第57話 戦闘開始
「おいおい・・・大丈夫かよ・・・。なんかこう・・・。」
「ハルト様・・・それ以上は言わないでください・・・分かっていますから・・・。」
儀式魔法を使用することが決定してからソーシエラとブランジは休みなく魔法陣を構築していた。ハルトが二人を見かけたとき、ソーシエラの目は血走り、服は薄汚れ・・・そして若干臭うような気がした。ブランジは目の焦点が合っておらず、呪詛のような何かをブツブツと言い続けながら魔法陣を刻んでおり、ハルトの存在には全く気付かないようである。
(これは・・・近づかない方がいいやつか・・・)
ハルトはそっとその場を去った。
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「ソーシエラはどうだったにゃ?」
「あれはヤベぇ。近づかない方が良い。」
「二人は食事も睡眠もあまりとらず、着替えもしていないようですわ。せめて魔法陣の構築が終わったら湯浴みとまではいかないまでも、湯で体を拭くぐらいはしてあげたいですわね。」
「風呂がありゃあなぁ・・・。」
「わたくし、料理長にたくさん湯を沸かせないか相談してきますわ。」
そんな感じでハルトたちがソーシエラを心配していたが、ついにモンスターの群れの到達予想日前日となった。
「で、できました・・・これで儀式魔法が発動できます・・・。」
フラフラになりながらも完成報告を行うソーシエラ。ちなみにブランジはボロ雑巾のように床に倒れており、完全に意識を失っていた。その表情は幸せそうだったが、時折苦しそうな顔をして、寝言として上位者に対する呪いを吐き出している。
「ソーシエラ、お疲れ様ですわ。湯を用意してありますから、こちらで体を拭きましょう。」
レーヴェルが肩を貸し、エヴァンシアに伴われソーシエラが去っていく。ブランジはリュコスたちが回収していった。
「これで準備が整ったな。ハルト殿、最後の会議を行うから指揮所に来てくれ。」
スタヴロスに声を掛けられハルトとミーアは指揮所に向かう。少しだけ遅れてリュコスもやってきた。
「では作戦の最終確認だ。」
クレザー司令の言葉で副官が説明を開始。儀式魔法の射程にモンスターの大半、特に後ろにいる巨人モンスターが入ったところで魔法を発動し殲滅する。だが、モンスターの数があまりに多いため、巨人モンスターが射程に入るころには前方に位置するモンスターたちは砦に到達してしまう。
そこで、儀式魔法に参加しない兵を馬防柵の間に配置し、足止めを掛ける。ハルトやスタヴロス、リュコスもこちらに参加する。ハルトたち前衛の後ろには弓隊を配置し、矢が尽きるまで曲射を続ける予定である。
魔法に長ける者は儀式魔法に参加するため、魔法による支援は行えないため、前衛の負担はかなり大きくなると想定されるが、陣形を組み、交代で治癒・休憩を行いながら前線を支えることになっている。
「ハルト殿のパーティで前衛に参加するのはハルト殿とレーヴェル、ミーアで良いのか?」
「いや、ミーアはソーシエラとエヴァの護衛に砦に残す。空を飛ぶモンスターを落とし損ねて万一魔法部隊が攻撃されたまずいだろ?」
「わかった。リュコスはどうだ?」
「僕たちはブランジ以外は前衛で出ます。」
(あまり気にしてなかったけど、リュコスのところのリュコスと装備が似てる兵士・・・あれは女だな。魔導士は男だったから、あの兵士っぽいやつ一人だけが女か。うちと反対で逆ハーレムか。)
ハルトがくだらないことを考えながら女性兵士を見ていると、その視線に気付いたのか女性兵士はハルトの方を少し見て、目が合った瞬間にハルトを睨む。そしてすぐに視線をはずしてしまった。
(え?オレなんかしたっけ?スッゲー睨まれたんだが?)
