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第1話 初回から死にそうです

俺は不良じゃない!

確かに外見は不良みたいで、口調もそれっぽいものはあるが決して不良ではない。みんなは俺を不良不良と口々にいう。

やれ、ここら一帯を占めているグループのボスだの、ヤクザの組長の息子だのいろいろな噂が立てられている。もちろん、グループのボスなどしていないし、親もヤクザの組長でもない。なのに、どこからともなく現れた妙な噂はすぐに学校に拡散した。だから、この学校で俺によってくる人間は少ない。

よってくるのは、せいぜい2、3人くらいだろう。生徒指導の先生2人と担任の先生くらいで、あとはまったく話しかけてもこないどころか、近寄りすらしない。

1人だからといってさみしいわけでは決してない!むしろ、1人は十分楽でいい。他人のことなんて考えなくてもいい。とことんマイペースでやっていける!孤独バンザイ!1人バンザイ!

ふぅ……もう勘弁してくれ……

俺はふつーに学校生活を送りたいだけなのに、みなさんがそうさせてくれないんです!まったくあいつらは何にもわかっていない!


昼休み

それは生徒たちが学校生活を送る中での唯一と言ってもいいほどの長い休み時間である。昼食を取るもよし、友達とくだらない話をするのもよし、図書室で静かに本を読んだり、勉強したりと人それぞれ時間の費やし方は違うだろう。しかし、俺は今机でうつ伏せになって惰眠を貪っている。昼食はもうとってしまい、話をする友達なんてものも俺にはいない。だから……寝る。

余計に起きてたりなんかしたら

「何だ?学校サボるのか?やっぱ本物は違うよな」とか

「あぁ、また誰かが彼の生贄に」とかろくな噂がたってしまう。

本物じゃねーし、誰も死なねーよ!俺はただ、トイレに行きたかっただけなんですけど⁉

と、まぁこんな風に根も葉もない噂が立ちまくってしまうから、俺こと宮部美影はこうやっていつも昼休みの時間を潰しているのだ。

今日は天気がいい……窓側の席だから暖かい午後の日差しが差し込んできて、俺を夢の世界へと運んでくれる。ああ、パトラッシュ俺眠たくなってきたよ。あともう少しで夢の世界に旅立てるところで、

「あのぅ、み、宮部君?あ、あのですね。先生がしょ、職員室に来なさいっていってるんです……けど」

現実世界に引き戻された。渋々体を起こして、目を擦りながら「ん。サンキューな」と短く礼を言うと、

「そ、それでは失礼しますぅ」

と小走りだったのか足音がすぐに聞こえなくなった。俺はずっと目を擦っていたから姿を見ていないが、声を聞けば誰だか分かる。クラスの奴らの顔と名前と声はすでに一致させてるんだ。

今のは、クラス委員長の結城萌乃。ちっこいが、働き者の彼女はクラス、学年を通り越して学校中でのアイドル的存在である。そんな彼女だから、みんなは俺個人に連絡を伝えることを押し付けているのではないかと思うと、哀れ過ぎてしょうがない。可哀想に結城……ドンマイ!

(*美影君は自虐モードに入っています。)

ま、来いって言われたなら行かねばならないな……

渋々立ち上がって席をはなれ、廊下に出て数歩で廊下の空気が凍りついた。いや、時間が止まっていたのかもしれない。廊下でしゃべっていた連中が俺を見るや否や次々と教室に戻っていく。

「これだから嫌なんだよ……」

ため息交じりにこぼした言葉など教室にこもってしまった彼らには到底届かないだろう。


「失礼します」

もう来慣れたこの生徒指導室。ここで待ち受けているのは……

「なかなか」

「早かったのであーる」

この2人だ。この双子の教師、金剛運慶&快慶先生だ。

「お前という奴はいつになったら」

「その髪の色を落としてくるのかね?」

こうやって1人で言えばいいセリフを2人で言う、これは今まで嫌というくらいこの人たちの声を聞いているが、一回もタイミングを外して言うことを聞いたことがない。阿吽の呼吸なんだろう。

