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日本で騎士を目指します!  作者: とど
中等部編
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50話 進級試験とクラス替え

「はい、問題です!」



 無事に昴も退院し二年生もそろそろ終わりを迎えようかという時期だ。

 私は問題集を片手に立ち上がり、不思議そうにこちらを見た二人プラス一匹を見回した。




「人体の中で一番魔力が溜まりやすい場所はどこでしょうか」

「そんなの簡単ですわ。勿論――」

「いやミネルバ、ちょっと待て。ひなた、問題を出すということは当然お前は答えを分かってるんだろうな?」

「え、その」



 ……分かっていません。答えが分からずに鬱々としていたものだから、気分転換をしたかっただけである。昴がにやにやとこちらを面白がるように見ているのかむかつく。自分は分かっているからって。




「きゅー、きゅ」

「りん、どうした?」



 今日も愛くるしいりんは昴と何かしらの会話をしている。……こんなに可愛い生き物と意思疎通できるなんて少し羨ましい。


 昴はあれから不知火家へ滞在している。その費用についてはおじさんが何とかしてくれたらしく、学園から支給されることになったのだという。……セキュリティの問題で寮に住めないのである意味妥当とも言えなくもないが、そういう所はしっかりと責任を取らせるんだなあ、と子煩悩な姿しか見たことがなかったおじさんの新しい一面を見た気がする。


 そういえばおじさんって不知火の当主なんだよね、全然イメージ出来ないけど。

 一番心配だったのはりんのことだが、おじさんはりんのことも許容してくれたようだし一安心だ。



 ちなみにお兄ちゃんは研究機関に入ってからは中々家に帰って来ていないようで、昴のことは知っているものの、殆ど顔を合わせていないとのことだ。……失恋で仕事に打ち込んでいる訳じゃないよね、そうだよね?





「ひなた、今の答えりんでも分かったぞ」

「ええ!?」

「たまに俺の教科書覗き込んでたし、魔力のことだったら自分自身のことみたいなものだからな」



 なー、りん。と昴がりんに話しかけるとりんは後ろ足だけで立ち上がり、そしてその短い前足で顔――正確に言うと目を覆うようにした。



「本当に分かってるのですね。答えが目だって」

「え、そういうことなの?」



 私の言葉に答えるように前足を戻したりんはどうだ、とばかりに私に掛け寄ってきて再び目を覆った。可愛すぎるだろう。




「でも目が一番魔力が溜まりやすい場所なら、なんで皆手で魔術を使ってるの?」


 魔力が溜めやすい場所から魔術を使った方が楽なのではないのか? 目からビームを出すシュールな光景が浮かんで微妙な気持ちになった。

 私の言葉に昴は可哀想なものを見る目で「アホか」と口にする。



「目は受容器だから魔力を溜めることが出来ても放出することは出来ないんだよ。だから魔術を受けた時は一番に目を守らないと大変なことになる。魔力が溜まりやすいってことは最も魔術の影響を受けるってことだからな」

「そうなのか……」



 魔術の授業は嫌いではないけど、本当に難しいなあ。私にもうちょっと魔力があれば分かりやすかったのかもしれないのだけど。



「ひなたは魔術を視認することはできるでしょう。魔力の欠片しか持ち合わせていないあなたでも魔術を認識できるのは、目に魔力が溜まっているからですわ」

「あー、そう言われれば分かる気がする」



 以前陣が拡声器の魔術を使った時も、私は一番被害を受けなかった。でも雷の魔術を使うのはしっかりと見ることが出来る。耳よりも目の方が遥かに魔術に対する影響力が高いのか。


 なるほど、と納得した私を見てみーちゃんは呆れたような視線を向けてきた。何だか最近よくこの表情を見る気がする。




「あなた、それで進級試験は本当に大丈夫なんですの?」

「だ、大丈夫だよ……多分」



 初等部同様、あまりに成績が悪いと留年してしまうのは当然だが、しかし今年はそれ以上に成績が重要になる理由があるのだ。



「鳴神が二組になんてなったら、ここぞとばかりに言いたい放題言われるぞ」

「だよねえ」

「他人事のように言わないでくださらない?」



 そう、初等部の頃から行われていなかったクラス替えが、この学年のみ行われるのだ。


 クラスは成績順に一組から五組まで振り分けられ、更に後期になると再度成績順にクラス替えがされることになっている。進級時に成績が振るわなくても挽回できるということだ。



 今までクラス替えなどなかったのにここに来て突然行われる理由はただ一つ、振るい掛けだ。高等部の騎士科は中等部とは比べものにならないくらいシビアらしく、毎年止める者が後を絶たないという。そして諦めなかった者達の中でも騎士になれる人間は限られている。