「よし、作戦は以上だ。今日は早く休んで明日に備えよう。皆の善戦を期待する!」
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翌朝、日が出る間近の時間、砦では多くの兵士たちが作戦行動のために配置に着こうとしている。
「ソーシエラ。頼むぞ。」
「お任せください。ワタシにとってもこの戦いが人生を決める重要な一戦になりますから。絶対に成功させます。」
ハルトはソーシエラの言葉に頷く。
「ミーアも万一の時はエヴァとソーシエラを守ってくれ。」
「任されたにゃ。本当に最悪の場合は・・・。」
「ああ頼む。」
「ハルト様ご武運を。」
「エヴァも頼んだぞ。役立たずなんかじゃないことを見せてくれ。」
ハルトは少しかがんでエヴァンシアを目線を合わせ、エヴァンシアの頭をなでる。
「いくぞハルト!」
「おう!」
ハルトたちが砦の外に出て迎撃予定地点に着くと、他の兵士や傭兵、そしてスタヴロスの部隊とリュコスたちはすでに配置についている。
「ハルト殿。死ぬなよ。」
「当然だ!」
「勇者の力を見せてやりましょう!」
(この坊ちゃんは少年漫画の主人公みたいなやつだな。ここらで死にそうで心配になるぜ。)
そして、ハルトたちの目にもモンスターの大群が見え始める。
「弓隊よーい!放てーー!」
後方では弓兵隊の攻撃が開始される。矢の雨にさらされて何体かのモンスターが光の粒になって霧散していくがあまり大きな効果は得られていないように思われる。そしてホーンボアが猛スピードで突進してくる。前衛の戦士たちは馬防柵を避けて突進してくるホーンボアを斬りつけて討伐していくが、ホーンボアの隙間から駆け寄ってくるグレイドッグの攻撃を受け始める。更にはシャドウウルフなどの上位種が混じり始めると、じりじりと押される部隊が出始める。
「くっそ!しょっぱなからこれかよ!斬っても斬ってもきりがねぇ!」
「口より手を動かせハルト!」
「分かってるよ!けど押されてる部隊の方がヤバいぞ!」
「ここは私に任せて援護に行ってくれ!」
「それしかなさそうだな。死ぬなよレーヴェル!」
「これしきで私は死なん!」
ハルトはレーヴェルに担当地点を任せて押され気味の部隊のフォローに入る。シャドウウルフのスピードについていけない者も多くかなり苦戦しているようだ。ハルトは神剣にプラーナを込め直して一気にモンスターを斬りつけていく。
「オレが斬ったやつにとどめを刺していけ!」
「勇者が加勢に来てくれたぞ!」
「うぉぉお!ありがてぇ!」
ハルトの参戦で士気を取り戻した兵士たちは、ハルトが麻痺させたモンスターにとどめを刺していき、効率的に数を減らせるようになる。
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砦の前面城壁の上に立つソーシエラは儀式魔法発動準備を行っていた。
「ソーシエラさん、こっちの準備はできました。始めますか?」
「ええ。そうですね。」
ソーシエラは城壁の上から広場に設置された魔法陣の上で待機するエヴァンシア達に覚醒の魔道具を使って声をかける。
「モンスターの進行が始まりました。これから儀式魔法の発動の準備を開始します。皆さんのプラーナを集めさせていただきますので、魔法陣の上から動かないようにお願いします。体から力が抜けていく感覚があると思いますが、決して動かぬよう集中してください。」
そしてソーシエラは両手を天に掲げ集中し始める。隣に立つブランジも杖を両手で持ち、集まっていくプラーナが散っていかないように制御を開始。
「我ら結び付けたる大地よ。我らの魂に応えその力を束ねん。
我が声が呼ぶは破滅の刻・・・」
通常の魔法では必要がない詠唱を開始するソーシエラ。これから発動する魔法は神が与えた魔法ではないため、広場に設置した魔法陣と詠唱を持ってプラーナを集め、制御し必要な形へと変換していく必要がある。
強大な力が集まっていく中、それを察知したかのようにハーピーやヒポグリフが砦に向かって飛来する。
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