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日本で騎士を目指します!  作者: とど
初等部編
27/93

27話 大事な大事なプレゼント

「それではこれより華桜学園初等部の卒業式を開始します。一同、礼」



 壇上に立つ司会の先生の言葉に促され、私達は一斉に頭を下げる。



 今日は兄様と姉様、そして姫様の初等科の卒業式である。二人の晴れ舞台に、朝から家では大忙しだった。父様と母様も今日は保護者席に座っており、見えないが今頃、愛用のカメラ片手に内心大騒ぎしていることだろう。




「卒業生答辞。代表、桜宮千鶴」

「はい!」



 名前を呼ばれた姫様は皆の注目を浴びながらも落ち着いて檀上へと上がり、そして透き通った声で答辞を読み始めた。詰まることなく堂々と話す姿に、やはりこういう場に慣れているんだなと感じる。





 そうそう、バレンタインデーに告白すると言っていた姫様なのだが、実は兄様に振られてしまっていた。兄様に「そういう風に見たことがなかった」ときっぱりと告げられたのだそうだ。



 ちなみにこれは姫様から聞いた話ではない。姉様が帰ってきた兄様を口を割るまで問い詰めた結果であった。


 一国の姫の告白をきっぱりと断る兄様もすごいと思うが、対する姫様も諦めてはいない。もともと最初から意識してもらうのが目的だったとはいえ、振られた姫様が直後に発した言葉はとても男らしかった。



「今に見ておれ、必ず黎一をめろめろにしてやるわ!」



 姫様はそう言って、驚いて固まった兄様の前から勇んで去っていったのだそうだ。


 ここまではっきりと伝えれば流石の兄様も姫様の気持ちを理解しただろうし、勝負はきっとこれからである。個人的には勿論姫様を応援しているし、姉様もきっとそうだろう。









 卒業式な滞りなく進行し、卒業生が全員講堂から列を成して退席し終えると、少し緩んだ空気が生まれる。

 在校生はこのまま教室に帰ると早々と解散である。




 教室に戻る途中で一緒になった陣君が「おい」と声を掛けてくる。



「なに?」

「……後でお前がいつも魔術の時間に自習してる教室に来い」

「何で?」

「いいから」



 何の用なのか問い詰めようとすると、陣君はそのまま人混みをかき分けてすたすたと先へ行ってしまった。追いかけようとするが、陣君のように上手く進むことが出来ずに取り残されてしまう。



 教室に到着すると話す間もなく先生が着席を促したので結局陣君と話すことができなかった。




「ひなたちゃん、もう帰るの?」

「いや、何か陣君が……」



 私の席は窓際だった為、解散を言い渡されると先に陣君が教室を出て行ってしまった。そこへ恭子ちゃんが私の席へとやってくる。



「陣君がどうしたの?」

「よく分からないんだけど……後で自習室に来いって」


「……ふーん」



 恭子ちゃんは何だかしたり顔で頷いている。陣君に呼び出された理由が分かっているのだろうか。何か知っているのか、と聞いてもと恭子ちゃんは意味深に笑うだけだ。



「……なんなの」

「別に悪いことじゃないよ。お楽しみってことで、ほら行ってきなよ」



 内容が分かっているなら教えてくれてもいいのに。


 私が席を立ち教室の外に向かおうとした時、ふと解散と言われたのに未だに残っている多くのクラスメイトが目に入った。彼らは何故だか私の方を見て、微笑ましそうな生暖かい視線を向けてきた。私は外に出る道すがらの席に座っている藤原君に代表して問いかける。




