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日本で騎士を目指します!  作者: とど
高等部編
72/93

65話 予選トーナメントと取り替えっこ

 国王杯の参加が締め切られて二週間後の休日、とうとう予選トーナメントが行われることになった。


 本戦に出場できるのは予選の各ブロックから一組、計八組である。ブロックごとに予選が行われる場所は違うので、本戦で戦う相手の情報が事前には得られにくくなっている。



 私と陣がいるのは第一演習場で、みーちゃん達は校庭に集合すると言っていた。




「陣、今日の調子は?」

「普通」

「なら大丈夫だね」



 体や頭にプロテクターを装着しながら軽口を叩く。


 ルールは予選も本戦も同じ。攻撃が八割方軽減される特殊な結界の中で二人一組で戦い、どちらかが通常時に致命傷になる攻撃をプロテクターに与えられると、ブザーが鳴って失格となる。




「……見られてるね」

「だろうな」



 剣の調子を確かめていると、周囲からこれでもかという程の視線を浴びる。鳴神と不知火という名前は、やはりそれだけ大きな物なのだ。中等部で騎士科に入った時も好奇と悪意の視線を厭きる程受けた。




「陣は魔術科に入って何か言われた? 不知火がー、とか」

「……いや、そんなに。初等部から知ってるやつらも多かったし、それに」

「それに?」

「最初の授業で黙らせた」


 流石は陣である。



 そんな話をしているうちに、予選のトーナメント表が張り出された。


 二人で見に行くとどうやら初戦の相手は三年の先輩達のペアだった。同学年なら授業風景でだいたいどのくらいの実力なのか把握することは出来るが、先輩ともなると未知の領域だ。



 まずは慎重に出方を見た方がいいかな、と考えていると私達の隣で表を見ていた生徒がにやにやと笑いながら殊更に大きな声で話し始めた。




「おい、俺らの相手、二年のあのペアだぞ?」

「ああ。名前だけは立派な、あいつらな」

「主席だとか聞いたが、どうせ名前で買ってるんだろ。それに今まであの藍川ってやつがトップだったんだろ? 国王杯で箔を付ける為に一番を譲って下さいってお願いでもしたのかもなー」



 酷く安っぽい挑発だった。正直言ってこんなものに乗る方が可笑しいというくらい、あからさまな発言だ。



「……陣」

「ああ」



 目を合わせずとも考えていることは分かる。


 一瞬でぶっ潰す。




 私達は見事に挑発に乗せられていた。敵の技量が分からないうちは慎重になれ、とは父様が私に口を酸っぱくして言うことだ。

 父様、ごめんなさい。慎重に戦える自信がありません。









「勝者、鳴神・不知火ペア!」



 試合が始まると同時に、私と陣はそれぞれ騎士科、魔術科の先輩を一瞬にして叩きのめした。ルールではどちらかのブザーが鳴れば失格なのだが、頭にきていた私達はそれぞれ一人ずつ倒し、同時に二つの音が演習場に鳴り響いた。


 先輩がどんな顔をしているかも見ずに端の観客席へと腰を下ろす。大きく息を吐いて落ち着いてみれば、だんだんと今になって冷静になってきた。





「今のじゃ駄目だ。全然コンビネーションとかじゃなかった」



 勝手に一対一で片付けただけである。桜将軍をなぞるこの大会でこんな戦い方は駄目だろう。今度こそ慎重にならなくては。

 反省している私の隣に陣が座る。




「別に気にしなくていいだろ」

「いやでもあんな戦い方じゃ、きっと勝てないよ」

「あいつらはあれで十分だったからそうした。強敵なら、言わずとも連携を取れるだろ」



 随分自信に満ちた発言だ。そんなことを言われると実際に戦う時に本当に大丈夫かと少々不安になるんだけどな。


 そう考えたのを悟られたのか、陣は片眉を上げてまるで先ほどの先輩みたいに、私を挑発するように言った。



「お前なら俺の考えてることくらい分かる、違うか?」

「……そんな風に言われれば頷くしかないじゃん」



 確かに長年の付き合いからか、陣の考えていることを手に取るように分かる時もある。特に戦闘中はそうだ。

 だが全てを理解している訳ではない。しかし「お前は俺を分かってるだろ」なんて言われれば、それに応えてみせようと思ってしまうではないか。


 我ながらつくづく単純な性格である。







 それからも特に苦労することなく試合が進み、予選決勝ではとどめに陣が華麗に魔術を決めて本戦出場を確定させた。


 パシ、と手の平を合わせてお互いを称えた後、本戦での注意事項を聞いて解散となった。





 着替えを済ませてから携帯を手に取るとみーちゃんからのメールが入っていた。どうやら彼女達も無事に本戦出場を決めたようだ。



「陣、みーちゃん達も勝ったって。お昼一緒に食べるって言ってるから行こう」

「分かった」



 一足先に準備を終えて演習場の前で待っていた陣にそう声を掛ける。ちょうど時間は十二時に差し掛かっており、動いたのでお腹も空いた。


 久しぶりにお弁当ではないので何を食べようかな、とわくわくしながら私は急かすように陣の手を引いた。

















 メールに書いてあった食堂に辿り着くと、そこには既に二人の姿があった。今日は休日で、予選に出る生徒や他に用事のある人以外は学校に来ていないので食堂はがらんとしている。それでもしっかりと食堂自体は運営されているので感謝である。


