第26話 勇者選抜開始
「よし!行ってくるぜ!」
「頑張るにゃ!あちしの人生もかかってることを忘れちゃだめにゃ!」
公衆浴場に通い、ダンジョンに通い、そんな毎日を過ごしているうちにあっという間の1か月。ハルトが神託の勇者であることを知ったミーアは商隊護衛の仕事を辞退し、完全にフリーの傭兵に戻るなど、細々と変化はあれど二人の関係は特に変わらず勇者選抜の開始日を迎える。
かなりの人数が募集したらしく、王都の巨大公園内に設営された事前選考会場には数えきれないほどの戦士たちが集まっていた。ハルトは事前登録証を持って受付をすませ記号と番号が書かれた札を受け取り指定の会場に向かう。
複数の選考ブースが設けられているようだったが、ハルトが向かったブースにも30人ほどの戦士たちがすでに待機していた。待合場所の奥には幕が敷かれ中が見えなくなっている。恐らくその中で選考が行われるのだろう。数分待ち、さらに応募者たちが集まってきたタイミングで番号順に選考を行う旨がアナウンスされた。
順番に幕の向こうに順に消えていき、たまに気合が乗った声が聞こえてくる。しかし戻ってくるものがいないままハルトの番になり幕をくぐる。
「番号札を見せてください。」
札を確認しているらしい男性に番号札を見せると男性は頷いて丸太が立っている場所を示し進むように促す。
丸太のそばには兵士らしき人が立っており、得意武器で丸太を斬りつけるよう指示される。
(なるほど、とりあえず丸太斬りって訳か。コストも時間もかからず単純な腕を見られるって事ね。斧とか持ってるやつが有利じゃないか?)
いつもの癖で人が決めたルールの穴を探してしまうハルトであったが、特に口には出さずプラーナを込めた神剣を抜く。そして袈裟斬りに一刀、丸太を斜めに両断する。
神剣を鞘に納め兵士の方を見ると、ポカンと口を開けたまま丸太を見ている。
「おい、終わったがどうしたらいいんだ?」
「えっ、あぁ、えーっと。ああ、いや、すまん。右側の幕を通って次の選考に進んでくれ。」
どうやら選考は1つではなく複数の課題をクリアする必要があるらしかった。会場に集まった人数を考えると丸太斬りだけではないなと納得したハルトは右手の幕をくぐる。左側にも幕があったので不合格の者はそちらから会場の外に出ていっていたのかもしれない。
(地球より文明的には遅れている感じだけど、意外に導線とかは考えてるんだな。こういったイベントがそれなりにあるのかな?さすがは王都って感じか。)
幕をくぐると先ほどの兵士より効果そうな鎧を着た男が待っていた。
「ふむ、ずいぶん若いな。いくつだ?」
「16だ。」
「ほほぅ、これはまた。よし次の選考課題は私と手合わせしてもらう。お互い怪我はさせないように注意してくれ。」
お互い、とは言うものの、暗にこちらが怪我をするなと警告しているような表情を見せる鎧の男。ハルトは少しだけ不機嫌になるも、実力を示せば良いだけだと あえてニヤリと笑い男を見返す。
流石に真剣を使うわけではないようで、訓練用の木剣を手渡された。
ハルトは同席していた兵士の開始の合図を聞き、先手必勝とばかりに大きく踏み込み鎧男に剣を振るう。鎧男は一瞬驚いたような表情を浮かべるも、ハルトの剣がその身に届く前に自身の剣を滑り込ませてハルトの一撃を防ぐ。
ハルトはいつもの癖で麻痺することを勘定に入れて次の動きを取るが、その明らかな隙を鎧男は見逃さずに反撃に出る。
ハルトは慌てて身をよじり攻撃を躱して距離を取る。
(あぶねぇあぶねぇ。ついいつもの癖で麻痺を前提にした動きになっちまった。だが、それほど早いわけじゃないし、負ける気はしねぇ。)
ハルトは気を取り直し、無意識に余裕の笑みを浮かべながら男に再度攻撃を仕掛ける。そのハルトの表情に不愉快気な表情を浮かべつつ、ハルトの攻撃に対応する鎧男。だが、ハルトの剣の速さ、苛烈さに防戦一方となり幕の端まで追いつめられた鎧男をみて、同席の兵士は「そこまで」と手合わせを止める。
鎧男はふーっと大きな息をはいて、笑いながらハルトに声をかける。
「いやー、まさかここまで できるとは。見くびってすまなかった。」
自分よりずいぶん年下の男に負けた鎧男だったが、特に嫌な顔をせずにハルトを勝算し、最初の態度を謝罪した。そして、合格証となる木製の札をハルトに渡し、3日後に王城の入口となる城門に来るようにと言う。
合格証を受け取り、また会おうという鎧男の言葉を背に選考会場を後にした。
「まさかヘリオス様をあそこまで追いつめるとは・・・。」
「はははっ。有望な若者が現れたものだ。本当に勇者かもしれんぞ。」
「さすがにそんなことは無いでしょうけど・・・。ヘリオス様が本当の装備を使っていたら一瞬でしょう。」
「どうかな。あちらも自前の剣は使っていないから条件は同じだ。」
「いやいや、王国騎士団の隊長と同レベルの装備を持っている傭兵なんていないですよ。」
アイトリア王国王国騎士団第6部隊隊長のヘリオスは反論の余地もないと肩をすくめるのみだった。
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