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日本で騎士を目指します!  作者: とど
高等部編
77/93

70話 間接

 あれから結局、みーちゃんと藤原君は何の変化もなく過ごしている。当たり前だ。私達が彼女の気持ちを知った所で、二人に、特に何も知らない藤原君には何の影響も及ぼさないのだから。


 ただみーちゃんの行動を注意深く見るようになった為、今までは気付かなかった行動の真意が見えてくるようになった。告白はしないと言ったが、嫉妬するのはまた別問題なのだろう。藤原君がまた告白されたと聞いて歯噛みしているみーちゃんを見てそう思った。




 そして、そんな風に彼女達の恋路に気を揉んでいれば、時間などあっという間に過ぎていく。勿論みーちゃん達のことだけではなく、剣術にも勉強にも真剣に取り組んだ所為だろう、私達は三年に上がっていた。


 五月の連休明けに学校へ来てみれば、先に登校していた昴の様子がおかしい。





「おはよー昴、どうしたの? 変な顔して」

「……変とは何だよ。おはよ」



 再び順位が入れ替わり私の前の席に座る昴は、何だかとても複雑な表情を浮かべていた。落ち込むとは違うのだが、少なくとも良いことがあった顔ではない。


 心配になって尋ねてみれば、昴は「お前には言ったことがあったよな……」と前置きしてからやや声を潜めた。



「俺が前に住んでた土地は、魔物の生息地と近いんだ」

「うん、りんともそこで会ったって言ってたよね?」

「ああ。それで昨日望月さんから電話があって……あ、望月さんって分かるか?」

「えーと、確か昴を守ってくれてた騎士の人だったっけ」



 一年の時の騒動の時にはりんを保護してくれていたり、国王様から頼まれて昴の護衛をしていた人だ。

 昴は私の言葉に、その通りと頷く。




「もうすぐ俺の住んでた場所の魔物狩りを騎士と魔術師合同で行うんだと」

「魔物狩り……」

「俺が気にすると思ったのか事前に教えてくれた。……実際、気になってはいるがな」




 詳しく聞けば、最近彼の地元では魔物の被害が増え始めているらしい。まだ大した被害は受けていないものの、確認されただけでも討伐対象になる数を越えているようなので、魔物狩りを行うことになったのだという。


 魔物自体は土地柄か、然程強い個体はいないらしい。被害も畑を荒らされた、市街地に降りてきたのを見た、などで人間に直接的な被害は殆どない。

 その為任務に向かう騎士や魔術師も新人が多く、現場に慣れさせる実地訓練のようなものになるらしい。



 こういう案件は然程珍しくない。年に二三回くらいはニュースで報道されているのを見る。魔物自体は一般人にしたらそうではないが、騎士達にしてみればそこまで脅威と見做されるものは少ないのだ。二匹とはいえ初等部の私達がなんとか倒せたことから考えても分かる。……まあ陣の魔術がなければやばかったが。



 だが時々、本当に強大な魔力を持つ魔物が生まれては、それを討伐した者は英雄扱いを受けている。





「仕方がないことだし、分かっていたことだ。だけど……何も出来ない自分が歯痒いな」

「昴……」

「悪いな、何か暗くて! とにかく今は俺が一刻も早く騎士になれるように頑張るべきだよな」



 悪い魔物は倒して、良い魔物はこっそり逃がす。以前に昴はそう言ったけど、魔物に守られていた過去を持つ彼が本当に悪いと認定された魔物を倒せるかどうかは私には分からない。




 恐らく空元気であろう彼に上手く言葉を返せずに沈黙していると、今度はみーちゃんが教室に入って来た。


 ……何故か、彼女も明るいとは言えない空気を纏っている。今日は何なんだ。




「……おはようございます」

「みーちゃんまで、どうしたの」

「いえ、その……実は」



 口籠った彼女は私達の傍までやってくると酷く困惑した表情で肝心の言葉を口にした。




「お見合いすることになったのです」


















「えー!? ミネルバちゃん、お見合いするの!?」

「……はい」



 その日のお昼休み。時々時間が合えば皆で集まってお弁当を食べるようになったのだが、みーちゃんの話を聞いて恭子ちゃんは箸を取り落しそうな勢いで驚いた。


 私だって、教室で最初に話を聞いた時は飛び上がるほど驚いた。確かに名家の子供が集まるこの学園ではそういう話はものすごく珍しいという訳ではない。しかし私の周りの人間はそんな話など今まで一切なかった上、みーちゃんの好きな人を知っているので余計に驚いたのだ。