 ちょうど昼食を持ってきた所のようで、みーちゃんの前にはオムライス、藤原君の前にはカレーライスが湯気を立てて置かれている。美味しそうな匂いにますますお腹が減ってくる。




「待たせてごめんね」

「いや、そっちはどうだった……とは聞くまでもないか」

「当たり前だ」

「わたくし達だって楽勝でしたわ!」

「楽勝って程でもないだろ。主に俺の所為だけど」

「二人ともおめでとう。……あれ、みーちゃんその花どうしたの?」



 話しながら席に着くと、彼女のテーブルの隣にコップに入った一輪の花があることに気が付いた。青紫の可愛らしい花だ。


 みーちゃんは私の質問に少し狼狽えた後「大吾郎に貰いましたの」と少し恥ずかしそうに言った。



「何て言う花?」

「竜胆だよ。ちょうど時期的に咲いてたし、とりあえず予選通過の祝いと本戦で勝てることを祈ってな。……悪いがお前には無いぞ、敵に塩を送れるほど余裕はないからな」



 藤原君曰く、竜胆の花言葉は勝利とのこと。なるほど、確かに私達に渡すには相応しくないだろう。


 それにしても花を贈るなんて、藤原君って結構気障だよね。まあ単に花が好きなだけなんだろうけど。花言葉なんて普通知らない物だと思うのだが、それは私が女から遠ざかっているだけなんだろうか。




「それに、ひなたに花なんて渡した日には――」

「ひなた、さっさと食券買いに行くぞ。大吾郎達は先に食べててくれ」

「え? ああ、うん」



 そうだった、花に気を取られてちょっと忘れていた。陣に促されて立ち上がり、食券販売機に向かう。



 どれにしようかな。みーちゃんが頼んだオムライスも美味しそうだったし、カルボナーラも捨てがたい。あっでも色々ついたランチセットもいい。


 ……カルボナーラか、ハンバーグか、どっちにするべきだ。




「陣ってもう決めてるの?」

「ハンバーグ」

「じゃあカルボナーラにしよっと」



 発券ボタンを押して、食券を厨房へと差し出すと「すぐに出せるからちょっと待ってねー」と声が掛かる。注文する人が殆どいないので早く出来るのだろう。


 ほかほかのお昼ご飯を持って二人の元へと戻る。ここの食堂のメニューは初めてだったが美味しかった。

 ちらりと陣を窺うと、人の食事を狙う卑しい思考を読まれたのか、無言でハンバーグの皿をこちらに寄せてきた。私も代わりに自分の皿を陣の方へ回す。ちなみに、流石にフォークは自分の物である。




「美味しい?」

「まあまあ」

「ハンバーグも美味しいね。今度来た時に頼もう」



 一口ずつ食べると皿を元に戻す。そんな私達の様子を見ていた藤原君は頬杖を付いて呆れたように「お前ら本当に仲良いなあ」と呟いた。仲が良いというよりはハンバーグを食べたかった私に陣が付き合ってくれただけだと思うけど。




「本戦まではまだ結構時間あるよね、楽しみ」

「ひなた、わたくし達と当たるまでに負けるなんて許しませんわよ」

「お前らと当たるまで、俺達がどうにか進めればいいんだがな」

「大吾郎、何を弱気になっているのです! 先ほどの魔術コントロールは素晴らしかったではないですか」

「ああ、ありがとう。……だけど結構ギリギリだったし、ミネルバの足を引っ張らないように、何か考えておかねえとな」



 佐々木にでも相談してみるか、と少しずつカレーを口に運びながら頭を捻らせる藤原君に、それを激励するみーちゃん。なんだかんだで、この二人も仲良いんだよね。最初にみーちゃんと組んでくれと言った手前、上手くいっているようで本当によかった。




「藤原君、カレー美味しい?」

「……辛い」



 そういえば藤原君は甘口派だったな。結局途中まで頑張った藤原君だったが、最終的にみーちゃんに交換してもらっていた。ケチャップライスにほっとしている彼を見て、ちょっと笑ってしまった。





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