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日本で騎士を目指します!  作者: とど
幼少期編
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1話 日本なのに……日本じゃない!?

 人生一度切りというけれど、私はそれに当てはまらなかったようです。



 茫然としながら青く晴れた空を眺めて思った。

 まさか、異世界転生なんてものが自分に降りかかるなど、一体誰が考えるだろうか。




 私の名前は鳴神なるかみひなた。三歳。裕福な家庭の次女に再び生を受けた。

 最近、物心がついてくるにつれて毎日少しずつ前世のことを思い出してきたのだ。

 前世の私は所謂女子高生というもので、結構若くして死んだようだ。ようだ、というのは死んだ時の記憶が曖昧だからである。


 転生したと理解した時は、再びあの世界に生まれ変わったのだと思っていた。国名は日本だし、殆ど外に出たことはないが、家の付近は見慣れた日本の風景だったのだから。


 そう、思っていたのだが……。




「そういえばお隣の息子さん、上級魔術試験に合格したらしいわよ」

「あら、そうだったの! おめでたいわね。何かお祝い持って行かなくちゃ……」



 皆さん、聞いたであろうか。

 この世界の世間話には、“魔術”という単語が当たり前のように出てくるのだ。


 記憶が戻る前は、すでにその単語が日常会話の一つとして何の違和感もなく溶け込んでいたのだが、前世の記憶を得るにつれて、魔術という異物が当たり前に生活に組み込まれていることに気付き、そこでようやくこの世界が以前の世界と違うのだということを認識した。


 魔術がどういうものか、というのはこの世界に生まれて三年の私にはまだ計り知れない。記憶に引き摺られているとはいえまだ三歳なのだ。自分の感情をコントロールすることはできないし、魔術に興味はあるが、それを調べることよりもお昼寝の方が余程大事なのである。


 これから少しずつ成長するにつれ、嫌でも魔術については学ぶのだから気にしないことにした。




 だがしかし、私のカルチャーショックはそれだけでは終わらなかったのだ。


 母と近所のおばさんがテラスで話している間、私はというと日向ぼっこをしながら無駄に広い庭で素振りをする兄と姉の姿を眺めていた。

 素振りしているのは野球のバットなどでもなく、木刀であった。


 あっ兄が木刀を取り落し、泣き出しそうになっている。二つ上の双子の兄妹は、この間五才になってから急に剣の練習が開始された。姉は実に楽しそうに木刀を振っているものの、兄はあまり好きではないようでことあるごとに泣きそうになっていた。


 しかし、泣きそうになるだけで声を上げて泣くことはない。

 何故かというと、兄が泣きそうになるとその度に傍で練習を見ていた父がギロリと兄を睨むのだ。

 泣く子も黙る、とはこのことか。兄は父に睨まれると泣くことすら出来ず、大人しく素振りに戻っていくのだ。



 うちの父は、はっきり言って滅茶苦茶怖い。すぐに怒鳴るとか、手を上げるとかそういうことは全くしないのだが……顔が、ものすごく怖い。

 元々厳つい顔立ちにこれでもかと怖い成分を投入し、そして最後に無表情を張り付ければ、父の完成である。


 私も正面きって父の顔をろくに見ることができない。絶対に泣く自信がある。私達兄妹の中で唯一父が平気なのは、いつもほわほわと楽しげな姉だけである。




 そう、父のインパクトが強すぎて話は逸れたが、魔術の他にもう一つ私に大きな衝撃を与えた事実。それは剣術を当たり前に習得する機会が与えられ、そしてそれを実践する場所があるということだ。それも、剣を振うのは基本的に人間相手ではない。


 まるでRPGのように、魔物が存在しているのだ。



 ありえない。


 この世界は一体何なんだ!



 片や家電やインターネットなど、当たり前のように日本で慣れ親しんでいた日常。

 片や剣と魔術と魔物の非現実なファンタジーの世界。


 もしこの世界を作った神様とやらがいるのなら、声を大にして言いたい。



 どうして、どうして混ぜた!


 常識と非常識が混ぜこぜになり、訳が分からない。






「ひなー!」


 現実を直視してげんなりとしていた私に、剣の練習が終わったのか姉が走り寄って抱きついてきた。後ろからとぼとぼと歩いてきた兄も、ずるいっ、と頬を膨らませて私をぎゅっと抱きしめる。


 ああ、もうなんでもいいや。兄と姉が可愛すぎてもう世界とかどうでも良くなってくる。

 ちらりと母を見ると、おばさんとの会話を投げ出してビデオカメラをこちらに向けている。


 ちなみに後で知ったのだがこのカメラ、充電は電気ではなく魔力でできる最新式とのこと。コンセントが無くても充電できて便利だわー、と言っていた母に私は良かったねと静かに返すことしかできなかった。





 こんな日常と非日常の狭間で、私は生きてます。



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