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日本で騎士を目指します!  作者: とど
初等部編
26/93

26話 甘いチョコレートと苦い学期末試験

「はい、という訳でバレンタインおめでとう」

「おめでとう……?」




 バレンタインデー当日、前日に大量に作ってきたチョコレートに浸したクッキーを皆に配り始める。

 やっぱり沢山作るならクッキーが一番楽である。クラスメイトの人数分に小分けしたクッキーが瞬く間に無くなっていく。


 あらかた皆が手に取った所で、数個が手元に残った。あとは今日休みの子だとか、自発的に取りに来ない子の分である。うちのクラスは割とノリのいいやつが多いので、休みの子の分を差し引くと残りは一つだ。


 私は迷うことなく、一つの机目指して歩き出す。




「陣君。ほら、あげる」

「……甘いだろ」

「ちゃんと甘さ控えめにしたって」



 私がそう言うと、陣君は渋々といった様子で透明の袋に入れられたクッキーを手に取った。


 陣君はあまり甘い物を好まない。全く食べられない訳じゃないのだけど、自分から進んで食べることはない。佐伯さんが工夫を凝らしてほのかな甘さを追及したプリンだけは好物だという。

 ……ちなみに、以前酷い目に遭った醤油ティラミスは、陣君がどうにか食べられないかと努力した結果だったらしい。勿論陣君も食べられなかった。




 彼の好みを聞いて以来、バレンタインは毎年甘さ控えめのクッキーも作るようになった。父様も私達の誕生日などでは普通にケーキを食べるが、普段は甘い物など口にするところを見たことがないので無理して食べている可能性がある。なので父様のクッキーも陣君と同じ物を用意している。



「いらなかったらはっきり言ってくれていいんだよ」

「……別にいらないとは言ってない」


 一応そう言ってはみるものの、陣君は素っ気ない態度で鞄にクッキーを詰める。



 甘い物が好きでもないのならわざわざ渡す方が迷惑かもしれないと思うかもしれない。私も一度そう考えたのだが、不知火のおじさんにこっそりと、



「陣、あれでもひなたのチョコ楽しみにしてるから懲りずに渡してあげてほしい」



 と告げられたのだ。本当だろうかと疑ったのだが、その後こっそりと陣君が食べている写真を見せてもらったので信じることにした。




「あとこれ、おじさんとお兄ちゃんの分渡しておいてほしいんだけど」



 そう言ってクラスメイトの分が入っていた鞄とは別の手提げからチョコレートを取り出すと、陣君に差し出した。



「……兄貴はともかく、父さんには渡さなくてもいいだろ」

「いやいや、むしろお兄ちゃんよりおじさんの方がいっぱいお世話になってるけど」



 陣君は現在、というか前からだけどおじさんに対して絶賛反抗期中なのである。しかしうちに来るたびに毎回お土産を持ってくるおじさんには少しでもお返しをした方がいいだろうと思うのだ。あと、お節介だがこれで少しは会話の種が出来ればいいなと。


 押し付けるように渡すと、ため息と共に先ほどのクッキーと同じく鞄に入れられた。




「ひなた、これ美味いな」

「大吾郎君もう食べてるの? ひなたちゃん、これ私からね」



 そこへ、私が渡したクッキーを片手に持つ藤原君と恭子ちゃんがやってくる。恭子ちゃんの手にはラッピングされた小箱があり、それを私に差し出してきた。


 私があげたクッキー数枚のものよりもずっとちゃんとした物である。



「いいの?」

「勿論。ひなたちゃんには毎年もらうし、それに私は他の人には配らないからね」



 渡された箱を眺めていると「今年はブラウニーだよ」と言われた。


 私は毎年クラスメイト全員にお歳暮感覚で配っているが、恭子ちゃんはというと貰った子には渡すけど、基本的に家族にしか用意しないというスタイルらしい。




「恭子ちゃんは渡したい男の子とかいないの?」



 姫様のことを思い出してそう尋ねると、即座に否定の言葉が返ってくる。



「全く。私はいつかすごい人と恋人になって玉の輿に乗るんだから、好きでもない人に割いてる余裕はないの!」

「玉の輿って……正直この学校の人だったら大体当てはまりそうだけど」

「ひなたちゃん、男は性格だよ! そんな誰でもいいなんて考えてちゃ駄目だよ」


 なんで私が男なら誰でもいいと考えている流れになっているんだろう。



 恭子ちゃんは客観的に見て、この学校の中でも結構可愛い部類に入ると思う。だから玉の輿に乗ろうと思えば実際に出来そうではある。



「……じゃあ、ここにいる二人はどうなの?」



 いつも仲良くしている時点で性格は保障されているが。


 恭子ちゃんは私の言葉に、陣君と藤原君を眺めながらうーん、と唸った。




「……なんていうか、そういうのじゃないのよ」

「どういうのなの」


「大吾郎君はどっちかっていうと弟って感じだし」

「おい」

「陣君は友達としては平気だけど、付き合うとしたら合わないと思う」

「……」



 中々シビアな意見である。


 別に陣君は恭子ちゃんのことが好きな訳じゃないと思うけど、勝手に否定されてなんだか不満げである。



「それに、陣君は……」

「陣君は?」



 何故か言いよどんでこちらを見る。何だ何だ、まるで陣君が私のことが好きみたいじゃないか、そんなまさか。


 また姉様達みたいに、勝手に私と陣君をくっつけようと考えているのではあるまいな。鳴神と不知火だからといって、セットにしようとしなくてもいいのに。




「それに、私はお母さんのような恋をするのが夢なんだ」



 キラキラと目を輝かせる彼女に詳しい話を聞いてみると、恭子ちゃんの両親はお互い初めて出会った時に一目惚れしたらしいのだ。それも人混みですれ違った瞬間にである。しかしお母さんは下町の娘、お父さんはそれなりに軌道に乗ってきた会社の次期社長。お父さんには決められた婚約者がいたり、お母さんに長年恋をしてきた幼馴染がいたりと、二人の恋はまるで物語のように障害だらけだったのだ。


