第15話 ミーアの実力
ミーアさんはハルトより年上です。
ミーアとは翌日の8時に傭兵組合の談話席で待ち合わせする約束をして、その日は別れた。ハルトは内心小躍りをしながら明日の準備に取り掛かる。傷薬や保存食などの消耗品の補充を行い、ふと思い立って肌着などの衣類を新しく買い替えることにする。毎日洗濯もしているし、風呂こそないが体を拭いたり、川辺で水浴びをしたり清潔には保っているつもりでも自分のにおいは自分では分かりづらいので、ミーアに不快な思いをさせて幻滅させたくないと思ったのだ。
ハルトは初めて女性とデートをする青少年のように落ち着かない様子で翌日に備えるのであった。
翌朝、ハルトが傭兵組合に訪れるとすでにミーアが来ており、受付嬢のエレナと雑談をしている。ミーアはハルトに気付くと手を振ってハルトに近づいてきた。昨日とは異なり、腰には片手剣よりは短い、ナイフというには少々長めの短剣、あるいはダガーと呼ばれるような長さの剣を差している。後ろの腰や胸のあたりには投げナイフらしき短めの刃物を仕込んでいるのが分かる。小さめのポーチを腰につけており、消耗品が入っているようだ。
服装は革の胸当てにブラックレザーのパンツ。白い髪にわずかに入る黒いメッシュの頭には白い耳が二つ、天に向かってピンと立っている。腰の下あたりからは白い尻尾が伸びており、ゆらゆらと揺れていた。緑の瞳の奥には猫のような縦長の瞳孔が見える。明るさによって大きさが変わるのだろうか。ハルトは少しだけいたずらっ子のような表情が見え隠れする整ったミーアの顔を見て、喜び以上に緊張が勝っていた。
「おはようにゃ、ハルト。今日はよろしくにゃ。準備はできてるかにゃ?」
「あ、ああ。おはようミーア。今日はよろしく・・・準備は大丈夫。うん、できている。」
完全にミーアのペースに飲み込まれている様子のハルトを見て、エレナはやれやれといった様子だったが、最低限の声掛けは行う。
「初めて組むパーティなので、無理はしないでくださいよ。ミーアは商隊の護衛もあるんですからね。」
「にゃはは、エレナは心配症にゃ。あちしが何年傭兵やってると思ってるにゃ。それにハルトはかなりの腕前みたいだから浅い層なら事故なんて起こりようがないにゃ。あるとすれば、ハルトの男の子の部分が暴走することくらいにゃ。」
(男の子の部分・・・)
「い、いやっそんなことはっ。し、仕事はしっかりやるつもりだ。安心してくれ。女性に危害を加えるようなことはしない。」
「ハルトは紳士だから大丈夫だってにゃ。」
ニヒヒと笑うミーアに促され、ハルトは魔領域の森に向かうのであった。
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森に入ると、ミーアはそれまでのおちゃらけた様子から一変し、真剣な表情でハルトを先導し始める。スカウトであるミーアが先行し、ハルトはその後をついていく形で進む。ミーアの足運びはアンドレイア団のアリストをも凌ぐ洗練されたものだった。
ハルトが気付くよりかなり早くにモンスターの存在を察知しており、ミーアに指さされた箇所をよーく見て、ようやくモンスターの存在に気付けるぐらいだった。
「とりあえずゴブリンでお互いの実力を確認するにゃ。ハルトはいつもどうやって戦ってるにゃ?」
「可能な限り気付かれない距離まで近づいてから、向かって左から順番に斬っていく感じかな。」
「OKにゃ。ハルトはいつも通りに攻撃してくれていいにゃ。あちしはゴブリンの意識がハルトに向いてから右を攻撃するにゃ。ヘイトを持ってもらって大丈夫かにゃ?」
「当然だ。スカウトにヘイトを取らせるようなことはしないぜ。」
ハルトの言葉にミーアはニコリと笑った後、傍にいるはずのハルトでも一瞬見失うようなほど気配を希薄にして右に回り込んでいった。
(マジかよ。あそこまで気配って消せるもんか。こりゃ気合い入れないと格好悪いところを見せちまいそうだ。)
ハルトはミーアの技量に驚きつつも、気合を入れ直す。神剣にプラーナを込め、3体のゴブリンに近づけるところまで慎重に近づいてから一気に地面を蹴ってゴブリンに斬りかかった。
ハルトが飛び出す直前にゴブリンの後方でガサっと音が鳴り、ゴブリンの意識が一瞬そちらに向かう。ハルトはそのまま意識が逸れたゴブリンに神剣を振るい、首をはねた。それに気付いた残りの2体だったが、構えを取る前にハルトは中央にいたゴブリンを斬り付ける。ゴブリンは体を震わせ倒れこみ、動かなくなる。ハルトは最後の1匹に目を向けたが、すでにミーアが背後からダガーを心臓に差し込んでおり、ちょうど光になって霧散していくところだった。
それを見たハルトは倒れているゴブリンに神剣を突き刺しトドメをさした。
「本当に強いにゃ。ゴブリン2体が一瞬にゃ。あちしがいなくても3体なら余裕みたいだにゃ。」
「いや、ミーアが音を出して一瞬気を引いてくれただろ?あれがあったから1体目を瞬殺できたんだ。オレなりに自信があったつもりだったが、ミーアの技術には驚かされてるよ。」
「素直でよろしいにゃ。若い男の子は素直な方がお姉さん受けがいいにゃ。覚えておくといいにゃ。」
「ははっ。ありがたくいただいておくよ。ありがとうミーア。」
その返答に満足したのか、ミーアは魔石を拾って次に行くにゃと森を進みはじめる。ゴブリン層を通り抜け、獣層での狩りを行う二人。
オロスやアルミラージは気配察知能力が高く、ハルト一人の時は双方発見のタイミングは同じくらいだったが、ミーアはモンスターが気付く前に発見することができるようで、不意打ちや投げナイフを駆使して、先手を取ってくれる。そのため、ハルトは神剣の麻痺による行動疎外を行わなくても、一撃でモンスターを倒せるようになっていた。
普段一人で稼ぐ倍の数の魔石をあっという間に稼ぐことができ、ハルトはすっかりミーアのことを気に入ってしまっていた。
(マジでミーアは凄いな。こんなに優秀な傭兵がいるなんて。でも待てよ、ミーアのおかげで狩りが順調だが、オレは認められる成果をあげられているか?オレが良くてもミーアがオレを認めてくれないと、今日で終わりってことも・・・)
「ちょっと休憩しようにゃ。装備のチェックと細かい怪我ないかも確認したいにゃ。」
「お、おう。わかった。結構一気に狩ったもんな。」
「ハルトが強すぎて、あちしも付いていくのが大変だったにゃ。」
(あ、あれ、オレ・・・大丈夫そうか?)
モンスターの気配がないところで倒木に腰を下ろし、装備などのチェックを行う。そこでミーアがハルトに尋ねる。
「ハルトの剣って宝剣か何かなのにゃ?ちょっと見せて欲しいにゃ。」
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