第23話 レギオン
9層に降りたハルトとミーア。平原は遠くまで見通せるが、8層まで見えていた黄色い草むらは見える範囲にはない。
「ミーア、罠はここから見える範囲にあるのか?」
「うーん、多分あそこがそうにゃ。」
ミーアが指さした方向をハルトがじっくり見てみると、うっすら草の色が薄いように思える箇所がある。
「マジか・・・遠くから見たらほとんど分かんねぇな。難易度が一気に上がりすぎだろ。」
「モンスターも強くなって罠もわかりづらい・・・ここで挫折する傭兵も多いにゃ。優秀なスカウトが必要になるタイミングにゃ。」
「じゃあ、オレには優秀なミーアさんがいるから大丈夫だな。」
「まぁあちしのスカウトとしての能力は足りてても、二人だとこの先は本当にきつくなるにゃ。でもまぁ10層のボス部屋までは行けるはずにゃ。」
ハルトとミーアは慎重に9層の攻略を始める。
初めて遭遇する巨人デミギガスはミーアが上手く誘導してくれるおかげでハルトは1体1の状態で戦うことができたため、想像より苦戦はしなかった。ただし一撃でも攻撃を受けるとハルトとミーアはどちらも重症もしくは致命傷となるため、回避だけはミスが無いよう慎重に行う。
ハーピーはとにかく速攻。ミーアの弓矢、ハルトのスリングで羽を狙い地上に落とす。落とした個体は即座に倒す。そして魔石を回収したら逃げる。この繰り返しである。
戦闘自体はハルトの成長もあり大きな負傷をすることなく進めることが出来たが、罠を踏まないように戦うため、ハルトの神経は少しずつすり減っていった。
しかし、結局は罠にかかることなく10層ボス部屋前まで到達。ボス部屋は平原にポツンと建てられた円形の闘技場コロッセオである。闘技場への入場門の前はセーフエリアになっているようで、ボス戦準備を行う傭兵たちの休憩場所になっていた。
「にゃー、サイラスにゃ。久しぶりにゃ。」
「ん?ミーアか?王都に戻ってきていたのか。」
ミーアが話しかけたサイラスという顔に傷がある強面の傭兵は渋い声で返答する。随所に金属が使われた使い込まれた革鎧に、鍔の中心に魔石らしき赤い石がはめ込まれた両手剣を腰に差す歴戦の傭兵と言った様相である。
「お前がダンジョンアタックとは珍しいな。貴族のパーティのガイド・・・という訳でもなさそうだが・・・その小僧と二人だけでここまで来たのか?」
ミーアの後ろにはハルトしかないことを確認したサイラスは少し驚いた表情を見せる。サイラスたちのパーティはサイラスを含めて8人いる。
「そうだにゃ。色々あってにゃ。サイラスはいつも通り2パーティでの合同ボス討伐にゃ?」
「そうだ。これから戦闘を開始する。まさか二人でボスに挑むつもりではないだろうな?」
「にゃはは、さすがにそこまで無謀じゃないにゃ。ここで引き返す予定にゃ・・・あー、でもサイラス達さえ良ければボス戦の見学をさせて欲しいにゃ。すごく良いタイミングにゃ。」
「はぁ、何を言っている。そんなことをして俺達に何の得がある?守銭奴ミーアの言葉とは思えんな。」
「もちろんタダとは言わないにゃ。5層ボスの魔石でどうにゃ?」
魔石を見せながらススっとサイラスの胸に自身の体を密着させ、上目遣いで交渉を開始するミーア。少し焦りながらも、まんざらではなさそうな雰囲気で答えるサイラス。
「お、おう。まぁ5層ボスの魔石なら・・・悪くない取引かな・・・。ただし見ているだけだぞ。分け前は無し。邪魔も絶対にしない。いいな。」
(チョロイなおっさん。まぁミーアのあれはまぁイイ匂いもするしな・・・男なら仕方がないぜ おっさん。)
心の中でサムズアップをし、同志を見るような目でサイラスを眺めるハルト。ミーアはハルトの方を向いてニヒヒと笑っていた。
気を取り直したサイラスは仲間たちに声をかけボス部屋の扉を開き中に入っていく。ハルトとミーアもそれに続いてボス部屋へ入場した。
中に入ると円形闘技場の奥側に6体の巨人が立っている。金のサークレットを額にはめ、法衣に身を包んだ巨人と、それを守るように前に立つ5体の巨人。5体の巨人は5層ボス カトレスのような片手剣と盾装備である。
「何となく想像していたけど、ボスも複数か。」
「そうにゃ。二人だとさすがに無理にゃ。」
「まぁ戦い方が分かればなんとかなるかもしれないけどな。」
「まぁ見てるにゃ。奥の法衣がデウリオン、手前の5体がギガスガードにゃ。」
ミーアがハルトに説明する中、サイラス達は戦闘を開始。初手はデウリオンの魔法だった。デウリオンが何かをつぶやくと赤い魔法陣が生成され、そこから炎の弾が10発放たれる。前衛の戦士たちは、それを危なげなく躱しながら、ギガスガード達に攻撃をしかける。後衛のヒーラーらしき者は大きな盾を構えた戦士が守っていた。
「魔法か・・・そんな気はしていたけど。あれは火の魔法だよな。人間が使うものと同じなのか?」
「そうにゃ。あれは火の魔法第二節フォティア・スフェーラにゃ。第二節は複数を攻撃できる範囲魔法にゃ。」
(火弾の速度自体は大したことがないか。だが、前衛との戦闘中に魔法で横やりを入れられるのは厳しいな。)
しかし、サイラス達はデウリオンへの対策はできているようで、後衛にいた一人がデウリオンの放った火弾を水弾で相殺する。
「ネロ!」
「あれが水の魔法第一節か。」
「そうにゃ。デウリオンが前衛のサポートをするときは第一節を使うから、それを水の第一節で相殺しているにゃ。あの魔導士は第一節ならかなりの数を使えるはずにゃ。」
(ようやくまともな魔法使いが出てきたな。楽しくなってきたぜ。)
そうこうするうちにギガスガードと1対1で戦っていたサイラスたち前衛の戦士たちが、一人また一人とギガスガードを打ち破っていく。ギガスガードが全滅したところでデウリオンが再度 火の魔法第二節フォティア・スフェーラを放つも、前衛まで上がってきていた盾持ちがそのほとんどを防ぎきり、後方から飛んできた水の魔法で態勢を崩したデウリオンに5人の戦士たちが攻撃を加える。それが致命傷となったか、デウリオンは断末魔の叫びをあげながら光になって霧散していった。
サイラス達は肩で息をしながら勝利を喜び合い、魔石を拾ってミーアたちの元に歩いてくる。
「どうだ?参考になったか?俺達は何度もデウリオンと戦っているから、必勝パターンが出来ている。少人数だと同じ事は出来ないと思うぞ。」
「そうだにぇ。まぁ集団戦がどういうものかハルトに見せたかっただけだから目的は達したにゃ。」
「お前がそこまで時間と金をかけるとは、その小僧はそこまで見どころがあるってことか。」
「にゃはは、秘密にゃ。ありがとにゃ。持つべきものは友達にゃ。」
ミーアの返答を聞き、肩をすくめたサイラスたちはこれ以上先に進む予定は無い様で、ダンジョンを引き返していった。
「さ、あちし達も戻ろうにゃ。しばらくは9層までで稼ぐか、パーティを組むかになるにゃ。」
「なぁミーア・・・相談があるんだが・・・」
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