 ちなみに兄様から聞いた話だが、五組になった生徒は基本的に騎士を諦めた方がいいという学園からの通告のようなものらしい。このクラスに振り分けられた大半の生徒は高等部に上がる時に学科を移籍している。



 五組になる気は端からないが、それでも一組から落ちるようでは桜将軍になるなど到底不可能だろう。というか父様に知られたら即刻剣を捨てろと言われかねない。




「うちの学科は剣術の成績を重視してくれるから多分大丈夫だもん」

「まあ確かにそうだが」



 そこが騎士科の良い所である。魔術や歴史がちょっとくらい出来なくても剣術でカバーできるのだから。

 そうと決まれば進まない勉強よりも剣を振っていた方が効率的な気がしてきた。



「ちょっと演習場行ってくる」

「またですの? 朝も行ってましたのに」

「やっぱり体を動かさないと落ち着かなくて」



 私は荷物をまとめて、彼らに手を振りつつ理科準備室を飛び出した。そして全速力で演習場に辿り着くと、空いている訓練室に入って準備運動を始める。


 走ってきたものの、まだまだ体力は有り余っている。体力馬鹿と揶揄されることもあるが、本当に体力と回復力だけは人一倍あるのだ。皆が休んでいる間にも練習が出来るので大変お得である。

 しっかりと汗を流してしまえば、試験への不安などどこかへ飛んで行ってしまった。
















 そして、時間はあっという間に流れて行ってしまった。無事に試験を終えた私達は高揚感と緊張を同時に味わいながら新学期を迎えていた。



「陣、昴、おはよー」



 校舎へ向かう途中で歩いていた二人の後姿を見つけ、私は駆け足で彼らの元へ向かう。



「ひなた、おはよ」

「……はよ」



 陣は眠そうだ。騎士科と同じく魔術科もクラス替えが行われるっていうのに全然緊張した様子がない。

 それはそうか、陣は魔術も他の学科もどちらも得意なのだから。


 そういえば昴に言われるまで気が付かなかったのだが、いつの間にか陣と以前のように普通に話すことが出来るようになっていた。昴のことで色々あってそんなことを考えている暇がなかったとも言えるが、こうして楽しく過ごせるようになれたのは本当に良かった。



 ……とはいえ私の気持ちが冷めたとかそういう訳ではない。陣のことは相変わらず好きだしかっこいいなあなんて思ってしまうけど、なんだか落ち着くところに落ち着いたというか。ドキドキすることもあるけど、やっぱり陣の隣が一番居心地がいいのである。






 途中で魔術科の校舎へ行く陣と別れ、昴と共に騎士科の校舎に辿り着く。靴を替えて中に入ると、一番に目に入ったのは三年のクラス表であった。


 さながら受験の合格発表の様相を成している人混みの中にみーちゃんを見つけて声を掛ける。彼女はクラス表を見ようと背伸びをしたり人混みに割り込もうとしていたが、中々上手くいってなかったようで、私の声に振り向くと諦めてこちらへやってきた。



「みーちゃんおはよ。すごい人だね」

「ええ、さっきからずっとこんな調子でまだ見れていませんの」


 みーちゃんは女子の中では背が高い方なのだが、騎士科は圧倒的に男子の割合が多い為、そのアドバンテージを生かすことが出来なかった。



 別に時間が迫っているわけでもないので三人で雑談をしながら人が空くのを待っていると、予鈴が鳴る五分前になってようやく人が減ってきた。


 三人で一斉に表の前に立ち、上から順に名前を辿り始めようとして私の目は一瞬にして固定された。どうやらこの名簿、クラス内でも五十音順ではなく成績順になっているらしい。最初に昴の名前があったので一瞬気付かなかったのだが、その下に鳴神の文字があったことに驚き、そして理解した。



 ……昴に負けた。まあ総合順位なのだから仕方がないのだけど。むしろあれだけ学科の一部が足を引っ張っていてこの順位なら逆にすごいのではないだろうか。




「え……」



 隣で聞こえた言葉に私はみーちゃんの方を振り向く。彼女は名簿を必死に目で追っていたものの、表情を凍らせて何度も何度も同じ場所を行ったり来たりと繰り返しているのだ。


 嫌な予感がした。

 私は鳴神の後から順に名前を辿って行った。知っている名前も知らない名前も混在している中、あれだけ簡単に見つけられるはずの名前が目に入って来ないのだ。



「ない……?」


 ぽつりと呟いた言葉に隣の金色の髪が揺れた。



 一組を最後まで辿っても、ミネルバ・ブラッドレイという文字は存在しなかったのだ。





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