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日本で騎士を目指します!  作者: とど
幼少期編
3/93

3話 幽霊と出会いました?

 四歳になりました。



 成長するのを嬉しく感じる一方、六歳になった兄様と姉様は小学校へ進学してしまい、平日の昼間は母様と二人っきりになってしまった。


 時々家庭教師は来るものの、やはり毎日遊んでいた時のことを思うと家の中が広く感じ、少し寂しい。

 しかも学校から帰ってくると、二人は新しく出来た友達と外へ遊びに行ってしまうのだ。私のことを蔑ろにしている訳ではないけど、構ってくれる時間は圧倒的に減った。


 我慢我慢、前は高校生だったんだぞ。1人で遊ぶのが寂しいとかそんなまさか。







 私が家で1人ぽつんと積み木で遊んでいたのを見かねた母様が、公園まで連れてってくれることになった。

 それを聞いた私の喜びようはすごく、靴を履いた私は急ぎすぎて開ける前の玄関の扉に直撃した。……四歳児だもん、そういうこともあるよね。


 手を繋ぎながら着いたのは少し離れた所にあった公園だった。おー、見事に一般的な公園だ、良かった。

 この世界、一口に前世と同じ名前だと言っても、全く違うものがあったりするからな。



 私は見慣れた遊具達に大はしゃぎで駆け寄った。

 まずはやっぱりブランコだろう。ちょうど空いていた端のブランコに乗り、思いっきり漕ぎ出す。小さい時は上手く漕ぐことが出来なくてあんまり楽しくなかったが、小学生くらいからコツを掴んで、よく高い所まで勢いよく乗っていた。


 その際誰が一番遠くへ飛び降りれるかというのを競って、一番高い場所でブランコから飛び降りて遊んでいたのはいい思い出だ。この間木から落ちた手前、今はやらないが。




 ブランコに乗りながら公園の中を観察する。砂場やジャングルジムにはちらほらと遊んでいる子供達がいる。ジャングルジムも楽しいよね。あの一番上に足だけで立って陣取ったりするのは皆やったと思う。後でやろう。


 奥にあるベンチには、早速ママ友を作ったのか母様が他の奥様とおしゃべりしている。しかしながら彼女の手にはしっかりとビデオカメラが握られている。いつでも準備万端だ。




 相変わらずだな、と思いながら次はジャングルジムに登ろうと思いブランコから降りようとした時、ふと視界に金色が映った。



「……ん?」


 今誰か居たような。

 なんとなく引っ掛かった私はブランコから降りると公園を囲むように植えられている木の更に奥へと向かった。するとそこには、金色の髪をしたお人形――のような少女がぽつりと何もせずに立っていたのだ。


 私は驚いてその子を凝視する。無表情で立ち尽くしている女の子は、一見すると本当に人形のように見えた。金髪や顔の造形から、日本人ではないことが窺える。

 すると私の存在に気付いたのか、その女の子はゆっくりとこちらを見た。しばらく見つめ合ったかと思うと、その子はぽつりと呟いた。



「あなた、みーちゃんが見えるの?」

「は?」


 見えるも何も、普通に見ているではないか。

 私が首を傾げていると、その女の子はのんびりとした足取りでこちらに歩いてくる。



「みーちゃんが見えてる?」

「みーちゃんって君のことだよね……勿論見えるけど」

「本当!?」


 女の子ことみーちゃんは私の言葉に両手を上げて喜ぶ。え、どういうこと?



「あの、さっきから見えるとかどういうこと?」

「どういうことって……だってみーちゃん」


 私の手を握りながら、みーちゃんは笑顔で言った。



「ゆうれいだもん!」



 こんなに明るい幽霊がいるのかこの世界は。
















「いやだからね、みーちゃんは幽霊じゃないよ」

「そんなことないもん」


 体に触れることができる。足がある。半透明でもない。まして……こっそり手首の脈を取ってみたが普通にどくどくと血が流れている。これで生きていなくて何なのだ。


 それでも幽霊というのなら、この世界の幽霊の定義が前世と違う可能性を考えなければならない。まあその可能性は実はそこまで低くはないのが問題である。




 ぷい、と拗ねてしまったみーちゃんに、どうしてそこまで幽霊に拘っているのかが気になった。


「じゃあどうして幽霊だと思うの?」

「……だって、誰もみーちゃんに話しかけてくれないんだもん」


 私の疑問に、みーちゃんは表情を曇らせて俯いた。木に囲まれていることもあり陰が多く暗い為、そうすると彼女の表情は見えなくなってしまう。



「誰も?」

「さっきそこにいた子に一緒にあそぼって言ったの。だけどすぐに逃げちゃった。他の子も、おんなじ」


 気が付くと、みーちゃんは泣いていた。金色の髪を揺らして、ぐす、ぐすと静かに静かに泣いている。



「ママもおなかが大きくなってから、みーちゃんのこと全然かまってくれないの……皆みーちゃんのことなんかどうでもいいの。みーちゃんはゆうれいだから、皆が見えないだけだもん」

「それは……」



 なんとなく状況を理解してきた。

 このみーちゃんという子は、自分が他の人に相手にされないのは自分が幽霊だからだと思い込んでしまっているのだ。何のことはない、私と同じくらいの小さな子供がそうやって思い込むのはそんなに不思議なことじゃない。


 いや、あれだけ頑なに幽霊であると主張しているということは、思い込んでいるのではなく、分かっていてあえてそう言っているのかもしれない。そうすることで、自分を守っているのだ。


 みーちゃんは日本人ではなく、どこかヨーロッパ系の顔立ちをしている。それに加えて輝かしい金髪だ。普段見たことのない子供の姿に、きっと近所の子供達も驚いてしまったのだろう。


 ならば、まずは少しずつ慣らしていけばいい。




「私、ひなたっていうの」

「ひーちゃん……」



 やっぱそうなるのか。兄様と同じ呼び方だ。


「みーちゃん、私と一緒にあっちで遊ぼう?」

「あそぶ……あそんでくれるの?」


 私がこくりと頷くと、みーちゃんは花が咲くように明るくなった。



「あそぶ、ひーちゃんとあそぶ!」


 ジャンプし、全身で喜びをアピールするみーちゃんを連れて、私は遊具へと戻った。

 先ほどよりも子供の数も増えているようなので、ちょうどいい。


 私自身、この世界に生まれてから友達はいない。これを機に、一気に交友関係を構築していくのだ!




