第56話 宿命
作戦が決まった翌日からソーシエラは宮廷魔導士第十席のブランジを伴って砦内中央広場に魔法陣を構築し始めた。手伝えることは無いということで、レーヴェルは軍に交じって訓練を行い、ミーアは斥候隊に交じって情報収集を行っている。エヴァンシアは備品の整理や洗濯、料理などを手伝いつつ、時間のある時は神に祈りをささげていた。
「ハルト。たまには訓練に参加しろ。」
特に何もすることなく、だらだらと過ごしているハルトを見てレーヴェルが指摘する。
「なんで男どもに交じって訓練なぞしないとなんねーんだよ。」
「ハルトは剣の鍛錬を全くしないではないか。スタヴロス殿やリュコス殿など、普段立ち会うことが出来ない強者がいるのだから、この機会を逃す手はないぞ。」
「オレはレーヴェルと違って剣術には興味ないんだよ。それにこの前リュコスとも戦っただろ。」
「神剣を使ったらハルトにかなうものがいるはずないではないか。」
レーヴェルが指摘したように、ハルトはリュコスと一度だけ手合わせしていた。だが、リュコスは最初の打ち合いで麻痺させられたため、まともに戦うことなく決着がついてしまった。
「木剣でやってみろ。剣の腕が分かるはずだ。」
「だーかーら、嫌だっての。無駄なんだよ、そんなことしても。」
しつこく食い下がるレーヴェルから逃げるようにハルトは砦の外に出る。出たところで兵士たちと何かを話しているミーアを見つけた。
(あれも面倒そうだな。気付かれる前に逃げよう。)
ハルトは踵を返して砦に戻ろうとしたが、そんなハルトに気付いたミーアに声を掛けられる。
「ハルトー!暇そうにゃ。馬防柵を設置するから手伝うにゃ。」
聞こえない振りをしてそのまま去ろうとしたハルトだったが、ミーアはハルトの腕をつかんで無理やり手伝わせるのだった。
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「はぁロクな目に合わねぇ。」
馬防柵を設置し終わったハルトは食堂でぐったりとしていた。
「ハルト様、お疲れ様ですわ。」
エヴァンシアが紅茶を淹れて持ってきてくれる。ハルトと違って毎日必死に手伝いをしているエヴァンシアだったが、その表情は何か満たされているように見える。
「エヴァはそんなに働いているのに楽しそうだな。」
ハルトに指摘され、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにするエヴァンシア。
「わたくし・・・こうやって誰かのお役に立てているのが・・・嬉しいのですわ。」
「王女様とは思えないセリフだな。」
ハルトの言葉に少しだけ表情を暗くするエヴァンシア。だが意を決したように話始める。
「ハルト様は神託の巫女のことをどれくらいご存知ですか?」
「ライラの言葉を受信できるってことくらいしか知らないな。」
「そうでしたか・・・。」
エヴァンシアは少し寂しそうに、そして言葉にすることを迷うような表情を浮かべる。
(姫様で巫女で、ってなりゃあ何も辛いことがない幸せな人生なのかと思ってたが、なにかあるのか?子供の頃・・・こんな時はどうして欲しかったっけ。)
「エヴァ。オレはお前のことを全然知らねぇ。それでも話を聞くことぐらいはできるはずだ。無理にとは言わねぇが、話したら楽になることもあるぜ?」
「ハルト様・・・」
エヴァンシアはハルトの言葉に少し驚きながらも、意を決したように話し始める。
「わたくしは役立たずなのですわ・・・」
ハルトはとっさにそんなことは無いと言いそうになったが、続きがあるだろうと察し、黙って続きを待つ。
「ハルト様はわたくしのお兄様やお姉様のことはご存知でして?お兄様は王太子として全く非がない方ですわ。国を治める者としての知識、経験、判断力・・・そして騎士団に匹敵するほどの剣の腕と魔法・・・。完璧ですわよね。」
(王太子って王都謁見した時にいたザ王子って感じのスーパーイケメンか?あいつそんなに凄いやつだったのか。)
「お姉様は3人いるのですが、3人ともそれぞれ得意なことがありますの。一番上のお姉様はとても知識が豊富な方で学者様にも一目置かれるほどの方でしたわ。今は隣国の王子様とご結婚されて素晴らしい領地経営をされているそうです。次のお姉様は武勇に優れる方で、剣の腕も魔法の腕もお兄様に匹敵する方でしたわ。今は南の公爵様とご結婚されて姫騎士の呼び名で領地をモンスターからお守りになられています。」
第3王女も貴族学校で生徒会長をしており、他国の王子との婚約も決まっている。
「みな、それぞれがアイトリア王国の王族に恥じない能力と貢献をなさっておりますわ。それに比べてわたくしは・・・有力貴族などとの結婚で王家の力を守ることもできず・・・魔法すらも使えない・・・わたくしだけが何もできない・・・。」
「エヴァには神託の巫女って言う立派な役目があるじゃねぇか。こうしてオレ達と魔王討伐の旅に出ている。他の王族には出来ないことだろ?」
ハルトの言葉にエヴァンシアは少し悲し気に微笑む。そして神託の巫女という存在について語った。
神託の巫女は『神託』という能力のためか、この世界では誰でも使えるはずの『魔法』が使えない。全ての属性に適性が無いのだ。
そして、勇者が現れると命を懸けて魔王討伐に同行するため、王位継承権がなく40歳までは結婚も許されない。なお、40歳を過ぎて子を産んだ女性はいないため、神託の巫女が結婚し家庭を持ったという記録は存在しない。
「ハルト様が現れてくださったから、わたくしはこうして世界のお役に立つことができていますわ。でもそうでなければ・・・神託の巫女は誰の役にも立たず、ただ待つだけの存在なのですわ。」
「エヴァ・・・。」
ハルトはエヴァンシアが語る神託の巫女と言う呪いのような役割に対し何も言うことが出来かなった。ただ、たった12歳の子供が抱えるには重すぎる事実に苛立ちを感じていた。
「エヴァ・・・確かにそうかもしれないが・・・でもエヴァに何か罪がある訳じゃない。そんな風に思う必要はないだろ?」
「ハルト様はこの300年、神託の巫女が王家からしか生まれていないことをご存知ですか?」
「ん?いや・・・そうなのか?」
「はい。先代勇者様と魔王を討伐した神託の巫女は村娘だったそうですわ。でも今は王家の姫だけが神託の巫女になっている・・・。神託の巫女はプラーナが非常に多いものが指名されるようなのです。それに気付いた王家は何百年も前からプラーナが強いものを王家に取り込んできましたわ。そして最もプラーナの多いものは王家にしか生まれなくなった。
だから・・・わたくしが神託の巫女になったのは偶然ではないのですわ。」
微笑みながら話すエヴァンシアだったが、ハルトにはその微笑みが泣いているようにしか見えなかった。
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