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日本で騎士を目指します!  作者: とど
高等部編
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62話 機械越しの真意

 とうとう、昴と面会できる算段が整ったと秋乃さんから連絡が入った。それを聞いて私は彼女と会う為に慌てて待ち合わせ場所に指定された不知火家へと急いだ。



 インターホンで呼び出している間も待ちきれず、玄関の扉が開くのをひたすら待っていると珍しく顔を出したのはおじさんだった。


 普段は勿論佐伯さんが出てくるため、不意を突かれて驚いた。




「こんにちは、おじさん」

「ひなた、よく来たね。お父さん待ってたぞ」



 笑顔でそういいながら「お父さん」をやたらと強調するおじさん。確かにおじさんは本当に私のお父さんなのだから、そう言った方がいいのは分かっている。だがどうにもいざ本人を目の前にすると、恥ずかしさやら気まずさが先行して口に出すのを憚られるのだ。


 司お兄ちゃんも、以前から呼んでいなければとてもじゃないが、兄と呼ぶことは出来なかっただろう。

 さあお父さんと呼んでくれとばかりの視線に、私は息を呑んで何とか声を出した。




「お……とう、さん」

「ひなた!」



 最後まで言い切った私をおじさん……じゃない、お父さんは感極まったようにぎゅっと抱きしめてくる。


 ……苦しい。ばたばたと手を振って苦しさアピールをするのだが全く気付かれていない。ちょっと呼吸が辛くなって来た頃、いつまでも玄関にいる私達に痺れを切らしたらしい陣と秋乃さんが呆れた顔でやって来た。



「……いつまでやってるんだよ」

「優一、早くひなたを放してさっさと家に上がりなさい。話も出来ないじゃない」



 あれ、この二人案外上手くやっていけるかもしれない。






 おじさんに放されて陣と秋乃さんに挨拶する。……いつ見ても思うのだが、彼女のセンスはちょっとおかしい。服はまだましな方だが相変わらずアクセサリーのゴテゴテ感がすごいのだ。この間の一件でこのアクセサリーは魔道具でただの装飾品ではないことは分かっているものの、それでももう少し減らした方がいいのではないかと、勝手に失礼なことを思う。



 二人に促されてリビングへやってくると、まず秋乃さんが「ごめんなさい」と謝ってきた。もしかして面会は中止になってしまったのかと考えたがそうではなかった。




「前国王派の人間とコンタクトを取ってなんとか藍川昴との面会の約束は出来たのだけれど……ひなたは立ち会うことが出来ないの」

「え? どうして」

「鳴神は国王派だろう。いくらなんでも中立の人間ならまだしも、敵に合わせる訳にはいかないってことだ」



 うちは父様が国王様と親しかった為国王派だと見なされている。それは仕方がないけど、それで昴に会うことが叶わないなんて。


 期待していた分余計に落ち込んでしまった私に陣が慰めるように声を掛けてきた。



「お前の代わりに俺が話を聞いて来てやるから、こっちに任せろ」

「……うん、お願いね」



 行けないものはしょうがない。もやもやしたものは残るが、それでも陣に任せておけば大丈夫だと、そう思えるから安心だ。結局面会には陣と秋乃さんの二人で行くことになった。


 この面会は非公式で基本的に向こうの人間には知られていないらしい。秋乃さんの伝手の人の協力を得て出来る限りこっそりと行うのだ。何とか時間が取れたのが今日だったので、私はこのまま陣が帰宅するまで不知火の家で待たせてもらうことになった。


 あまり時間も取れないだろうとのことで、上手くやってくれることを祈るしかない。
















 陣が帰って来たのは出掛けてから三時間後のことだった。


 少し疲れた顔で戻ってきた陣に、私は飼い主が帰ってきた犬のように飛び掛かってしまった。



「ど、ど、どうだった!?」

「少しは休ませろ」

「すみません……」



 非公式だと言っていたし、やはりばれないように神経を使ったのだろう。私は陣の荷物を受け取ってリビングへと戻ると「お疲れ様」と陣を労わって、彼が回復するのを待った。


 お茶で喉を潤した陣は一息吐くと、彼は胸ポケットから小さな機械を取り出す。




「何?」

「レコーダー。お前も直接聞いた方が分かりやすいだろ」



 日程が決まったのは急だったがしっかりと準備していたらしい。

 陣が再生ボタンを押して音量を上げると、次第に聞き慣れた声が耳に入って来た。






『……久しぶりだな』


 数か月ぶりに聞く昴の声に私は思わず身を乗り出す。




『あまり時間がないから手短に行くぞ。防音魔術は使ってる』

『迷惑かけて、悪かった。……あの日、先生に呼び出されて学校に行っただろ? そしたら突然あいつらに掴まったんだ。先生もグルだった、というかむしろあいつが俺を見つけた張本人みたいだった』



