ゲームスタート
「何て事があったのよ」
私は祖母に体験した事を伝えた。男が持っていたナイフを祖母に渡した。ナイフが入れてあった鞘も一緒に渡した。
「ほぉ…、いい素材じゃな」
祖母は関心したようにナイフを見る。そして机に刺した。ナイフが深々と突き刺さる。抜き取ると、メリメリと音がなる。
「コレは持っていなさい。それとー…」
祖母は押入れからなにやら取り出す。鉈だ。
「ワオ、どしたの?これ」
サリが多少驚き祖母に聞いた。
「ホホホ…役に立つと思うぞ?持って行きなさい」
私は頷き、腰のベルトにナイフと鉈をぶら下げた。コートを羽織る。
「まあ、元気そうで良かった。少し村を観光してから帰るわ」
「ふ、そうかい。気をつけてな」
祖母は意味深に笑い、扉を閉じた。
「さ、どうする?歩いたらこの高い山にある家から村の中央、役場までは一時間はかかるよ」
サリがポツリと呟く。私はリュックを開き、折りたたみ式のキックボートを広げた。
「これでいくわ」
そのままひょいと乗り、下り道を一気に降りて行く。
「安全運転ね」
…どんどんスピードを加速させながら。
十分程度で役場についた。近くの商店街は多くの人で賑わっている。私はキックボートを折りたたみ、商店街へ向かった。
ほぼ同時にアナウンスが響いた。
『皆様、街に有毒ガスが流れました。村人も観光客様も、市民交流体育館にお集まり下さい』
『この村にもガスが向かってます!体育館にはガスマスク、非常食もありますっ、できるだけ急いで下さい‼』
そこでアナウンスがきれた。
「…」
私はしばし呆然としていた。周りがざわつき始める。そしてみんな体育館へと足を進めた。
「本当かしら?」
「まー行かないよりはいいんじゃない?」
「よね」
とりあえず体育館に行く事にした。体育館は大勢の人がいた。ざっと三千人はいるだろう。あちこちで声があがる。
「死なないんですよねッ⁈」「ガスマスクはまだか⁈」「うわああん…死にたくないよお」「早くいけ!」
みんな必死だ。泣き出す人もいたし、暴れ出す人もいた。
「みんな信じてるねー」
「うん」
見れば確かにみんな信じている。村人、観光客が集まったのか体育館の扉が閉じられた。
それと同時に男が立ち上がる。
「ふっ、はははははははっ‼」
狂ったように騒ぎ出す男にみんな静まり返る。しかし村長は下を見ていた。
「貴様らもバカだなあ!このガスの話は嘘なんだよおっ!」
「「⁈」」
みんな言葉を聞き、愕然とする。私も少々ながら驚いた。
「はへ」
サリの間抜け声だけが聞こえた。オトコは笑いを堪えるように腹を抑えた。
「お前らには今からゲームをしてもらう。その名も「殺し合いゲーム」。まんまだがな!」
「はあ…つまりこの人たちを殺せと?しかし、三千人もこの狭いスペースで動き回れますか?」
私が質問すると、男はニヤリと笑った。まるで質問するのを待ってたかのように。
「ずいぶん冷静な嬢ちゃんだなあ?まあいい、範囲はこの村全体だ!ただし、高い所…森らへんはダメだ。もちろん村の外も。『この先範囲外』の紙がある」
私はしばし黙々とした。馬鹿か?そんな紙、守るわけない。周りの人達も一緒な事を考えていた。男はみんなの気持ちを読み取ったのか、あるいは思われる事を予想していたのか、一言つけたした。
「ついでに、紙より外に出たら大量の地雷を踏んでしまうぜ。そして、最後の一人とならなきゃゲームは終わらない」
またも体育館がざわめき出す。
男は泣き声を聞くのを楽しそうに笑っている。まるで泣き声を聞くのが嬉しくてたまらないかのように。
「ゲーム、スタート」
パンパンパンッ‼男が運動会に使うピストルを体育館の天井に向け発砲する。その発砲音と共に、みんな外へと駆け出した。ここにいては殺される、そう思ったのだろう。
とりあえず残ったのは、私と男だけになった。男がすぐさま包丁でこちらへ駆け出す。私は右によけると鉈を取り出した。
「ほぉ、貴様は最後にとった方が面白そうだ。見逃してやる。いけ」
「それはどうも」
私はキックボートを広げ、体育館を滑り去った。
こうしてゲームが幕を開けた。