私は彼の名を呼んだ
「あんたなんかだいっ嫌い!帰って!」
あぁ、言ってしまった。絶対に言ってはいけないのに。
なんて、悲しそうな顔をするの?やめてよ。私も泣きたくなるじゃん。
「な・・」
何か言おうとした彼の言葉を私はさえぎる。
「同じ事は二度も言わない」
私は彼に背を向ける。家に帰るつもりだ。幸い、家はすぐそこ。
はっ、何が幸いなんだ。一番嫌なパターンじゃないか。
「ついてこないで。さよなら」
家に入る前に、彼に告ぐ。私は彼の視線をさえぎるように扉を閉めた。
「ただいま。」
っていっても誰も答えない。当たり前。一人暮らしなんだから。
ドサッ
かばんを乱暴に床に置き、ひざを抱えて泣く。
「ほんっと、どれだけ不幸になればいいの?」
数秒泣いただけでひざはびしょびしょ。今まで溜め込んでいた涙が一気に出てきてしまった。
(なーに、ないてんだよ)
「!」
私は顔を上げる。
愛しい彼の声が聞こえた気がしたから。そんなわけ無いのに。バカみたい。
その日から食欲が無くなった。
翌日。
「よっ!」
彼は何事も無かったかのように挨拶してくる。
ばーか、涙の後が見え見え。私もなのかな?
当然のごとく私は無視。当たり前。私は彼を嫌っていることにしているんだから。
「おいおいおい。無視すんなよ」
まわりこんでくる。うざっ。
「なに?」
うざいなんて事は無い。本当は凄く嬉しくて羨ましい。あんなことがあったのに、いつものように話しかけてくれる彼が。
「挨拶されたら、挨拶で返さねえと」
「それは悪かったわね。おはよう」
冷たく言い放ち、私は教室に向かう。
あぁ、昨日まで凄く嬉しかった彼の隣のこの席。今では今すぐ彼と離れたい。
こんな気まずいのは嫌だから。
(すまん!この借りは絶対返す!)
彼の朝の台詞。いつも言ってた。宿題忘れるから。
「げっ、あいつと日直じゃん」
黒板の端をみて唸る。
「何言ってるの?昨日まであんなに嬉しそうにしてたくせに」
左隣の親友。右隣が彼。
「私にも事情があるの」
親友に一言言ったら先生が入ってきた。
一時間目の授業が始まる。
授業中も彼は話しかけてきた。「消しゴム貸して」とか、色いろ。
その度に私は、「反対側の人から借りて」と言った。
四時間目の特別教室の音楽。ここは気が楽だった。隣が彼じゃないから。
「おい、当てられてるぞ」
隣の男子にそう一声かけられて私ははっとした。
「どうしたんですか?あなたがぼーっとするなんて珍しい」
「すいません」
たしかに。授業中にぼーっとするのは今日が初めてだ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。
「起立、気をつけ、礼!」
『ありがとうございました!』
四時間目の次は昼休み。みんな思い思いの場所でお昼ご飯を食べている。
校庭で食べる人たちがいる中、私は教室で弁当を食べていた。彼がいつものように誘ってくれるかも、何てことを考えていたから。だけど彼も諦めていた。そうだよね。どうせ断るのに待つなんて、バカバカしい。
三分で弁当箱を空にすると図書館に向かった。
久しく行っていない。借りていた本の返却日はとうに過ぎていた。
俯き気味に廊下を歩いていると。
「あ、先輩!」
前に、この学園の生徒会長がいた。
「あ、三田会長」
「だから、ひかりでいいですよ。先輩も図書室に?」
「図書室と言うより、図書館の方がしっくり来ると思うけど?」
「そうですね」
ひかりちゃんと二人で図書館に向かう。図書館は落ち着く。毎日通っていたな。
彼と会うまでは。
「あ、先輩!」
カウンターにいる六年生に話しかけられる。
「はい?てかなんで私のこと、」
「六年生女子の間では有名ですよ?」
「あ、そうなの?」
初めて知る事実。詳しく聞いてみると私は真の大和撫子として有名らしい。
大和撫子は好きな人のために嘘をつくのだろうか?