 はあ、とため息を吐くのが聞こえる。言葉をまとめているのか、昴はしばし沈黙した後再び話を続けた。




『……それからはずっとここで軟禁状態だ。外で何が起こってるのかも分からねえし、会いに来るやつは皆俺を王に仕立て上げようと色々言ってくる』

『ひとつ聞きたい、正直に答えろ。……お前は王になる気はあるのか?』




 どくん、と緊張で鼓動が大きくなるのを感じた。私も、秋乃さんも、陣も。国民の誰もが聞きたかったであろう質問だ。



 けれどそんな重大な問いに、昴は酷く簡潔に答えを出した。



『全く』

『本当だな?』

『そもそもいきなり“貴方は前国王のご子息です。王になって下さい”って言われて頷ける方が可笑しい。王になりたいなんてこれっぽっちも思わないし、なれる器でもない』

『世論ではお前は悲劇の王子として担ぎ上げられてるぞ』

『……そんなこと言われてもな。俺はただ、騎士科にいた時のように当たり前に暮らせれば、それで良かったのに』



 上手くいかないもんだな、自嘲するように息が漏れる。




『そうだ、りんのことなんだが……俺が捕まる直前でなんとか逃がせたんだが、見つかってないよな?』

『ああ、そんな話は聞いてない』

『良かった。あいつは頭がいいから見つからないように気を付けてるとは思うが、もし見つけたら保護してくれると助かる。知ってる魔力の持ち主には自分から接触するだろうから』

『ああ』



 良かった、りんはちゃんと逃げたのか。現在の所在は不明だけど、少なくとも昴が捕まった時点で殺されていないことだけは分かり、少しだけ安堵する。





『……今朝ここに来たやつが言ってたんだが、三日後に俺を正式に次期国王に擁立する為に公開演説をするらしい。これが渡された原稿だ』

『見ていいのか?』

『絶対笑うぞ』



 ぺらりと紙を捲る音が聞こえる。どんな内容だったのかと陣に尋ねると、彼はレコーダーの音声と異口同音に言葉を発した。



「『酷い文章だ』」


『だろ。俺は今まで虐げられてきましたーとか同情を引かせて、強硬派の連中に命を狙われてーと今の政権に不信感を持たせようとしてる』

『概ね事実だがな』

『そんでもって、暗殺された父の無念を晴らす為王になる――こんなこと、大勢の人間の前で言えだとさ』



『……それで、お前はどうするつもりだ』

『……』





 沈黙したレコーダーに私は深呼吸して次の言葉を待つ。この機械の向こう側で、昴は一体どんな顔をしていたというのか。




『……場所は、人の集めやすさから学園で行うと言われた。今までずっとここ閉じ込められていたが、ようやく外に出られる……逃走出来るかもしれない』

『お前の周囲は前国王派の連中が固めるだろう。逃走出来るかもしれない、だが出来ないかもしれない』

『何が言いたい』

『むしろお前が俺達に言うことがあるんじゃないのか』



 再び無言になったレコーダーから視線を陣に移すと、彼もこちらを見ていた。


 先ほどよりもずっと長い静寂の後、絞り出すような声でようやく昴が言葉を発する。





『助けて、くれ』

『遅い、とひなたなら言うだろうな』



 よく分かってらっしゃる、と陣に向かってにやりと笑った。

 昴さえこちらに戻って来られれば、向こうの手札は無くなるも同然だ。



 と、今まで黙っていた秋乃さんがようやく口を開いた。




『伯母さん』

『分かっています。当日の警備はこちらでも把握しておくので、あなたは向こうを油断させる為に演説までは大人しくしていて下さい』

『分かりました。……ありがとうございます』

『それは成功してから聞きます』



「そういえば秋乃さんはここに寄らなかったの?」



 出掛けたのは二人だったが、帰ってきたのは陣だけだった。




「時間もないからな、今から色んな人に根回しに行くんだとさ。……すごい人だな」

「うん」








 一旦音声が途切れたのでこれで終わりかと思ったのだが、しかしレコーダーを止めようとした私の手を陣が掴んで制止した。


 どうしたのかと思っていると、数秒後に再び陣の声が聞こえてくる。




『誰かに伝えたいことはあるか? 例えば……恭子に』

『それは……』

『この会話は録音してあるから、言いたいことがあるならそのまま吹き込めばいい』




 昴に気を遣ったのか陣がそう尋ねると、昴はちょっと待ってくれ、と黙った後に少し緊張した声で話始めた。レコーダーを受け取ったのか先ほどよりも声が近くなる。




『恭子、ごめん。多分すげえ心配かけてるよな。もう愛想尽かされてるかもしれないけど、それでも、もしまだ俺を想ってくれてるなら……もう少しだけ待ってくれ。絶対に帰るから』




 ……そこまでで、音声は完全に途切れた。


 短い言葉だったけど、もう少しで会えるのだ。話すのはその時にとっておけばいいと思ったのかもしれない。





「陣、このデータ持って帰っていい? 恭子ちゃんに聞かせてあげたいし」

「ああ、伯母さんも自分で録音してたからこれはお前と恭子に聞かせる為の物だ。好きにしていい」

「ありがとう」




 皆の協力で昴の気持ちは分かった。ならば後は腹を括って昴を助け出すだけだ。





 演説まであと三日、時間はない。




 とりあえず私は、恭子ちゃんにメッセージを聞かせる為、携帯を取るのだった。







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