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7話 村の一員

「「「かんぱーーーい!!!」」」


 村全体に響くような、とても陽気な声が響いた。

 それと、酒の入ったグラスが重ねられる音。


 村の広場を使い、宴会が開かれていた。


 急遽、用意されたテーブル。

 そこにたくさんの料理と酒が並べられている。

 子供のためなのか、スイーツとジュースもあった。


 大人達は酒を飲んで。

 子供達はスイーツで口の周りをクリームでべたべたにして。

 それぞれ楽しい時間を過ごす。


「賑やかだな」


 俺も酒をいただいていた。


 この宴会は、俺の歓迎会らしいが……

 まさか、こんな宴会を開いてもらえるなんて思っていなかった。


 最初、宴会の話を聞いた時は、村長の家でティカと三人で……

 と思っていたのだけど、まさか、村人全員が参加する大規模なものになるなんて。


「よう、飲んでいるか?」

「この料理は、うちの妻が作ったものなんだ。よかったら、食べてくれないか?」


 昼、依頼を請けた農夫とパン屋の店主に声をかけられた。

 二人共、すでにかなりの量を飲んでいるらしく、顔全体が赤い。


「ありがとう、いただこう」

「それにしても、あんたはすごいな」

「うん? なんの話だ?」

「子供達を助けたことだ。話を聞いたが、ウルフの群れを相手に、一人で戦ったんだろう? しかも、子供達を守りながら。そんなこと、普通の冒険者は無理だ」

「高ランクの冒険者ならあるいは、という感じだね。いったい、どこでそれだけの力を身に着けたんだい?」

「それは……」


 王都で聖女の聖騎士をやっていた。


 そんなことを言えるはずもなく。

 仮に言えたとしても、リュシアが激怒しそうなので、やはり言えるはずもなく。


 言葉に迷ってしまう。


「おっと、すまないね。無理に話を聞くつもりはなかったんだ。ただ、薪割りの時もそうだけど、キミがあまりにすごいことをしてみせるものだから、つい。っと、そうだ。レオンって呼んでもいいかい?」

「俺も、あんたのことは名前で呼びたいな」

「ああ、もちろんだ」

「ありがとう。俺は、ジャンだ」

「リックだ、よろしくな」

「よろしく」


 握手を交わして、しばらく話をして。

 また、と挨拶をして、二人は別のところへ。


 すると、入れ替わりに別の村人がやってきた。

 見覚えのある顔……子供達の父親と母親だ。


「今日はありがとう。あんたは、子供達の命の恩人だ」

「あなたがいなければ、どうなっていたか……本当に感謝しているわ」

「あまり気にしないでほしい。俺は、依頼を果たしただけで……それに、人として当然のことをしたまでだ」

「そうか……そんなことを当たり前のように言えるということは、素晴らしい人なんだな」

「それなのに、私達は……ごめんなさい」

「本当にすまない!」


 揃って頭を下げられてしまう。

 あれから、ちょくちょく村人に謝罪をされるのだけど、どういうことなのだろう?


「その……すまない。なぜ、謝罪しているのだろうか?」

「それは、その……」

「……私達、最初は、あなたのことを信用していなくて」

「よそ者に任せられらない、自分達で助けるべきだ……って」


 二人はその言動を恥じるように言う。


「今思えば、なんて傲慢な考えなんだろうな……自分が恥ずかしいよ」

「本当にごめんなさい。謝っても許されないかもしれないけど、でも、せめて謝罪だけはしておきたくて……」

「いや。そんなに気にしないでほしい。外からやってきた者を警戒するのは当たり前のことだ。ましてや、俺は今日、やってきたばかりで信用を得られていない。そう考えるのは自然なことであり、俺は、怒ったりしていない」

「そうか……ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ」

「今度、ちゃんとお礼をさせてちょうだいね。美味しいパイを焼くわ」

「ああ、楽しみにしている」


 手を振り、夫妻と笑顔で別れた。


 今度は、ティカがやってきた。


「おじさん!」

「ティカか」

「なんだか嬉しそうだね?」

「そう……なのか?」


 ついつい、自分の頬に手を伸ばす。

 ただ、表情はよくわからない。


「うん、嬉しそうな感じだよ!」

「……そうだな。嬉しいのかもしれないな」


 娘に拒絶されて、追放されて。

 辺境の村にやってきた。


 全てを失った俺は、なにも持たない。

 なにも得ることはない。


 そんなことを、たぶん、無意識のうちに考えていたのだろう。


 ただ、そんなことはなくて……

 エルセール村のみんなに受け入れてもらうことができた。

 村の一員と認めてもらうことができた。


 それが、どれだけ嬉しいことか。


「ティカも、ありがとう」

「ふぇ? 私、なにもしていないよ?」

「しているさ。ティカの元気な笑顔に、何度、助けられてきたことか」


 ティカの笑顔は、空で輝く太陽のようなものだ。

 優しく照らしてくれて、心を温かくしてくれる。


「ありがとう、ティカ」

「ふにゃ」


 頭を撫でると、猫のように鳴いた。

 目を細くして、本当の猫みたいだ。


「んー……レオンおじさんのなでなで、気持ちいいかも」

「気安くないだろうか?」

「ううん、そんなことないよ! もっともっとしてほしいな」

「そうか」


 求められるまま頭を撫でる。


「レオンおじさんも、これでエルセール村の家族だね」

「家族……?」

「うん! ここは、みんな家族みたいなものだから。レオンおじさんも、今日から家族だよ!」

「……そうか、家族か」


 王都で家族を失い。

 しかし、辺境で新しい家族を得ることができた。


 どんな運命なのだろうか?


 ただ……

 今は、村の一員になれたことが嬉しい。


 そう感じた想いは本物に思えた。

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― 新着の感想 ―
無事助けた子供達の親からもちゃんと感謝されてよかった。 住所はエルセール村のまま…?それとも、新天地を目指す系?この村に住み着くという場合は、物語が進むにつれて、村が町に発展していくんだろうか…? ビ…
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