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日本で騎士を目指します!  作者: とど
中等部編
43/93

42話 桜の中、重大発表!

 前世の日本との違いに今まで色々と驚いてきたが、それ以外にも中々大きな違いというものがまだまだある。

 この日本では中学を卒業すると、成人式があり大人だと認められるのだ。


 前世を知っている身からすればまだ子供なのではないかとも感じられるものの、成人年齢が低ければそれなりに精神的な成長も早いものらしい。前世の同年の時よりもしっかりとしている子が多いなあと思うのだ。まあそれはこの学校だからということもあるかもしれない。




 何はともあれ、私は中等部一年を終えて二年に上がる前の春休み真っ只中であった。


 そんな中、この日の学校は春休みであるというのに人で溢れ返っていた。今日は学校の広い敷地を利用して花見が行われるのだ。この華桜学園の桜は非常に有名で、長い桜並木が毎年生徒たちを楽しませてくれる。


 しかし一口に花見と言ったが、一般的に行われるものとは雲泥の差だ。花見という名の立食式ガーデンパーティと言って差し支えない。来客は著名人を始めとして非常に格式高い家ばかりが選ばれている。



「うわー」



 思わず棒読みで声を上げてしまう。すごすぎて上手く表現できないのだ。


 きらびやかな人々、計算され尽くした桜とパーティの共存、普段通っている学校とは思えないようなハイソな空間になっていた。



 そう、我が鳴神家ももれなくパーティに呼ばれているのであった。




「ひな、本当にすごいね」

「うん……」



 姉様も私も、今日は最大限着飾っている。淡いオレンジ色のドレスは全く着慣れない物で落ち着かない。動きが制限されると余計に動き回りたくなってしまうのは人間の性だと思う。こういうパーティは初めてで、何をすればいいのか、何をしてはいけないのかまるで分かっていない。姉様から離れないようにしようと固く誓う。



「姉様、兄様は?」

「黎一は、ちょっとね」



 後で分かるよ、と髪型を崩さないように優しく頭を撫でられる。姉様はすらりと身長が伸びて、二歳違いだというのに随分と差が出来てしまった。中等部に入ってからもまったく身長が変わらない私としては羨ましい限りだ。陣もまだまだ伸び続けている為、ますます差が開いてしまうだろう。私の成長期よ、さらば。



 そう、姉様と兄様はこの春中等部を卒業し成人式を迎えた。勿論、彼らと同学年の千鶴姫も同様に。

 この花見は姫様の成人を祝うべく、これほどまで大規模に行われることになったのだ。






「あ、父様だ」



 ほら、と姉様が示した先には不知火のおじさんと話している父様の姿があった。父様も勿論この場に合った礼服を身に付けているのだが、かっちりとした服を着ると普段よりも更に体格が良く見え、威圧感が増している。隣に細身のおじさんがいる為に余計に際立っており、微妙に周囲から空間を開けられているようにも見える。


 私は姉様に連れられて、父様達の元へと歩み寄った。




「おじ様、ご無沙汰しております」

「おじさん、お久しぶりです」

「やあ二人とも、こんにちは。今日は一段と美人さんだね」



 さらりと言われた褒め言葉に、お世辞だと分かっていてもちょっと嬉しくなる。日頃女の子っぽい恰好はあまりしないので少し恥ずかしいが、そう言われるとドレス姿が楽しくなってくる。

 おじさんは「写真を撮れないのが本当に残念だ」と呟く。流石に公の王族主催のパーティにデジカメは持ち込まなかったようである。



「父様、どう?」



 なんとなく思い立って父様にもそう話を振ってみる。どんな反応をしてくれるのか気になったのだ。姉様と一緒に期待の目で父様を見ていると、何かを言おうと口を開くが、しかし中々声にならない。