「え」



 しかし、私達よりも驚いた人間は他に居た。みーちゃんの隣で衝撃発言を聞いた藤原君は箸どころか、手にしていたお弁当を丸々床に落としてしまったのだ。慌ててお弁当箱を拾い上げても中に残っているおかずは殆どない。



「大吾郎、何をやっているのです!」

「あ、ああ。悪い」



 一瞬呆けた後片付け始めるのを手伝うみーちゃん。そしてそんな二人を見ながら、私は隣の陣を押しのけて恭子ちゃんに耳打ちした。



「ね、ねえ、恭子ちゃん、これって……!」

「……やっぱりそう思うよね」



 私達が訳知り顔で頷き合っていると、陣に邪魔だ、と先ほどの位置まで戻される。


 お見合い発言にこれだけ動揺を見せたのだ。藤原君だってみーちゃんのこと、そういう意味で好意を抱いていると考えても全く見当違いという訳でもないのでは?



 みーちゃんのおかずを分けて貰っている藤原君を眺め、私は心の中でガッツポーズする。

 ちなみにみーちゃんは最近お弁当を手作りしているのだ。藤原君に食べて貰えて嬉しいのか頬が紅潮しているみーちゃんは、とても可愛らしい。



「そ、それで誰と見合いなんてするんだ?」

「詳しくはあまり聞いていないのですが、父の知り合いの息子だとは言っていました」



 見合い相手はイギリス人の男性で、何でも国王杯の見物に来ていた所でみーちゃんを見つけ、そのまま見合いを申し込んで来たのだと言う。彼女も父親に言われたばかりで相手が具体的に何歳かも分かっていないらしい。



 父親の知り合いの息子だと言うからにはものすごく年が離れているということは無さそうだが、どんな相手か分からないのは不安になるだろう。




「……それって、絶対に見合いしなくちゃいけないのか?」

「とりあえず会え、とは言われました。お父様も見合いの日に合わせて来日するので……まあ、強制ですわね」



 詳細を聞き出している藤原君に期待を込めつつ、しかし無理やり結婚させられることもあるのではないかと嫌な想像が湧く。


 みーちゃんのお父さんがどんな人かは分からないが、みーちゃんに優しい人だと良い。



「ミネルバ、大丈夫なのか」

「心配なさらなくても、子供じゃありませんし見合いくらい出来ますわ」



 藤原君が心配してくれているのが嬉しいのか、みーちゃんは少し元気になってそう言った。



 なんにせよ、無事に終わってくれることを祈るのみである。




 そんなことを考えながら二人を見ていた私を隣の陣が小突く。




「……ひなた」

「何? 卵焼き欲しいの?」



 黙ってお弁当箱を差し出してくる陣に、しょうがないなーと卵焼きを箸で掴んで入れる。代わりにハンバーグを貰うことにしよう。ちょっと早起きして作った力作なのでもう少し食べたかったのだ。




「おい、ハンバーグは取っておいたんだぞ」

「まだあるからいいでしょ。……はい、お茶」

「ん」



 自分のお茶を注ぐついでに陣のコップにもお代わりを入れておく。あー、お茶が美味しい。今日は五月にしては気温が高いので折角注いだお茶を瞬く間に飲み干してしまった。


 次に飲む時に注げばいいか、と考えながら陣から頂いたハンバーグを頬張った、その時。



「……完全に熟年夫婦だな」

「っ!」



 私達をなんだか呆れたように眺めていた昴が突然そんなことを言い出したものだから、思わずハンバーグが喉に詰まった。苦しむ私に気付いて、すぐさま陣がコップを渡してくれたから事なきを得たが、一口も噛んでいなかったハンバーグの圧迫力は凄まじく、喉が痛い。



「大丈夫か?」

「……なんとか」



 陣に返事を返しながら、恨めし気に昴を睨み付けるものの、やつは恭子ちゃんに話しかけていてこちらを見ようともしない。恭子ちゃんはちらちらと視線を送ってくるものの、昴を止めない所を見ると、彼女も向こうの味方なのだろう。



 よりにもよって、陣がいるところでそんなことを言うなんて、私の気持ちも考えてほしい。


 気付かれないように陣の顔を窺うが、しかし彼は非常に、本当に何事もなくお弁当を食べ続けている。聞こえていなかった訳ではないとは思うが、さらっと流せる言葉だったのだろう。




 何だか私だけが意識している状況が少し虚しくなって、大人しく食事を再開することにした。







陣のコップを使ったことに気付いていないひなたと、ひなたが自分のコップを使うことに何の抵抗もない陣。


次回から藤原君のターン。

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