「ですから、この髪は地毛ですって。染めてもいないしワックスで固めたりもしていない。どこに違反があるっていうんですか?」髪の毛は明るい茶髪でいかにも染めたような色であるが本当に何もしていない。髪型だってちょっと髪質が硬いからすぐ立つだけであって、整髪剤なんて使っていない。ってか買ったことすらない。こんな正論て反論しても、

「我々兄弟がいけないとみなしたら」

「いけないのでーす」

といった暴論が返ってくるので、話はいつも平行線のまま休み時間を終えてしまい、結果はまた放課後ということになる。

こうして、俺の昼休みは大抵阿吽の呼吸に潰される。一体何が悲しくて2体の喋る力士像と昼休みを過ごさなきゃいけないのか理解に超苦しむ。俺はパトラッシュと天国に向かっていたはずなのに、生徒指導室にまできて半永久的にツッコミさせられるなんて。

「放課後ちゃんと来い」

「よ」

「もうちょっとセリフを分けてあげろよ!」

(美影君はツッコミモードに入っています。)


「あーあ。無駄な時間を食っちまったな。しっかしなぁ、この髪は地毛だって何回言えば聞き入れてくれるんだか……」

不平を漏らしながら廊下を歩いてると中庭でイチャイチャしているカップルを見つけた。この世の中には『リア充爆発しろ!』っていう言葉がある。世間の『非リア充』の連中が『リア充』に送った言葉だ。リア充なんて俺にはほど遠いからあんまり問題視してないが、見てるのは楽しい。リア充側をみて楽しいのではなく、非リア充側をみるとたまらなく面白い。さっきのカップルのちょっと離れた場所に樹木が密集している地帯がある。そこに目を血走らせて、気の影から覗いている奴がいる。彼の手には枯れた草で作られた人形のようなものと五寸釘が握られているのが遠目で分かった。こういう風景を見るのが楽しいのだ。彼はバレー部のエースの田中君だったかな?確かモテたいがために小学生の時にバレーボールを始めたんだったと思う。彼はバレーボールじゃなく他のスポーツもできてまさにスポーツ王と呼ばれてもおかしくないくらいスポーツ万能で、顔もイケメンだった故に女子たちは高嶺の花だといって彼と恋仲になろうと思わなくなった。そして今に至る。田中君もバレーのアタックと同じように玉を待つんじゃなく、狙いにいけばいいのに……まぁ、俺には関係ないけど。

あ、釘を打ち始めた。おお〜豪快に打ち込んでいるな……大丈夫か?あの木と田中君……

「フッ」ふいに笑いがこぼれた。

(美影君は観察モードに入っています)

「お、おい見ろよあれ……2-Fの宮部が笑ってるぞ」

「ああ。これは少なくとも1人は犠牲者が出るな」

そんなことまで言われているにもかかわらず、田中君の非リア充っぷりを観察していたのだった。


午後の授業を消化して、言われたままに生徒指導室にむかい、エンドレスツッコミをさせられてくたくたになったところで

「おや、もうこんな時間ですね」

「そろそろ帰ってよろしい」

俺は机でぐったりしている。普通こうなるわ。ざっとみて2時間は軽くツッコんでるよ?俺。もうこれ以上ツッコミは入れねぇからな。ゼッテー入れない。

「それじゃあ、失礼しま……」

そこには2体の銅像が立っていた。まるでドアから出る者を拒むかのように。

「あの……俺帰りたいんすけど……」え?なんで?なんで帰してくれないの?「帰ってよろしい」っていう言葉を聞いたような気がするんだけど……

「I want to go to my house」英語で言ってみたが金剛(兄)表情一つ変えず、返答がない。金剛(弟)はすごい量の汗をかいている。しかし、返答がない。ただの屍のようだ。

「屍では」

「ない」

「そこで……んぐっ」

俺は慌てて口を両手で塞いだ。

人の心を読むな!ってかさっきのツッコミもう入れないと決めたじゃん俺!クソッ、どうにかして抜け出したい……

何か……何か策はないのか。金剛先生×2の威圧感でいつの間にか窓の方まで下がってしまっていた。


生徒指導室は5階というなかなか高い位置にあるため飛び降りることはできない。もしするなら相当な覚悟を持たないとできそうにない。すると昇降口からある人物が出てきた。学園のアイドルの結城さんだった。