 焦れてきたころにようやく一言だけ、「綺麗になったな」とだけぼそりと口にした。けれどその後すぐに父様は踵を返してこの場を離れて行ってしまったのだ。



 その時父様が密かに目頭を押さえていたことに私は後で聞くまで気付かなかった。




「ひなた」



 父様を見送っていた私に背後から声が掛けられる。声だけ聞けばそれが誰かなんて一目瞭然だ。


 振り向いた私は案の定そこにいた陣を見上げる。まったく、首が痛くなる。

 彼の隣には司お兄ちゃんがおり、正装で着飾った姿はいつにも増して輝いていた。




「ひなたのお姉さんも、お久しぶりです」

「陣君元気だった? それに不知火先輩、ご卒業おめでとうございます」

「ありがとう。鳴神さんも成人おめでとう」



 司お兄ちゃんはこの間高等部を卒業した。色々とお世話になったので卒業式の後に会いに行ったのだが、どうやら彼は不知火の管轄である魔術の研究機関に入るのだそうだ。


 ふと、陣が私をじっと見ていることに気が付く。その視線はなんというか、酷く難しい問題を解いている時のような、そんなものだった。




「何?」

「……いや、見慣れないからつい」

「似合わないかな?」



 先ほどおじさんに褒められたので少し調子に乗ってそんなことを言ってみた。けれど、陣は少し考えるような素振りを見せた後、冷静に口を開く。




「似合わない。というかいつもの方が合ってる」

「こら」



 ちょっとばかりショックを受けた私に気付いたのか、おじさんが窘めるように陣の頭を軽く小突く。



「女の子がせっかく可愛く着飾ってるのに、そんなこと言うんじゃない」

「……けど」

「陣の言葉は気にしなくてもいい。二人とも、とても似合っている」



 司お兄ちゃんが陣の言葉を覆うようにフォローしてくれる。


 お兄ちゃんの気持ちはありがたいけど、別に陣の言葉にそこまで傷付いた訳じゃない。確かにドレスが似合わないと言われたのは少し悔しかったが、普段のままで良いと言うのは素直に喜んでいいことだと思う。














「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、真にありがとうございます。ここで、千鶴姫より皆様にご報告がございます」



 司会の男性の声が会場に響き渡ると、皆個々に話すのを止めて簡易的に設置されたステージに釘付けとなる。姫様から報告って一体なんだろうか。


 ちらりと姉様を見ると、来た来た、とわくわくしたようでステージに目をやっている。姉様は内容を知っているのか?




 一同が注目する中現れた姫様は、それはもう桜の妖精かと見紛う程美しかった。桜色のドレスは姫様の黒髪を一層引き立て、その場の誰もが息を呑んだことだろう。


 しかし姫は全く緊張した様子もなくステージに上がると、一度全体を見渡してから堂々たる態度で話し始めた。

 一通り挨拶を終えた所で姫様はこほん、と一息吐きしばし沈黙した。




「実は、今日は皆に大事な話がある。……私の婚約者が決まったのだ」



 ざわ、と姫様の言葉に一気に周囲が騒がしくなった。かく言う私も姉様の袖を引き、知ってたの!? と問いただしてしまった。しかしそれに対して姉様はやんわりと笑うだけだった。


 姫様に婚約者!? ってことは相手はまさか……。


 私の思考に答え合わせをするように、その人物はそっと人混みからステージの上に上がり、姫様の隣の立った。

 彼――兄様は姫様からマイクを受け取ると、騒然とした来客者に向かって静かに頭を下げる。




「この度、千鶴姫の婚約者という名誉を賜りました、鳴神黎一と申します」



 えー!!


 こんなに沢山の人に注目される中でも、兄様は姫様同様に堂々と、そして朗らかに話し出す。



 私はもう頭の許容量を超えて内心パニックに陥っていた。どういうこっちゃ。


 いつの間に! というのが一番強い心情である。以前見た時は中々いい雰囲気だな、とは感じていたものの婚約者、という立場まで進んでいるなんて一体誰が想像するだろうか。



 姉様も知っていたら教えてくれればいいのに。姫の立場を考えてあんまり言うことが出来なかったのかもしれないけど、兄様のことなんだから私にくらい教えてくれてもよかったのに。


 何せ婚約だ。この分だと父様も母様も当然知っているはず。私だけ除け者か。




 これは後から知ったことだけど、今日花見に来た客の中には姫の婚約者に選ばれようと画策していた人間も多くいたらしい。成人した姫に求婚者が殺到する前に、あえてこの日を選んで公表することにしたのだ。


 姫様がずっと兄様のことが好きだったのは知っていたが、一国の姫の婚約者がそんなに単純に決まるはずもない。しかし相手が相手だった。次期女王という立場から相手は国内の男と半ば確定されており、その中でも鳴神ならば家柄も文句の付けどころがない。姫様も好いているし、兄様は婚約者には非常に都合の良い人物だったのだ。


 取り立てて不足がある人間でもなく国王も納得してしまった為、ならば早々に決めてしまおうと、あまりにも呆気なく婚約者が決定してしまったのだという。




 私はこっそりと司お兄ちゃんを窺った。

 彼は何の感情を浮かべることもなく、ただただ無感動にステージで並ぶ二人を眺めている。しかしそっと視線を落としてみれば、その手が強く握られて震えているのが目に入ってしまった。



「司お兄ちゃん」

「……何だ?」



 気が付かないうちに呼んでしまっていたようだ。はっとしてこちらを振り向いた彼は、我に返ったかのように愕然としていた。私はそっと、爪の後が付きそうな程強く握られた手を開かせる。


 私が触れるまで力を込めていたことすら気付いていなかったのか、自分の手を只々見下ろしている。



「お兄ちゃん、あの、その……」

「いや、何も言わなくてもいい」


 ひなたは二人を祝福してあげればいい、と開いた手を私の頭に置いたお兄ちゃん。



 結局私は本当に何も言うことが出来なかった。だからせめて、お兄ちゃんが言うように精一杯二人をお祝いすることだけを考えた。







 こうして、大勢に衝撃を与えた婚約宣言はすぐさま国全体へと知れ渡ることとなる。



 そして二人の婚約をきっかけにして私にも変化が起きることは、この時は何も分かっていなかった。







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