「先輩にお勧めの本があるんです」
六年生は本を取り出す。
「これ、おもしろいですよ」
私は、借りていた本を返し、その本を借りる。
また、チャイムが鳴り、憂鬱な自分の席へと戻った。
「数学だからな、特別教室行くヤツは行けよー」
先生が私達に向かって言う。
数学で特別教室に行くのは、彼と他男子数名。
彼がいないこの時間は最近は彼のお別れ会の話をしていた。あくまでもサプライズでするらしい。
私は、急な用事でそのお別れ会にいけなくなったと委員長に伝え、自分の席に着く。
彼がこの町を出て行くのは今日の放課後。お別れ会も今日、そして彼の誕生日でもある。
誕生日プレゼントまで用意していたけど、渡すつもりは無い。と言うよりもう会いたくなかった。
用意していた彼のプレゼントは親友にでもあげようかな。
学校が終わる。
家に帰り、今日借りた本を読む。恋愛小説だった。
そして、この本の主人公は今の私とそっくりだった。
好きな人のために嘘をつき、そして報われない。
私の未来を見ているようだった。
ふいに、机の上においてある彼へのプレゼントと、時計を見る。
プレゼントは綺麗にラッピングされており、時間は、
PM5:15
となっていた。
彼が行ってしまうのは、五時半。彼の家まで全速力で走って十五分かかるかかからないか。
私はプレセントを引っつかみ、駆け出した。
その日はついていた。信号が全て青。これなら間に合いそうだ。
クラスメイトの集まりが見えた。きっと彼は車に乗り込む直前なんだろう。
息を整えるまもなく、私は精一杯、力の限り叫んだ。
「まって!!」
クラスメイトを掻き分け、彼の目の前に立つ。驚いた表情をしていた。
「昨日のだいっ嫌いは嘘なの。本当は大好きなの!あなたの事が心のそこから大好きなの!でも、あなたが引っ越すのは分かってた。別れるのが本当につらかった。だから、これ以上つらくならないようにって、だいっ嫌いって言っちゃったの。でも結局、余計に辛くなった!
だから、ゴメン。許してくれなくてもいい。けどこれだけは知っておいて!」
私はここで一回区切る。
「私はあなたのことが、大好きです」
そういい終わると、彼は、
「きゃっ」
私を抱きしめた。
「良かった、やっと聞けた。お前の本当の気持ち。このまま来てくれなかったらどうしようかと思ったよ」
「ちょっ、」
私は足をばたつかせる。彼の方が背が高いため、足が五ミリぐらい浮いているのだ。
次の瞬間私は心底驚いた。クラスメイトもざわつく。
そりゃそうだ、彼はいきなり私の唇に自分の唇を重ねてきたのだから。
「ありがとう」
彼はそういって私を放してくれた。
「あ、これ!」
プレゼントを差し出す。綺麗に整っていたラッピングはもうぐちゃぐちゃ。中身の手作りクッキーが壊れてないか心配になった。
彼は受け取ってくれた。
「じゃあ」
車に乗り込む彼のうしろ姿は、どこか満足げだった。
彼の乗った車が見えなくなるまで私はそこに立ち尽くしていた。見えなくなるとポツリと呟いた。
「ありがとう」
その後、クラスメイトに散々からかわれたのは言うまでも無い。
あれから十年。彼は幸せになっているのだろうか。
手紙も出さなければメールもしていない。あれ以降本当に私と彼は疎遠になっていた。
「やばっ、遅れる!」
腕時計で時間を確認し、親友との待ち合わせ場所に急ぐ。
最近新しくできた喫茶店だ。親友が意味ありげにニヤつきながらこういっていたのを思い出す。
「そこのマスターがすっごくイケメンなんだー」
あのニヤつき顔をしている時はいつも私が酷い目に合うことが多い。
さらに、彼が将来喫茶店を建てたいと言っていたのも思い出した。
「まさかね」
意を決して店内に入る。
テーブル席は二つ。どちらも四人席だ。テーブル席には誰も座っていない。カウンター席も四つ。こちらも誰も座っていない。
何気なく、この店の店員のまん前のカウンター席に座る。
(落ち着いていていいふいんきの店だな。これからもこようかなー?)
私がそんな事を考えていると、
「ご注文は?」
聞きなれた声が耳をくすぐる。はっとしてマスターの顔を見る。
まさかとは思っていたが、本当にそうだったとは。
目の前には疎遠になっていた彼が立っていたのだ。彼はにっこり微笑むと、
「久しぶり」
と言った。
恐る恐る私は彼の名を呼んだ。
初めて書いた恋愛小説なんですが、どうでしたか?
あまり上手くかけていない気がします。
他の作品もよろしくお願いします。