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日本で騎士を目指します!  作者: とど
中等部編
47/93

46話 乙女モード暴走中

 陣が好きだ。

 そうはっきりと自覚した。けれど……。




「どうすればいいんだ……」



 次の日学校へ登校した私はぐったりと机に身を預けて考え込んでいた。

 好きだとようやく分かったところで、それからどうすればいいのかちっとも分からないのである。


 他の人はどうしていたっけ。恭子ちゃんは度々騎士科を訪れ昴に話しかけている。姫様は誕生日に特別なプレゼントを贈ったり、告白してしまっている。



 告白……。

 無理だ、絶対に無理だ。


 今陣に会うことさえ想像するだけで恥ずかしいのに、その上告白なんて出来るはずがない。もし断られたら、今までの関係が全部崩れてしまうかもしれない。










「あー」


「今日のひなたは本当に変だな」

「あなたが変なのはいつもですけど、今日はいつにも増して変ですわ」



 結局午前中の授業は何にも頭に入らないまま終わってしまった。実技がなかっただけ良かった。剣術の授業でこんな醜態を晒してしまえばきっと大変なことになっていただろう。

 外はいつになく気持ちのいい晴天なのに、なんで私こんなにため息ばっかり吐いているんだろう。



 昼休みになっても頭を伏せて放心していた私に、昴とみーちゃんが酷いことを言う。

 けれどその言葉に軽口を返す余裕すら今の私にはなかった。顔を上げてみれば、少し心配そうな顔をした二人がいた。




「どうしたんですの、本当に」

「ちょっとね……」

「はいはい立った立った。こんな所でぐだぐだやってないで、お昼食べようぜ」



 今日は食堂でもいかないか? と強引に私を立たせた昴は、私にお弁当を持たせて手を引いた。私の後ろからはみーちゃんが背中を押し出すように歩き出し、まるで連行される容疑者のように私は教室を出た。


 歩いていると意識がクリアになってくる。こうやって無理やり外に出してくれた二人に感謝しなければ。




「昴、みーちゃん。あの、ありがとね」

「気にするなよ」

「あなたがぼーっとしているのを見ると苛々しますわ」



 つんとした態度を崩さないみーちゃんを見ると、なんだかいつも通りで安心した。そう、私が何を思おうと、いつも通りの日常は流れているのである。


 へらっと笑うと、二人はしょうがない奴だなと笑った。

 そういえばお腹が空いてきた。今日のお弁当は何かな……。








 食堂に到着する。この学園にはいくつか食堂があるのだが、外が晴れているからか今日はあまりここで昼食をとっている生徒は多くはなかった。



「お、珍しいな。ひなたが食堂に来るなんて」



 探さなくても空いている席に三人で座ろうとした時、食堂のランチセットの乗ったトレーを抱えた藤原君が突然後方から声を掛けてきた。


 私は振り向くと同時に一瞬固まり、そして今まで剣術の特訓で鍛え上げた瞬発力を持って、すぐさま昴の後ろに隠れた。



「何やってんだ?」


 教室で手を引かれてからずっと掴まれていたため、背後に回り込むと昴の腕が後ろに回り、小さくうめき声を上げた。ごめん、手を掴まれていたのは忘れていたし勢い余ってしまった。



「ちょっと隠して」



 藤原君がいるということは、高確率でやつも一緒にいるはずなのだ。


 私は昴の肩越しに藤原君を見て、そして恐る恐る更にその後ろに目を向けようとするが……。




「お前何してるんだよ」



 それ以上に早く近づいてきた陣に引っ張り出されてしまった。え、陣ってこんなに素早かったっけ。


 というか、よりにもよって何で二人がここにいるんだ。魔術科からこの食堂は遠いだろうに。そう思ったのだが後で尋ねてみたところ、ここの学食が一番量が多いから、だそうだ。そうだね、ほぼ騎士科の食堂と化しているからね。


 昴の腕を放しびくびくしながら陣を見上げると、彼は非常に機嫌が悪いようでいつになく怖い顔で私を見下ろしてきた。やめてよ、至近距離でその顔で見下ろされると怖い。それに今は陣がどんな表情をしていようと、彼を見るだけで頭が真っ白になってしまう。




 陣を目の前にしてわたわたしていると、そんな私をまったく無視して昴が「せっかくだから一緒に食べようぜ」と二人に提案していた。


 さっきみたいに空気読んでよ!



 案の定二人は昴の提案を受け入れて、五つ席が空いているテーブルへと移動することになった。私は真っ先に端の席を選び、更に隣にみーちゃんを座らせる。陣の隣なんて座ったら緊張して何もしゃべれなくなってしまうだろう。


 みーちゃんが隣に座って安心した所で、私は固まった。完全に油断していたのだ、目の前の席に藤原君か昴を座らせなければならないことを失念していた。



 既に学食を持っていた二人は、特に何の相談をすることもなく、みーちゃんの前に藤原君が座り、そして私の前に陣が腰を下ろす。昴はみーちゃんの隣だ。


 思わず正面を凝視し、そして赤い顔を見られたくなくてすぐさま下を向くと「なんだよ」と低い声が頭に叩き付けられる。まだ機嫌は悪そうだ。





「こいつ何か今日変なんだよ、あんまり気にしないでやってくれ」


「……ひなた。もしかして昨日、あの後また何かあったのか?」




 俯いた私をフォローするように昴がそう二人に訴えると、酷く心配したような声色で藤原君にそう問いかけられた。昨日という言葉に思わず顔を上げてしまったものの、彼が言いたいのは陣の話ではない。あの碌でもない男に罵倒された件だろう。



