9話 新しい日々と改革案
「おはよう、レオンおじさん!」
「おはよう、ティカ」
俺は、村長の家に泊まった。
最初は村の宿に泊まろうと思っていたが、滅多に旅人がやってこないため、宿なんてないらしい。
すると、村長が、儂の家に泊まるとよい……と。
元々、そのつもりだったらしい。
好意に甘えることにして一晩を過ごして……
そして朝。
リビングに移動すると、すでにティカが起きていた。
キッチンに立ち、子供用の踏み台を使いつつ、手際よく朝食を作っている。
「村長は?」
「おじいちゃんは、うーん……今日は、お昼まで起きられないんじゃないかな? けっこうお酒を飲んでいたみたいだから」
「なるほど、二日酔いか」
「ごはん、すぐにできるからね! 一緒に食べよう?」
「ありがとう」
――――――――――
「すみません。せっかく来ていただいて申しわけないんですけど、今日は、特に依頼はないですね」
朝食を食べた後、冒険者ギルドを訪ねた。
今日は依頼はないらしく、シェフィが申しわけなさそうに言う。
「いや、気にしないでほしい。依頼がないということは、困っている人がいないということだ。それは喜ぶべきことだろう」
「そう言っていただけると」
「ねえねえ! なら、ティカと一緒に遊ぼう?」
一緒についてきたティカが、キラキラ笑顔で誘ってきた。
一緒に遊んであげたいところなのだが……
「すまない、ティカ。少し気になることがあって、村を見て回りたいんだ。遊ぶのは、また今度でいいだろうか?」
「えー……」
「本当にすまない」
「うーん……いいよ。私も、わがまま言って困らせちゃって、ごめんなさい」
ティカは、ぺこりと頭を下げた。
物わかりがいいというか……
良すぎないだろうか?
少し気になる態度だった。
「レオンさん、気になることというのは?」
「ああ、いや。杞憂の可能性もあるから、まだ、不確定なことは……いや。そういう出し惜しみするようなことはしない方がいいな」
思えば、こうして、一人で全てを解決しようとしていたような気がする。
結果、リュシアに情報を共有せず、それを不満に思われていたのかもしれない。
「村の防壁を確認したい。昨日、外に出る時にちらっと見たが、少し心もとないように思えてな」
「なるほど……でしたら、私も同行させていただけませんか? 場合によっては、ギルド案件となりますから」
「そうしてもらえるとありがたい」
「はいはーい! 私も一緒に行くー!」
「ああ、そうだな。ティカも手伝ってもらえないだろうか?」
「うん! ティカ、がんばるよ!」
こうして、三人で村の防壁を確認することに。
さっそく外に出て、シェフィの案内で、村をぐるりと囲む防壁を見て回る。
「ふむ」
石を積み重ねて、粘土を繋ぎに使ったシンプルな防壁だ。
厚さは三十センチメートルほどで、高さは二メートルほど。
「レオンさん、どうですか?」
「……これでは心もとないな。今はよくても、いずれ、魔物に破られるかもしれない」
ウルフやスライムなど、低ランクの魔物なら問題ない。
ただ、それ以上の魔物……中位の魔物が出現した場合、この程度の防壁は簡単に破られてしまうだろう。
このような辺境に中位の魔物が現れることはほとんどないが、絶対ではない。
過去、何度か中位の魔物が辺境に現れて、大きな被害を出したという記録がある。
それに、この防壁は長い年月が経っているのか、ところどころが崩れかけていた。
こうなると、低位の魔物相手でも耐えられるかどうか。
「レオンさん、詳しいんですね……一目見ただけで、そのようなことまで判別できるなんて。とてもすごいことだと思います!」
「あ、いや……色々と、そういうことに触れる機会があってな」
「では、その機会に感謝しなければいけませんね。こうして、今、役に立っていますから」
なるほど。
そういう考え方もあるか。
リュシアに否定されてしまったが……
今までの俺の過去は、無駄ではないのかもしれないな。
「早急に補修と強化をした方がいい。ギルドから予算は降りるだろうか?」
「はい、問題はありませんが……ただ、エルセール村のギルドの予算はとても限られていまして、防壁全体に手を加えるとなると、なかなか……」
「予算が降りたとしても、足りない……か」
「はいはーい!」
ティカが、名案を思いついたという感じで手を挙げた。
「レオンおじさんは、この壁をどんな感じにしたいの?」
「厚さと高さを倍に。それと、石と土だけではなくて、芯となる鉄筋を入れたいな」
「石とか土は、村の近くにたくさんあるよ!」
「……それもそうか」
辺境の地なので、周辺はしっかりと整備されていない。
故に、いい感じに使える石や土はたくさんあるだろう。
「問題は、芯となる鉄筋か……」
「てっきん?」
「人で言うと、骨のようなものだな。硬い芯を中に入れておくことで、全体の強度が飛躍的に増すんだ」
「んー……それ、なんとかなるかも」
「ティカちゃん、それは……」
「レオンおじさんなら大丈夫だよ!」
「……そうですね、確かに」
「なんの話だ?」
「えっとね……これ、ちょっと見ててほしいな」
ティカは、そこらに落ちている枯れ草を拾う。
集中するように目を閉じて、両手で包み込む。
すると……
「……なに?」
ぽぅと、温かい光がティカの両手からこぼれた。
今の温かい光は、リュシアが見せていた聖女の奇跡によく似ているが……
「はい、どうぞ!」
ティカは、笑顔で枯れ草を差し出してきた。
受け取り、驚く。
「なんだ、これは……? ただの枯れ草のはずなのに、こんなにも硬い……?」
「えへへー、それ、私がやったんだよ」
「ティカが?」
「よくわからないけど、そういう不思議なことができるんだ。えへん♪」
ティカは、自慢そうに胸を張る。
一方で、シェフィは心配そうだ。
「ティカちゃんは、不思議な力を持っているんです。今は大丈夫ですけど、昔は、それが原因でちょっとした問題になったこともあって……今は、大人しか知りません。このことは、秘密にしてもらえませんか?」
「あ、ああ……それは構わないが」
硬くなった枯れ草を見る。
「……本当に不思議な力だな」
まるで聖女のよう。
「もっと頑丈なものを……木とかかな? それを硬くすれば、てっきん? の代わりにならないかな」
「十分、代用できると思うが……ティカは大丈夫なのか? この力を使うことで、疲れたり気持ち悪くなったり、そういうことはないか?」
「大丈夫だよ! あ、使いすぎると疲れちゃうかな? でも、寝れば元気!」
「一日に使える回数は限られている、ということか……」
ますます聖女の力に似ているな。
……もしかして、本当に聖女?
いや、まさか。
すでにリュシアという聖女がいるはずだ。
疑問はあるが、今は置いておこう。
「……わかった。ティカに手伝ってもらおう」
「わーい! 私、がんばるよ!」
「いいんですか?」
「もちろん、無理はさせない。村長などにも相談して、しっかりと見てもらうつもりだ。それに……この防壁は、本当にまずい。できる限り、早急になんとかしたいから、今は、ティカの力を借りたい」
昨日。
ティカと助けた時と、外に出てしまった子供達を助けた時。
どちらもウルフと戦うことになった。
ただ、本来、ウルフはそこまで好戦的な魔物ではない。
普段は人を避けて行動して、積極的に襲ってくることは少ない。
そんなウルフが、一日に二度も人を襲う……なにか裏で異変が起きているような気がした。
嫌な予感がした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
あなたの応援が、物語の未来を広げます。
もしよろしければ、評価やブックマークをお願いします!