「藤原君、一体何なのさ」

「いやいや、俺達のことは気にしないでさっさと陣の所に行って来たらどうなんだ」

「話、聞いてたの?」

「聞いてたというか、聞こえてたというか……」



 はっきり聞いていたんだな。



「ねえ、陣君が何の用なのか、皆知ってるの?」

「それは……」

「言えないっていうなら内容は聞かないから」


「……大方そうだろうっていう予想は着いてる」



 藤原君の言葉に、クラスメイトがうんうんと頷いている。なんで私だけ知らないんだ。

 除け者にされた気分で私は黙って教室を出た。皆私にだけ秘密にするなんて、いじめだろうか。






 校内はいつもよりもずっと静まり返っていた。廊下で話している生徒も少ないし、在校生は皆早々と帰宅したか、卒業生に会いに行っているんだろう。私も陣君の用事が終わったら姉様達の所へ向かおうと思っている。



 卒業生の保護者など、普段学園では見慣れない人々とすれ違いながら教室を目指して歩いていると、突然背後から「待って!」と大きな声が廊下に響き渡った。


 びっくりして周囲の人間と一緒に振り返ると、そこには四十代くらいの派手な格好をした保護者らしき女性がこちらに小走りで向かって来ていた。このままではぶつかってしまうと思わず廊下の脇に寄ったが、女性は徐々にスピードを落とすと私の目の前でその足を止めてしまう。



 え、私に用!?




「あの、あなた……ひなた、よね」

「ええ、そうですけど……」



 少し息を切らしながら名前を呼ばれて、私は困惑の色を隠せなかった。名前を知られているというのに、私はこの女性が誰なのか一向に思い出すことが出来ないのだ。


 しかし、よく見るとどこかで見たことがあるような気がしてきた。だけど名前はおろか、どこで見たのかも思い出せない。

 私はもう一度女性をしっかりと観察してみる。



 年齢は四十代といったところで、顔立ちは品のよさそうな人だ。ただし卒業式だからか分からないが、重たそうなイヤリングだとか大きなブローチだとかゴテゴテと装飾品の主張が激しい。多分もう少し控えめにすれば印象が良くなりそうなものだが、まあそれを言うのは大きなお世話だろう。



 全く思い出せないのだが、しかしどこかで見たことがあるのは確かだ。嫌なもやもやが頭を巡り、必死に考えるのだがそのもやが晴れることはない。


 どうしよう、と思っていると私が誰なのか理解していないことを悟った女性は、覚えてないわよね……と言いながら私の目線に合わせて中腰になった。




「そうよね……私は写真で見たけど、実際に会ったのは赤ちゃんの時以来だったわ」



 いや違う、と私の記憶のどこかが言う。そんな昔じゃないんだ。もっと最近、少なくとも初等科に入ってからどこかで見たはずだ。


 少しずつ記憶が鮮明になっていくのを感じる。



「あの」

「ねえひなた、今の生活は苦しくない? いじめられない? 何かあったらすぐに私に言うのよ。絶対に助けてあげるから」

「え、だから」



 どちら様ですか、と聞きたかったのに突然そんなことを言われて混乱した。私としては一回どこかで見たとかそのくらいの相手だと思っていたのだ。しかしこの女性の態度は明らかにそんな相手にするようなものではない。


 赤ちゃんの時に会っていたとしても、突然再会した時に最初に告げる言葉だとは思えない。



 ここは流されずにはっきりと言おう。そう、姫様の告白をばっさりと切った兄様のように。




「あのあなたは一体」

「ひなた、いつまで待たせるんだ!」



 せっかく決心して口にしたのに、言葉半ばで聞き慣れた声に遮られてしまった。




「陣君」

「教室からここまで自習室に来るだけだろ、どれだけ時間をかけて……あれ」



 どしどしと足音重くこちらに歩み寄った陣君は、私の目の前にいる女性に気付き首を傾げた。そして陣君の姿を見た女性もまた、先ほどまでの優しそうな表情を一変させて酷く疎ましそうな目で陣君を見ている。


 一瞬見つめ合った二人を見て、私の脳がようやく答えを導き出した。



「伯母さん……?」



 そう、以前陣君の家に行った時におじさんと口論していたあの女性だ!



「それじゃあね、ひなた」

「あっ……」



 彼女は私にそれだけ告げると、陣君に一言も声を掛けることなく去って行った。


 ……なんだったんだ?




