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世界の樹  作者: ちゃぶ台
春の章
1/3

砂漠の旅人 1

こちらでは初投稿となります。

どうぞよろしくお願いします。


明るく眩しい日差しが照らす砂漠、容赦ない暑さに負けずに進むラクダの列があった。ラクダは背に荷物を積み、紐で誘導され砂漠を越えようとしていた。そんな列の中、先頭を進むラクダの上に、頭からつま先まで隠した人間が乗っていた。

その人間は行商人で、新しく買った商品を売る為に次の街を目指していた。砂漠が続くこの土地は広く、物を買うにも往復が困難なため、月に何度か彼のような行商人から物を買い、みな暮らしている。


「あつい・・・方角を間違えたか?」


低い声が唸っているかのような声で自分に聞いた。見渡す限りの砂に、本来ついているはずの街が見当たらず、商人は苛立ちを感じていた。前の街から旅立つ日に「三日後、砂嵐が来る」という情報を事前に聞いていたので、{一日でも}早く次の街にたどり着きたかったのだが、どうやら彼は方角を間違えてしまったようだ。


そんな彼の視界の端に大きな森が見えた。驚いて振り向くと、そこにはやはり大きな森が立っていた。砂漠で見る蜃気楼だろうと思い無視しようとした矢先に、ラクダが言うことを聞かずにその蜃気楼へと向かって行った。


「おい!やめろバウ!そりゃ蜃気楼だ!早く街へいかねーと砂嵐にやられちまうだろ!」


そう怒鳴る主人を無視し続け、何かの力に引き寄せられるようにラクダは森へと一歩、また一歩と近づいていた。


「バウ!本当に聞かないと殴るぞ!」


ラクダが急に止まったが、彼らの足元には芝生があり、商人は眼を見開いた。蜃気楼だと思っていた森は実在したのだ。そんな森の入り口に立った商人とラクダ達は目の前にある不思議な森をみつめた。そびえ立つ立派な木々は砂漠で見られないような種類の物ばかり、咲いている花も、商人が今まで見た事が無い物ばかりだった。地獄のように暑い砂漠の中で涼しげに立つ不思議な森、興味をそそられないわけが無い。

喉の奥に湧き上がった不安を飲み込み、商人は森の中へと進んだ。


森を進むにつれ、色々な動物、植物、彼が今まで見た事の無いものに眼を光らせた。彼の周りを飛び回る白い蝶、色鮮やかに咲く花たち、どれもこれもすべて、砂漠では見たことが無い物ばかり。芝生になっていた紫色の実をつまんでみると、甘酸っぱい味が口を含み、驚くあまりだった。


―オアシスって感じだな


そう思い、商人は探索を進めた。何時間歩いたか分からないが、かなりの距離を進んだ先は、森を突き抜け、野原になっていた。そこは森の中心のような場所であり、その野原の中心に立派な樹が立っていた。その樹は大きく、天へと届くほどの高さで、鮮やかに揺れる葉は光を背に一つ一つ宝石の様に輝いていた。


ラクダから降り、商人は樹へと歩いて行った。野原の草や花は背が高く、商人の膝を布越しからくすぐった。爽やかな風が吹く中、彼は昔聞いた伝説を思い出した。

とある街で商売をしていた時に、同業者と酒を交わした事があった。なんでもその商人は異国から来た者で、新しく商売に使える物を探し、世界を旅していたそうだ。そんな彼から世界に散りばめられた、唯一共通の伝説を教えてもらった。その伝説では世界は一つの樹によって作られた物だと。樹は世界を作り、大地を分け、水を流し、命を与えた。そして樹は世界の中心で人を見定めると。


「伝説は・・・あながち間違ってなかったのかもな」


そう言い、目の前の大きな樹に触れた。触れた彼の手の下で何かがうごめくのを感じた。急な感覚に驚き、商人は手を引いたその瞬間、樹から腕が飛び出し、引いた彼の手を掴んだ。細い、華奢な腕が樹から出ている事に本能的な恐怖を感じ、振りほどこうと腕を引いたが、腕は強く彼の腕から離れなかった。奇怪な現象に驚き、無我夢中で腕を引っ張り逃げようとした彼の動きにより、腕は少しずつ長くなっていき、肘が出て、肩が出てと人間の体と同じ部分が出てくる。


恐怖によって必死になった商人は、ありったけの力を込めて腕を引っ張った。ポンッと抜ける音がし、商人は勢い良く、後ろへと転がって行った。草の上に落ちたおかげで傷などは無くも盛大なしりもちをついた。体を置きあげてみると、何か重い物が腹部にある事に気が付いた。見下ろすと、そこには年端も行かない少女がいた。

眼を見開き、そこにいる少女を見つめた。


「はっ?え、どこから?え?」


驚きを口から出さずにはいられなかった。あたりを見回し、彼女がどこから来たかを探すが、それらしき場所も、彼のラクダ以外、乗り物もなかった。

そんな慌てる商人に気付いたのか、少女はゆっくりと眼を開き、彼を見上げた。白に近い薄い水色をした眼に、長い薄いピンクのまつ毛、肌の色も、彼の褐色と比べると白に近かった。奇妙な事に、少女の長い髪は淡いピンク色だったが、奇妙なのはその色ではなく、頭の両端から栄えた角だった。

角と言うより枝の様だった、枝は彼女の頭に、左右から生えていて、下へ垂れ下がる様になっていた。


商人は一度落ち着き、少女を見つめた、彼を見つめ返す彼女の眼は虚ろで、まるでガラスのようだった。


「君・・・」


何とか話せないか心がけたその瞬間、少女の眼に光が宿り、彼女の口が動いた。微笑みを見せる彼女の顔を見て、眼を見開いた商人に少女は、優しく口づけをした。


「勇気ある旅人よ・・・世界の中心へようこそ」


彼女の声は柔らかく、何かふわふわと空を舞うような声だった。


「・・・世界の・・・中心・・・」


呆気にとられた商人は少女を見つめた。暖かい風が彼らにふき、あたりの花びらが宙を舞い、彼女の枝から桃色の小さな花が無数に咲いた。


「旅人よ、そなた名を何と申す」


彼女の瞳に見つめられた商人は、勝手に口が動くのを感じた


「アイシェ、アイシェ・イブン・サウドゥー」


名前を聞き、満足そうに少女は微笑み、立ちあがった。彼女の瞳は先ほどの面影もなく、明るく、きらきら輝くように見えた。


「アイシェ・イブン・サウドゥー、勇気ある旅人よ!我にそなたが見てきた世界を伝えよ!」


そう言い、彼女は細い手を伸ばし、アイシェへと差し出した。何が何だか分からないアイシェは、開いた口が塞がらない状況に陥っていたが、目の前の白い手を取り、立ちあがった。


―これは・・・夢なのか?

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