ピコーン!めっさいいこと思いついた。俺は頭の上に浮かんだ電球を振り落とす勢いで窓の方を向いて

「あー!学園のアイドル結城萌乃ちゃんのスカートが風のイタズラでめくれ上がってパンツ見えそう〜」

その刹那、後ろで地面を蹴る音が聞こえた。

金剛先生も……男だった。やはり、女性の下着とかには弱かった。普段は坊さんみたいだから煩悩も何もかも捨ててきたかと思ったが反応するところはしっかり反応することが分かった。

もちろん、さっきのは嘘だった。萌乃のスカートはめくれ上がるどころか、風になびいてすらいない。門番または銅像のように立ち塞がっていた金剛先生×2の気がそれた隙に生徒指導室からの成功を果たした。


「あー……酷い目にあった。しっかしなんであの人たちはあんなに俺にからんでくるんだろ?わけわかんね」周りの奴らは近づくはおろか話しかけてもこない。先生も同じく俺にビビってる始末だ。なのにあの金剛兄弟は俺と普通に話もできるし、ビビってる様子もない。そこが理解できない。あの2人は学校からの言いつけで俺の相手をしているのだろうか。それとも、ただ放っておけなくてという単なるおせっかいなのか……。彼らの顔には表情がない。いや、実際あるのかもしれないが俺は今までにみたことがない。なんとも読みにくいタイプだ。

「まぁいいやまた今度考えれば……」

ガシャン

俺の思考を妨げた。

「あ?なんだ今の」おそらく教室の机が椅子が倒れた音だろう。でも放課後のこんな時間に教室に誰かいるなんてのはおかしいことだ。俺が金剛先生に捕まらなければ今頃晩飯を食っている時間帯だった。

「どうせろくでもないことだろうな……」

音のした教室にむかう。2-Bと書かれた札が微風にゆられていた。耳をすまさなくても中での会話が聞こえるほど中で喋っているヤツの声がデカかった。

「君さぁ最近転入してきた子でしょ?君が入ってきたから僕はBクラスから落とされたの。何故だかわかる?編入テストで君がいい成績とったからだよ。どうしてくれる?僕すごく恥ずかしかっんだよ。クラスの奴らから合われな目で見られるし、パパにはひどく叱られた。僕の心は傷だらけなんだよ。だからさぁ………お前も傷つけ」

会話がいったん止み、また机がガタガタなっている。

これ………やばいんじゃね?助けに出たほうがいいのか?でも、なんかこえーしな。でも、目の前で困っているのに助けないのは人間としてどうかと思うし。

「助けてぇぇぇぇぇぇ!」

今の悲鳴に俺の意識はいっきに現実に引き戻された。

「チッ!何迷ってんだよ俺は!行くっきゃねーだろ!」

廊下の隅におかれているカバンの上に携帯を投げて教室の扉を開け放った。

投げられた携帯の画面には「送信完了しました」というメッセージがうかんでいた。


「何なの君?せっかくいいところだったのにさぁ」

男はその場から離れた。どうやら女生徒に馬乗りになっていた状態だったんだろう。女生徒のされようとしていたことは考えなくてもわかる。カッターシャツの前を刃物のようなもので切り裂かれていて、下着も切れていたのか前を抑えて震えていた。そんな卑劣な男を俺は知っている。

この男は空蔵宗也。この男とは同じ中学校だったから彼の悪評は嫌でも耳に入ってくる。そんな奴がこの学校にきていたから俺はびっくりしていた。金髪の髪にピアスやらいろいろなものをつけていたのに、高校で見たら黒髪の坊ちゃんカットになっていて黒ぶちメガネなんかかけて高校生活を始めるにあたって更生したんだな。と思っていたが、まだこんな最低なことをしていたなんて……俺の感動を返せ!

