。それじゃあまず、騎士の主な仕事内容から話そうか」



 パンパンと手を叩いて静寂を作り出すと、黒崎さんは黒板に背を向けてチョークを手に主な仕事を箇条書きで書き出し始めた。




・集団、または個人訓練

・要人の護衛

・公的行事の警備

・魔物討伐




「……他にも細かい仕事があったり、駐在する地方によってはまったく毛色の違う任務もあるが、首都近辺の騎士の仕事はこんな感じだ」



 そんなに派手な仕事じゃないぞ? と黒崎さんは茶化すように笑う。



「分かっているとは思うが騎士の仕事は体力勝負。すぐにへばるような根性の無いやつは到底なれないから注意しとけよ……まあ、高等部三年まで騎士科に残ったやつらに言うことじゃないか」



 中等部の最初を思い出してみても、騎士科の生徒数はかなり減っている。厳しい訓練に耐えかねた何人もの生徒が他の学科へ移り、残っているのは皆本気で騎士を目指す根性のある生徒ばかりである。




 それからそれぞれの仕事について詳しい説明がなされた後、今度は一枚の用紙が配られた。


 前から回って来た紙に、何のプリントだろうとすぐに覗き込むと、それは騎士採用試験への申込用紙だった。




「全員回ったか? ……それじゃあお待ちかねの採用試験についての説明だ」



 採用試験は毎年一月に行われ、合格した者は四月からそれぞれの配属先で騎士となる。


 試験に申し込めるのは騎士科の課程を修了した者、またはそれに準ずる実力と知識を認められた者で、しかし後者の理由で選ばれる人などほぼいない。基本的にはこの学園や、僅かに他に存在する騎士科の学科を持つ学校の生徒しか申し込むことができないのだという。




「申し込み用紙にも記載されているが、基本的に試験内容は直前まで秘密だ。試験の数日前に届く受験票と一緒に入っている書類で通知することになっている」



 黒崎さんはそこまで述べると暫し言葉を止め、そして茶目っ気のある笑みを浮かべて「ここだけの話だがな……」と再び口を開いた。



「俺達の時の採用試験の内容は、魔物討伐だったんだ」



 ええっ、試験でいきなり実践!?


 他の生徒もそう思ったのか、周囲にどよめきが走る。確かに魔物退治は新人の任務に課せられることもあるが、そもそも騎士にすらなっていない受験生に与えられる試験内容だとは思いもしなかった。


 私のイメージでは一人ずつ打ち合いをしたり、騎士に関係するペーパーテストがあったり……という想像をしていた。まあ、私達が受ける試験はどのようになるのかは分からないが。




「驚いたか? まあしかし、仮に俺達と同じ試験内容だったとしても然程強い個体がいる地域は選ばれないだろう。騎士科では授業で訓練用の魔物とも戦ったりしただろ? 本物の魔物も基本的に動きもスピードも大して変わらないから安心していい。……まあ、勿論油断すればどうなるかなんて、言うまでもないな」



 魔物には手痛い攻撃を受け、そして試験には落ちることだろう。そもそも採用試験で油断する人の方が少ないとは思うが。




「じゃあ、ここで問題だ。魔物に最も有効な攻撃手段は言うまでもなく魔術だが、騎士は自分の武器を使って倒すことになる。その時に狙うべきはどこか……」



 黒崎さんは答えさせる生徒を選んでいるのか教室全体をぐるりと見渡していたが、彼の様子を見ていた所為なのか、不意にバチッと音が鳴りそうなくらいがっちりと視線が合ってしまい思わず顔を引き攣らせてしまった。


 黒崎さんがにやりと笑うのが見える。



「そこの女子! ……鳴神、だな? 今の問題に答えろ」



 名前まで知られているとは思わずにびく、と体が跳ねた。隣の昴が小声で「よ、有名人」と囃し立てるのをやつの足を踏んで黙らせる。



「……魔物の体の中心部分、魔力の核を破壊すること、です」

「はい正解」



 流石にこれくらいの基礎知識はある。そもそも中等部、それも一年の最初の辺りで訓練用の魔物を相手にする時に教わったことだ。




「魔物を構成するものの殆どは魔力。そして核は、体全体の魔力を結合している部位にあたる。つまり核を破壊してしまえば魔物としての体を維持できなくなる訳だ」



 だからこそ初等部の頃に魔物に襲われた時は私一人では苦戦した。あんな木の棒では破壊するどころか、そもそも核に到達することさえ困難であったのだから。……当時の私にはそこまでの知識はなかったので、剣を持っていても倒せたかどうかは不明である。




「……まあ試験自体は何の課題になるか年によって違うが、実際に騎士になれば魔物討伐は当たり前に任務になるからな。復習しておいて損はないだろう」




 それから試験後の内定確定までの流れなどを一通り話した後、一度教室の時計を見上げて「ちょうど時間だな」と持っていた資料をまとめた。



「質問はこの後受け付けるからじゃんじゃんしてきていいぞ。それじゃあ諸君、四月に職場で会えることを期待している!」



 黒崎さんはそう言い……こう言っては何だがやけに偉そうに胸を張って話を締めた。






 ちなみに質問者が減ってきた辺りで、黒崎さんに何で私の名前を知っていたのか尋ねた所、何てことない口調で「司から聞いた」との返事が来た。



「あいつ何かにつけてはひなたがどうの、陣がどうのって話してるぞ? 妹みたいに思われてるんだな」

「ははは……」



 みたいも何も、本当の妹です。

 しかし司お兄ちゃん、そんなに私達のことを話題に出していたとは。




「そういえば、国王杯優勝おめでとう。司に録画したのを見せてもらったぞ」

「は、はは……何か、本当にすみません」



 ……お父さんの血の濃さを思い知った瞬間だった。






勿論ひなたにもその血は流れていますから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