「あーそーぼ!」


 私はみーちゃんの手を引いて、砂場で遊んでいた二人の女の子に声を掛ける。男の子だといらんことを言う可能性があるので、まずは女の子からだ。


 私の声に顔を上げた二人は、私の顔を見てからみーちゃんを見て、少し驚いたようだった。すかさず口を開く。



「みーちゃんって言うんだよ。かわいいでしょ?」

「……うん、お人形さんみたい!」

「みーちゃん、こっちで一緒におやまつくろ!」


 名前を呼ばれたことに嬉しくなったのか、最初はもじもじと萎縮していたみーちゃんも最初に私に見せたような笑顔を浮かべるようになった。


 普段人形遊びをしている女の子はみーちゃんの金髪を見てもキラキラと目を輝かせている。もうこれで大丈夫だろう。私に話しかけてきたことも考えると、みーちゃんは人見知りでもなさそうだし、きっかけさえあればすぐに仲良くなることができる。


 私達はそれから女の子達――りりちゃんとまゆちゃんと一緒に、母様に呼ばれるまで砂だらけになりながら遊んだ。



「ひーちゃん、そこは水を掛けて固めるんだよ」

「みーちゃんお団子つくるの上手だね!」

「えへへー」


 砂遊びなど前世の中でもかなり幼い時にしかやった記憶はなく、しっかり者のりりちゃんに指導を受けてしまった。一方みーちゃんは遊んだことがないと言いながらも、他の二人を見ながら器用にこなしてしまっている。

 なんだろう、さっきまでお姉さんの気分だったのに。




「ひなた、そろそろ帰るわよ」

「はぁい」


 せっかくコツを掴んできた所だったのに。



 皆にばいばい、と手を振って帰ろうとすると「ひーちゃん!」と大慌てでみーちゃんが走ってくる。



「どうしたのみーちゃん」

「またあそんでくれる?」


 今にも泣きそうな顔をしながらみーちゃんが言う。私は勿論、と彼女の頭を撫でた。



「またここに来るから、その時は一緒に遊んでね」

「うん、絶対だよ!」



 ようやく私にも友達ができました!

















 家に帰って夕食を済ませると、そこからは家族の時間である。

 無駄に広い我が家だが、この時間は皆揃ってリビングで寛いでいる。


 双子にぎゅうぎゅうと挟まれてテレビを見ていると、心霊スポットに突撃取材、という特集番組が始まった。途端に右側――兄様の方がよりくっついてくる。怖いんだな。



 テレビを見ながら、みーちゃんのことを思い出した。

 友達の件は解決したが、彼女は家族のことについてもこぼしていた。下の子が生まれる為に母親がそちらに掛かりきりになってしまっているのだろう。こうやって家族団欒で過ごすことも少ないのかもしれない。


 しかし、さすがに向こうの家のことまで、今日会ったばかりの私が口を出すことは憚られる。友達が出来たことで少しは寂しさが薄れるといいのだが……。




「見てください。十年前にここで自殺者が出たと言われる病室です。なんだか寒くなってきた気がします」


 レポーターも病院の廃墟は恐ろしいのか、声を振るわせながら腕を擦った。画面の向こうは寒いらしいが、私は両側からの体温でかなり熱い。



「幽霊っているの?」

「いる」


 姉様が無邪気に父様に尋ねると、父様は一瞬の迷いもなく即答した。


 関係ないが、父様の顔にも大分慣れた。といっても至近距離で見ると泣きそうになるし、同じ空間にいるだけで緊張しなくなっただけなのだが。




「魔科学的に幽霊とは、魔力の塊だ。死んだ魂の一部がその者が保持していた魔力と合わさり一時的に存在を得たもので、基本的にはそんなに長く現世に留まることは出来ない。……しかし魔力の密度が濃かったり、強い感情を残した魂は長く残り、実体を持つことができるとも言われている」

「なに言ってるのー?」


 質問した本人に一言でばっさりと切られた。

 まあ小学一年生と四歳児する説明ではない。先ほどまで震えていた兄様も意味が分からなかったのか首を傾げていた。



「あらあら、またあなたはそんな難しいことを子供達に言って」

「……」


 くっついてテレビを見ていた私達を撮影していた母様が呆れたようにため息を吐いた。



「事実を述べているだけだ」

「分かりやすいように噛み砕いてくださいと言ってるんですよ。本当に融通が利かない人なんだから」

「む」


 おお、母様が強い。さすが父様と結婚しただけある。

 正直どうして引く手数多だったであろう母様が父様と結婚したのかが分からない。

 ……政略結婚?




「幽霊は……いる」

「それは聞いたよ」



 色々考えた挙句に出た言葉も酷いが、それを刹那で切り捨てる姉様も中々酷い。無邪気って怖い。



 それから姉に散々やり直しを命じられていた父様は、いつもよりもずっと怖くなかった。





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