「昨日って、何かあったんですの?」

「こいつ実は昨日」

「なんでもない、なんでもないから!」



 わざわざあんな出来事吹聴しなくてもいいから! あんな男に言われたことで落ち込んでしまったのは正直忘れたい記憶なのだ。



「そんなに隠さなければならないようなことなのか」

「そういう……訳じゃないけど。とにかく、何でもないって!」



 陣が私を威圧するように追及してきたけど、知らなくてもいいことだ。強引に話を終わらせると、彼は拗ねたようにランチセットを食べ始めた。


 陣に釣られて皆も昼食を開始する。私もみーちゃんに別の話題を振り、なんとか正面に目を向けないように気を付けた。しかし所々で陣から質問が飛び、さりげなく昨日の話を聞き出そうとしてくるので困る。兄様のように誘導尋問が上手い訳ではないので躱すことは出来るが、昴まで絡んでくると厄介だ。



 そして私は最後まで殆ど陣と目を合わせることなく昼食を終えることに成功した。














「さあ、全て吐きなさい!」


 けれど、みーちゃんの猛攻を回避することだけは失敗してしまったのだった。



 以前昴がりんのことで追及されたように、同じく誰も使用しない理科準備室で私はみーちゃんに問い詰められていたのである。何で今日の私は事件の容疑者のような扱いが多いのだろうか。隣の机では昴がりんと遊びながらもしっかりとこちらの話に耳を傾けていることが分かる。



「全てと言われても……」

「あなたが何を悩んでいるのか分かりませんが、とにかく思い当たる所を洗い浚い全て話しなさい」



 わたくしにも話せないことがあるというの!? と何故か怒られながら私はみーちゃんを窺う。言葉はきついが心配してくれているのだろう、張り上げた声とは裏腹に眉は下がり不安げな表情を浮かべていた。


 う、一方的に責められるならともかく、こんなに心配させてしまうとは予想外だった。


 しかも悩みと言っても陣を好きになってしまったという心配する必要も何もない内容である。余計に言い辛いのだが、黙っていると更に大ごとだと思われてしまうだろう。



 私は仕方なく、昨日の出来事から順番に自白し始めたのだった。




 最初の経営学科の男の話を聞いている時は非常に憤りに満ちた顔をしていたみーちゃんであったが、後半部分に差し掛かるにつれてどんどん表情が呆れたものに変わっていってしまった。




「ひなたお前、朝からそんなことで悩んでたのか? アホだろ」

「だから話したくなかったのに!」


「最初の下種男には後で制裁を加えるとして……ひなた、結局あなた何を悩んでいるのです? あの男を好きになったというならそれで何の問題があると言うの」

「え……いや、これからどうすればいいかなーとか、陣はどう思ってるのかなーとか……っていうか、結局告白の返事がどうなったのかも知らないし」



 陣が告白されているのを見て自覚した癖に、その告白自体がどうなったのかという疑問に今更辿り着いた。普段はもっとましな頭をしていると自負しているのだが、今回に限ってはもう自分でも混乱しすぎていて冷静に物事を考えていられない。




「そんなの本人に聞けばすぐに解決しますわ」

「そりゃあそうだけどさ……」



 好きな人に直接聞くことの出来るような根性のある人は中々いないと思うよ。それも告白現場を盗み見した所から話さなくてはならないのだから。


 ぐだぐだと言い訳を続ける私に、みーちゃんは本当にしょうがない人ですわね、と大きくため息を吐いていた。

 ごめん、この件に関して私はもう駄目だ。















 次の日、少しはいつもの調子を取り戻した私に降りかかったのはみーちゃんのとんでもない爆弾発言だった。



「ひなた、安心なさい。このわたくしが直々にあの男に話を聞いてきてあげましたわ!」

「……え?」



 驚きすぎてそれだけしか声にならなかった。私は一瞬呆けた後にみーちゃんに掴み掛らんばかりに詰め寄ってしまう。


 みーちゃんが行動力があることは分かっていたが、まさか直接聞きに行くという所までは考えていなかった。せいぜい私に聞くように無理やり促す程度であると思い込んでいたのだ。



「きっぱり断ったと言ってましたわ。良かったですわね、ひなた」

「そう……だね」




 みーちゃんの言葉に、強張っていた体が落ち着いていく。そっか、断ったのか。


 相手の女の子には酷いと思うけど、私は心底ほっとしてしまった。陣の隣が他の誰かのものになるなんて思いたくなかったから。



 安心した所で、不意に私はとてつもなく嫌な予感に襲われた。直接聞けばいいと言っていたみーちゃんだ。一体どんな聞き方をしたのか、恐ろしくてたまらない。

 私は言おうか言わないか悩んだのち、結局彼女の尋ねてしまった。




「な、なんて言って聞き出したの……?」

「そのままですわ。告白の返事はどうしたのか、ひなたがとても気になって悩んでいるから教えなさい、と」

「うわああああ!」



 周りのクラスメイトに構わず私は思い切り叫んでしまった。







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