第70話 子育て始めました
「あ!魔王様ー!また森に行っていたんですかー!仕事が溜まってるんですからー働いてくださーい。」
森で赤子を拾ったクロノベロスが城に戻ると秘書官のテレーネが待ってましたとばかりに仕事を持ってくる。しかし、クロノベロスが咥えていた籠を見て首をかしげる。
「魔王様ー、その籠はなんですか?木の実でも取ってきたんですかー?」
籠をそっと床に降ろすクロノベロス。そして情けない顔をしながらテレーネに問う。
「これは・・・困ったことになったのだ・・・。どうしたらいいと思う?」
テレーネが籠を除くとそこにはすやすやと眠る普人の赤子がおさまっている。テレーネは赤子とクロノベロスの顔を何度も交互に見やる。そして、大声を上げて白の内部に向かって走り出した。
「た、大変ですー!魔王様が!魔王様がーー!人間の赤ちゃんをお産みになりましたー!大変ですー!エキドナ様ー!」
「あ!こら!大声を上げるな。この子が起きるだろうに・・・まったく落ち着きのないやつだ。」
クロノベロスの心配をよそに、赤子はテレーネが去った後もすやすやと寝入っている。クロノベロスに籠を咥えられ揺られるうちに気持ちよくなって寝てしまっていたようであった。クロノベロスはその様子に安心し、ほっと息を吐いてからもう一度籠を咥えて白の奥に向かって行った。
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「で?この赤ちゃんどうしたのさ。」
「森で拾ったのだ。」
「赤ちゃんが森に落ちている訳ないでしょう。」
まったく信用してくれないエキドナとテレーネにクロノベロスは森であったことを詳しく説明する。その話を聞いてエキドナは大きなため息を吐く。
「アンタねぇ・・・拾ってきちゃって、どうするつもりなのよ。育てられないでしょうに。」
「そ、それはそうだが・・・でもほら、エキドナも見てみるのだ。こんなに小さく、こんなに愛らしいのだぞ?捨て置けるわけないであろう。あのまま放置していたらモンスターに食い殺されてしまっていたのだ。」
「母親はどうしたのよ。」
「あの後、しばらくして追いかけたがすでにモンスターに殺されておった。」
それを聞いてエキドナはこれ見よがしに大きなため息をつく。
「あの森に入ってきたってことはー、森の境にある人間の村の住民でしょうかー?」
「そうでしょうね。」
「だったら村に戻して来たら良いのではないですかー?」
「そ、それは駄目ではないか?赤子を森に置き去りにするような親の村だぞ?しかも母親の言い方だと父親も亡くなっているはず。この子を育ててくれる者がおるのか?」
「それはアンタが心配することじゃないでしょうに。」
エキドナにたしなめられるもクロノベロスは考えを変える様子はない。それどころかエキドナにすがるような瞳でじっと見つめてくる。
「はぁーーーーーーー。もう!わかったわよ、わかったわかった。そんな捨てられた子犬みたいな目をしないで。アタシが悪者みたいじゃないの!でも面倒はアンタが見るのよ。絶対に途中で投げ出したら駄目よ。」
「わかっておる。我に任せよ。」
「マジで子育て舐めんなだわ。」
「そこは二人も子を産み育てているエキドナが頼りだ。」
「最初から頼る気満々じゃないのよ!はぁ、でもお乳はどうしようもないわね。」
「エリアーレさんがこの前出産されましたねー。一緒にもらえたりしないですかねー?」
クロノベロスはそれを聞いて、すぐさまエリアーレの自宅を訪れようとする。しかしエキドナが彼女の毛を掴みそれを止める。
「今何時だと思ってるのさ!夜中よ、よーなーか!迷惑でしょうが!」
「す、すまぬ・・・」
赤子の名はジーク。母親が叫んでいたのをクロノベロスは聞いていたため、そのままの名を使うことにする。そして翌日から魔王クロノベロスの子育てが始まった。朝起きたクロノベロスはさっそくエリアーレの自宅に赴き、事情を説明。彼女の子供と一緒に乳を与えて欲しいと頼み込む。
自分たちの長である魔王から直接頼まれたエリアーレは恐縮しっぱなしであったが、快く乳母を引き受けてくれる。しかし、彼女は魔人であり、いわゆる普通の人間と同じサイズである。一方クロノベロスはまだ完全に力を取り戻してはいないが、現時点で全長3mもある巨狼である。エリアーレの家に入るのは難しいため、エリアーレの一家は魔王城に引っ越してくることになった。
このことに一番被害を受けたのは彼女の夫である。彼は魔王軍の魔法開発部門の研究員であったため、職場と家が同じ場所になってしまった。そのため通勤が非常に楽なのであるが、反対に近すぎるが故に仕事が終わってすぐに帰宅する必要がある。仕事が長引いたことにして同僚と飲みに行って帰ることが出来なくなった。これにはエリアーレは大喜びで、早く帰ってきて育児と家事を手伝えと彼に圧をかけたのである。
しかも家に帰ると彼の最大の上司である魔王がいる。大喜びのエリアーレとは対照的に哀愁を漂わせた背中がとても物悲しく見えた。
エリアーレが母乳を与え、おしめの交換もしてくれるためクロノベロスは何もしなくてよくなったかと言えば、そうではない。エキドナはエリアーレにもクロノベロスが育児をさぼらないように強く言ってある。エリアーレもクロノベロスのことは魔王ではなく、新米の母親として扱うことにしたらしく、狼の体でもできることは全部クロノベロスにやらせるようにした。
おしめを替え母乳をもらったジークとエリアーレの子であるゼファンは、クロノベロスに取り付けられた籠にいれられる。そしてクロノベロスが散歩に連れていく。彼が歩くたびに柔らかく揺れる籠は赤ちゃんにとって母親のお腹にいたころのような揺れがあるようで、子供たちははとても落ち着いていられる。
赤ちゃんなんてものは、寝かせたとたんに泣きだすことから背中にスイッチがついていると言われることがあるが、クロノベロスの籠に入れればあら不思議。とても上機嫌である。そしてしばらくするとすやすやと寝てしまうのだ。
エリアーレは母乳とおしめ以外は自分の時間を多く使えるようになり、彼の夫以外はとても平和な時間を手に入れたのだった。
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