第71話 魔王様の育児奮闘記
エリアーレやエキドナのサポートもあり、クロノベロスが育児に少しだけ慣れてきた頃にはジークの首も座り徐々に夜泣きが始まってきていた。拾った直後はほとんど寝ていることが多かったジークも少しずつクロノベロスの言葉に反応するようになってきており、覚醒時間も伸びてきている。
「ふにゃあ!ふにゃあ!」
今日もジークは夜中に突然泣き始めた。クロノベロスはその声に即座に反応し、ジークが寝ているベッドをのぞき込む。
「今日も夜泣きか?母はここにおるぞ。何も怖いことは無い。」
最初こそ、何事かと驚き焦り、慌ててエリアーレの居室に飛び込んだクロノベロスであったが、夜泣きをする時期なのだと教えられて以来、眠い目をこすりながらではあったが落ち着いてジークをなだめる。ベッドを一定のリズムでゆすってやれば、ジークは数分で泣き止み再び眠りについた。
(不思議なものだ。ジークを拾った時はどうしたものかと途方に暮れることもあったが、いまではこの子の夜泣きさえ愛おしい。それゆえ、母親がジークを置いて行ったことが理解できぬ。)
クロノベロスは肉体の性別こそ女性であるが、神ズワースにつくられた神魔獣という個体種のため自分が親になることなど想像したことは無かった。身近な者に子を二人生んでいるエキドナこそいれども、彼女が子を産んだのはクロノベロスが休眠中のことである。また、エキドナは位階こそ低いが区分けとしては神の部類の入るため、人の子とは少々異なる。
クロノベロスにとって自分の周囲に赤子がいることなど数百年の年月の中でも初めてのことだった。それがどうか。たった数か月でクロノベロスにとってジークは最も大切な存在になっていた。
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ジークの子育てを始めてから半年ほどたって、クロノベロスは本格的に公務に戻ることになった。実際に魔王としての決済が必要なことはほとんどなかったが、それでも魔王軍としての組織運営や、庇護下にある魔族の治世については王が方針を決めるべきである。
休眠中はエキドナとその夫であるテュポーン、セイレーン四姉妹の長女テレーネが何とかやりくりしていた。しかし魔王が完全ではないにせよ、休眠から覚めたならば決定を見送っていた事項などを進めようということになる。
「魔王様、最近は仕事が早いですねー。」
「ジークが待っているからな。とりあえず昼前の散歩までには一通り終わらせるぞ。」
「助かりますー。でもテキトーに決めないでくださいねー。」
「わかっておるわ。」
午前中に処理すべき案件を決済し、クロノベロスは急いでエリアーレの居室に向かう。クロノベロスが公務の間は乳母を務めてくれていたエリアーレがジークを預かってくれている。
「あ、魔王様。早いですね。」
「あぁジークとゼファンを散歩に連れていくぞ。」
「あはは、いつもありがとうございます。二人とも魔王様の籠に乗って散歩をするのが好きですから、助かりますよ。」
「なに、仕事中は預かってもらっているのだ。少しでもできることはしたいのだ。」
散歩の準備を進めながら会話していると、エリアーレは何かを言いたげな雰囲気を醸し出している。
「ん?どうした?何か気になることでもあったのか?」
「いえね・・・言うべきか悩むんですけれど・・・」
「構わぬ。ここでは我は魔王ではなくおぬしと同じ一人の母親だ。むしろ世話になりきっている分、おぬしの方が偉いと言えるぞ。」
「さすがにそれは・・・。でもまぁ・・・。ジークなんですが、魔王様がいないと寂しいみたいなんですよ。お腹がすいているわけでもおしめを替えて欲しいわけでもないのに、たまに何かを探すような仕草をしていて、そのあと泣き始めることが何度かあって。」
「む・・・むぅ・・・。そうか・・・。少し考えさせてくれ。」
「いえ、大切なお仕事ですから、何かなさっていただく必要はないと思いますが、一応ジークのことなのでお伝えしたってだけで。」
「いや、ありがとう。今の我にとって一番大切なものはジークなのだ。彼のことは全て知っておきたいし、できることは全てしたいのだ。」
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「それでジーク君を執務室に連れてきたいってことですかー。」
「それだけではない。テレーネ、おぬしに離乳食とおしめを頼みたい。」
「えー!わたしは秘書官ですよー!赤ちゃんのお世話は仕事に入っていませんよー。契約書に書いていないことを無理にさせてはいけないんですー。」
「契約書など作っておらんだろうが。我はお前のように人型にはなれんのだ。せっかく便利な両手足があるのだからやってくれ。頼む。」
テレーネはクロノベロスの真剣な表情と深く頭を下げるしぐさに戸惑いつつも、お給料上げてくださいねと言いながら引き受けることにした。
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「おお!ジークいいぞ!もう少しだ!」
クロノベロスはジークがすりばいから体を少しずつ持ち上げハイハイを始めようとする姿に興奮が隠せなかった。
「魔王様ー、仕事をー仕事をしてくださいー。」
「分かっておるわ。うるさいな。お前にジークの愛らしさがわからんのか。」
(ジークが可愛いのは分かりますけどー、仕事を進めてくれないと二人とも帰れないじゃないですかー。わたしが止めないとずっとジークにかまっている魔王様が問題なんですよー)
テレーネだってジークが可愛いと思っている。ジークを執務室で面倒を見るようになってから、離乳食を与えたり、おしめを替えたりするのは彼女の仕事になった。毎日、お世話をしていれば情が湧くのは当然である。しかしテレーネまでクロノベロスと一緒にジークにかまってばかりいると本当に仕事終わらないのだ。そしてこわいこわーいエキドナに二人で長時間の説教を受けることになる。それだけは避けたいとテレーネは思っているだけだった。
「よし!もう少しでハイハイが出来るようになりそうだ。ゼファンはどうかな。もしかしたらあの子よりジークの方が早くハイハイが出来るようになるかもしれない。仕事が終わったらエリアーレに会いに行こう。そうしようなジーク。」
「はーやーくー、仕事に戻ってー。」
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