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日本で騎士を目指します!  作者: とど
初等部編
28/93

27.5話 魔道具作成計画 another

陣視点です。

「……駄目だ」



 どう考えても上手くいかない。

 俺は机の上に広がった資料といくつもの魔石を苛々しながら睨み付ける。どうしても最適な魔術式が作れないのだ。



 俺はしばらく悩んだ後、背に腹は代えられないと立ち上がりリビングにいるであろう兄貴の元へと向かった。
















 また佐伯が変な物を作っていないだろうなとキッチンをちらりと確認した後、リビングのパソコンでレポートを作成しているらしい兄貴に声を掛けた。



「兄貴」

「……どうした?」



 くるりと回転する椅子を回してこちらを向くと、兄貴は眼鏡を外して首を傾げた。パソコンをする時はいつも眼鏡をしているのだが、これは自作の魔道具だ。光の魔術式を組んでパソコンを使用時に視力が落ちないようにしているらしい。



 俺は黙って持っていた魔道具の仕様書と術式の一覧を差し出す。兄貴はそれを受け取ると十秒ほどでそれらを流し読みし、そして俺に返してきた。




「そういえば四年だったな、魔道具作成の授業は。それで、何が聞きたいんだ? 見た所おかしな点はなさそうだが」



 十数行にも渡る術式をあれだけの時間で読んで判断するなんて、悔しいくらい兄貴は優秀だ。だからこそ、本当は頼りたくなんてなかった。全部自分で作りたかったのだが、今の俺ではどうにもならなかったのだ。




「……魔石の色を調整したいんだ」

「ああ、そういうことか。何色にするつもりだ?」

「橙」


「……確かに、お前の魔力じゃ難しい色だな」


 調整の早見表があったはずだからちょっと待っていろ、と兄貴が席を立ち自室へ向かう。




 魔石は、魔力が込められていない状態では無色透明だ。魔石の色は刻む魔術式と込められる魔力の質によって変化する。絵具でいうと術式が赤、魔力が白だとしたら合わせるとピンクになるというように同じ魔力でも術式を変えることで別の色の魔石を作り出せるのだ。



 俺の魔力は術式を刻んでいない状態で青色。これをいかに術式で橙色にするかというのが問題なのだ。色の変化は実際絵具とは違うので絶対に無理ということはないはずなのだが、それを実現する為の術式がどうしても思いつかなかった。




 もう一度紙面の魔術式を睨んでみるものの、やはり先ほど同様何も解決策は出てこない。



「なんだ? 防御結界なんて陣にしては珍しい物を作るんだな」



 不意に手に持っていた仕様書が手をすり抜ける。上から奪われるようにして仕様書が手元から無くなると、俺は振り返って犯人を思い切り睨み付けた。




「返せ」

「陣、ただいま」



 いつの間に帰ってきたのか、そこには何食わぬ顔で仕様書を読んでいる父さんがいた。


 取り返そうとするがひらりと躱されてしまい、苛立ちが一層強くなる。





「陣、持ってきたぞ……父さん、何をしてるんだ」

「え、陣が面白そうな物持ってたからつい」

「陣に嫌われたくなかったらさっさと返した方がいい」


 もう嫌っている。昔からだが何かと構いたがる父さんが鬱陶しくて仕方がないのだ。最近兄貴にも同じような片鱗が見えている気がするのは、本当に気のせいであってほしいと思う。




 兄貴の言葉に渋々といった表情で仕様書が渡される。



「それにしても、本当に珍しいなあ。デザインにしたってペンダントなんて陣が作るとは思わなかった」

「それは確かにそうだな。色にまで拘るようだし」

「もしかしてプレゼントか?」



 兄貴に色調整の術式表を見せてもらっていると、父さんがまた絡んできた。更に兄貴までその話に乗っかってしまい、最終的に図星を突かれてしまう。


 黙り込んだ俺を置いて二人は好き勝手に話始める。兄貴、頼むから父さんにだけは意見を求めないでくれ。

 そんな祈りも虚しく、兄貴は父さんに早見表を示しながら術式の相談を始めてしまった。





「陣は橙色にしたいみたいなんだが……」

「橙、なあ。……陣、これひなたにあげるつもりだろう?」

「なっ」



 いきなり核心を突かれて思い切り動揺を露わにしてしまった。くそ、これだとはっきりと肯定しているようなものだ。父さんは腹の立つしたり顔で、うんうんと頷いている。




「防御結界なんて陣には必要ないもんなあ。それに父さんもひなたには橙色が似合うと思うぞ」

「ああ、ひなたに似合う色にしたかったのか」



 俺が反論する隙も与えずに畳み掛けてくる。兄貴まで納得したように手を叩いており、今更言い訳をした所で聞いてくれるとは思えなかった。





 確かに、それは元々ひなたが作った計画書だ。だがあいつは自分の魔力で魔道具が作れない。俺はもう自分の魔道具を完成させているので、余った時間を有効活用しているだけだ。ひなたが落ち込んでいるのを見るとこっちまで苛々してくるから、仕方なくだ。


 大まかな仕様は変えていないものの、所々アレンジを加えている。そもそもひなたの術式では発動するかも怪しいものだった。スペルのミスを修正し、発動条件である音声認識のノイズを除去する術式を組み込んだりと、作っていくうちにかなりの力作になってしまった。




 そして後はデザインだけなのだが、なんとなくあいつには橙色だな、と思ったのだ。もしひなたに魔力があったとしたら、きっと魔石の色はこの色だろう、と。


 しかしながら色の調整は非常に困難を極めていた。だがここまで作ったのだから妥協したくないという気持ちがある。






「陣、術式を複雑にしなくても簡単な方法があるぞ。父さんの魔力を使えば」

「却下」



 全て言い終える前に即答する。父さんはえー、と口を尖らせたが、中年男がしていい顔じゃない。


 確かに父さんの魔力ならば簡単だろう。俺の魔力とは違い、父さんの魔力の色は赤なのだから。橙に変化させるのは容易なことだ。

 だけど、そんな手は絶対に使いたくなかった。俺の手で完成させなければ意味がないのだ。





「ちょっと複雑になるが、この術式でまず色を変化させてから――」


 兄貴は父さんをあっさり無視して至極真面目に術式の説明を始めた。流石に魔道具作りが趣味だけあって、俺では全く思いつきもしなかった術式の組み方を教えてくれる。


 やっぱり兄貴に聞いてよかった。父さんとは大違いだ。






 その後魔道具のペンダントは無事に完成したのだが、手が込みすぎた所為で中々返却されなかったのが唯一の誤算だった。



 けどそれも、あいつの喜びようを見ていたらどうでも良くなっていた。





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