「あの人、何の用だったんだ?」

「さあ……私にもよく分からない」



 陣君ならともかく、どうして私にあんなに親しげに声を掛けてきたのだろう。そして陣君を見る目は、非常に冷たかった。



「それより、早く教室に来いよ」

「分かってるよ」



 私があの女性のことを全く知らない上で考えても答えが出るとは思えない。しかし陣君に呼ばれて歩き出すも、私の頭の中は先ほどのことでいっぱいになっていた。













 教室に着くと、やはり卒業式であるため自習をしている子などいなかった。


 陣君は教室の扉を閉めると、持ってきていた鞄を漁り始める。一体何の用なのだろうと待っていると、彼は取り出した物を乱雑にこちらに押し付けてきた。

 視線を落とすと、そこには細長い箱があった。



「何これ?」

「やる」



 ぐいぐいと無理やり持たされた箱に私は思わず首を傾げる。陣君の視線が箱から離れないので今開けてほしいのだと気付き、私はドキドキしながら箱の蓋を開けた。ラッピングはされていなかったのでそのまま開くと、そこにはきらきらと光沢を放つオレンジ色の石が付けられたペンダントが入っている。


 予想外のプレゼントに私は一瞬固まった。




「……ホワイトデーのお返し」

「……そうなの」



 小学四年生が、ホワイトデーのお返しにアクセサリーを送ってくることに驚愕する。あと別に気にしないが、今日はもう3月20日である。


 しかし見た目も可愛いし、せっかくもらったのでお礼を言っておく。




「ありがとう」

「……別に、時間が余ったからついでに作っただけだ」

「作った?」

「お前だけ、魔道具作れなかっただろ」



 そこまで聞いてようやく色々な物が合致した。そうだよね、陣君がわざわざ私にアクセサリーなんて送る理由なんてない。よく見てみればこれは、私が魔術の課題で計画書に書いた魔道具とそっくりだったのだ。


 そういえば恭子ちゃんが以前、陣君が私の分まで作ってくれていると言っていた。

 恭子ちゃん達が作成した魔道具は結構前に完成品を見せてもらっていたので、このタイミングでもらえるとは思ってもみなかった。




「陣君、本当にありがとう!」



 ついでに作ったなんて言ってるが最初から作るつもりだったということは知っている。嬉しさのあまり思わず抱きつきそうになるが、おじさんのハグを嫌がっている彼を知っていたのでやめた。嫌われそうである。



 早速ペンダントを付けてみた。初めての私だけの魔道具だ、嬉しくてたまらない。





「一応お前の計画書の通りの仕様だ。効果は球体型の結界で対象者は装備者のみ。それで発動条件は音声式だ。『守れ』という言葉で発動することになってるから忘れるなよ」

「分かった!」



 テンションのままに返事をする。後で兄様と姉様にも報告しなくちゃ。



 そのまま二人で卒業生の元へと向かったのだが、その間も私はずっと貰ったペンダントを触っていた。陣君に「にやけるな」って言われたけど、それは無理な話である。















 ちなみに次の日にクラスメイトに、どうして皆が知っていたのか聞いてみた。


 するとどうやら私に作ってくれたこの魔道具はかなり出来栄えが良かったらしく、それこそ売り物にしても十分価値が出る代物だったという。しかしその所為で、中等部はおろか高等部の先生までもがこのペンダントを見たがり、他の子の作品とは違い中々陣君の元へと返ってこなかった。


 事情を知っていたクラスメイトは陣君が授業の時に何度も何度も催促している姿を見ていたのだ。多分ホワイトデー当日に渡してくれるつもりだったそれが昨日の授業でようやく戻ってきたので、皆ペンダントの件だろうと想像がついていたのだった。





 陣君も皆に知られていることを分かっていたのだろう。だからクラスメイトの生暖かい視線を避けるように自習室にしたのだと思う、とは察しの良い藤原君の弁である。





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