「あぁ、なんだ不良の宮部くんじゃないか。どうしたんだい?真面目になった僕に君なんかが何か用かい?」

「真面目って……ナイフを持って女を襲っていた奴のどこが真面目なんだよ。つーか俺不良じゃねーし」

「ははっ!お前のどこが不良じゃないって?ほら説明してみなよ」ニヤニヤしながらこっちを見ている。マジでうぜぇ。

「頭が悪くてCクラに落ちるような奴に説明するだけ無駄だろ?馬鹿は引っ込んでろ、落ちこぼれ」

ニヤニヤが止まった。と思ったら空蔵の顔に憤りの表情に変わった。

「落ちこぼれだって?この僕が?ねぇ君さぁ自分の立場分かってる?君はFクラスで僕はBクラスだぞ?」

「分かってるって。あと、お前Cクラな」

空蔵は机や椅子を蹴飛ばしながら、

「黙れ黙れ黙れぇ!お前なんかこいつでズタズタにしてやる!」制服のポケットから棒状の何かを取り出すと、大きめの刃が現れた。

「どうだ?ビビったか?謝るなら今のうちだぞ?さぁ!さぁ!さぁ!命乞いをしろ!」

「やだね。お前に命乞いするくらいならいっそ死んでやる」学ランを脱ぎ女生徒にかけてやる。俺って優しいよな〜制服の前がはだけていて目の保養になるのか、毒になるのかかなりきわどいところだった。

「命はいらないんだね?じゃあ、殺っちゃおうかな」

「俺はいいけど俺死んだらお前退学だからそこんとこOK?」

「そんな些細なことパパに任せておけば即解決だよ。現場を先生に見られない限りは」

「そうかい。そりぁおもしれぇな」

「でしょ?だから君1人いなくなったって別に……」

「あー。分かった分かった。分かったからさっさとやれやボケ!それともお前に人を傷つける勇気はあんのかよ」

「ッ!僕だって……僕だってやろうとおもえばやれるんだ!」

空蔵は走って来る。ナイフを手に俺へとまっすぐに突っ込んできた。それを俺は腕で受け止めた。

一瞬視界が真っ赤に染まった。重力に従って赤い雫が落ちて床に模様を刻んでいく。

「ほら……ほらみろ。僕はできる子なんだよ!お前とは違うんだ!」

ナイフがまた体に食い込む太ももだろうか。さっきの腕でといい今度は腿太ももあたりをやられたのだろうか。足をやられてとうとう立っていられなくなった。

足元にできた血だまりに手をついて呼吸を整える。すると、みていた風景が変わった。おそらく空蔵が俺のわき腹でも蹴りあげて吹っ飛ばされたんだろう。

「あっれー?どうしたのかなぁ宮下クン〜あれだけ大口叩いておいてあっけないねぇ」

口調が昔に戻っている。これなら殺しもやりかねないなぁ。

そんなことを悠長に考えていると空蔵は俺の上に乗りナイフを振り上げていた。

「バイバイの前に遺言くらい聞いてあげるよ」と告げた。

俺は小さく笑い、

「哀れだなぁ……実に哀れだよお前。自分の才能のなさを他人に押し付け、自分はいつも上にいるように錯覚しているなんて…本当に残念な子だ」

「………それが最後の言葉だね。それじゃ、バイバイ」そしてナイフを振り下ろす。

その瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。

「お前等ここで」

「何をしている」

空蔵は金剛先生にあっという間に取り押さえられたんだろう。ぐぇっ、とか言う声が聞こえた。

また、一緒に来ていた先生が女生徒を抱えて教室から出ていくのが見えた。これで一安心だな。あとは……

「金剛先生……救急車呼んで……くれましたか?」

「ああ」

「呼んだぞ」

「そっか……。やべぇなぁ……血を流し過ぎた。」

目が見えなくなっている。多量出血のせいだろうか……こころなしなまぶたがどんどん重くなっていくような気もしてきた。金剛先生……後は頼んだぜ。遠くなりかけた意識の中でサイレンが聞こえた。やっと来たか。早くしてくれよ。俺はまだここで死ねないんだからよ!

そして、俺の意識は暗闇に落ちた。


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