 それでも結ばれた二人は幸せに暮らしており、恭子ちゃんは小さな時からお母さんにその話を何度も聞いて育ったのである。




「だから私も、こう身分差とか壁を乗り越えて、燃えるような恋がしてみたいの!」

「だから玉の輿なの……」



 自ら逆境に挑みたいとか、恭子ちゃんはどれだけチャレンジャーなのだろう。

 ちなみに私はそんなのお断りである。








「……お前ら、話はいいが大丈夫なのか」

「何が?」

「何がって、明日から学期末試験だぞ」


「……え?」



 陣君が冷静に指摘した事実に、私と恭子ちゃん、そして呑気にクッキーを食べていた藤原君、更にバレンタインに浮かれていたクラスメイトが冷水を浴びせられたように沈黙した。


 そして数秒後、クラス中が蜂の巣を突いたかのように大騒ぎになった。











 小学四年生のテストだと甘く見ては大変なことになるのが、この学園である。成績が一定以上のラインを越えなければ、普通に留年することもあり得るのだ。だが、今まで実際に留年した生徒は基本的に皆転校しているとのことだ。名門校で留年して恥を晒すくらいなら、ランクは落ちるものの他の学校に通った方がいいと考えるらしい。


 兎にも角にも勉強しなければまずい。特に歴史。




「……まあでも、今年は魔術の実技の試験が無いだけ教科が減るから助かった」

「今年は無いの?」



 私は元々無いので知らないのだが、藤原君がほっと溜息を吐いて「よかった」と呟いている。



「ほら、今年の授業は魔道具作りだったでしょ。だからそれの出来栄えで評価されるんだって」

「陣が教えてくれたから結構いいのが出来たんだ。だから今回の実技は安泰だな」

「陣君、本当にありがとね」

「……別に」



 二人の言葉に陣君は顔を教科書で隠す。照れてて可愛いと思うが、顔を隠した教科書が日本史だったので瞬間的に冷静になった。



 私も教科書を取り出す。最初に歴史を勉強すると止まってしまうので別の教科からだ。















 放課後になっても中々皆帰ろうとしない。家で勉強するよりも学校の方がずっと捗るのだ。運転手の皆さんには申し訳ないが、私も時間をずらしてもらうように連絡してある。



「はい、問題です。今の国王様の名前は……」

「桜宮晴之はるゆき様だろ」

「ですが、その前の国王様の名前は何でしょう」



 クイズ番組のような引っ掛けにまんまと引っ掛かっている藤原君を見ながら、しかし問題を聞いても分からない私は教科書を確認することにする。



「前ってことはその父親だから……幸一こういち様か」


「桜宮明成あきなり様だ」

「え?」

「すごい、陣君知ってたんだ!」



 藤原君と陣君の解答は異なっていたのだが、どうやら陣君が正解らしい。しかし藤原君は納得出来ないとばかりに不満そうに腕を組んだ。



「幸一様だろ? だって明成様って現国王の兄で王位を継ぐ前に病死なさったって」

「実際には一年だけ在位されていた」

「そうそう、これ十年くらい前だから教科書にもまだ載ってないんだよね」



 お父さんが言ってたから私は知ってたけど、と恭子ちゃんが言うのに、私は黙って開いていた教科書を閉じてノートに今の話を書き込む。




 この学校の大変な所はもう一つ、教科書には載っていない時事問題なども多く出題されるのでニュースなども欠かさずチェックしなければならないのである。ただ教科書の範囲だけでどうにかなる物ではないのだ。将来官僚や騎士など国の仕事に関わるであろう生徒が多く在籍する為にそうなっているのだと思うが、テスト勉強が一番大変な所でもある。



 それにしても……十年前って私達が生まれた頃か。病気って分かっていたのなら、初めから王位を現国王に譲っておいた方が周囲も混乱しなかったと思うのだが、そこは私には分からない政治的な理由があるのだろう。私は黙ってそれを覚えるのみである。




「この前市街地に魔物が出た所ってどこだったっけ?」

「あー、忘れた。あの鳥型のやつだよな……」



 時事問題のテスト勉強はこうしてクラス中で情報交換するのが一番手っ取り早く、そして理解しやすい。それぞれ覚えているジャンルが違っているのでこれがかなり助かるのである。


 私も騎士や桜将軍の関係のニュースはしっかりと把握しているし、魔術の最先端技術は陣君に聞けばいい。他にも貿易関係に強い子など家ごとで特色が出ている。



 これで時事問題はばっちりだ、と意気揚々と家に帰り、そして私はほぼ徹夜で日本の歴史をおさらいすることになった。




 おかげで色々と他の記憶が吹っ飛び、テスト結果は……まあ聞かないでほしい。なんとか留年はしなかったとだけ言っておく。





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