5話 我が剣は聖女ではなくて、無垢なる民を守るために
「レオンさん!!!」
「シェフィ? どうしたんだ、そんなに慌てて……」
冒険者ギルドにいるはずのシェフィが、なぜこんなところに?
シェフィは肩で息をしつつ、必死で呼吸を整えて、言葉を紡ぐ。
「す、すみませんっ……緊急で、依頼を……お願いできないでしょうか!?」
「緊急依頼? いったい、なにがあったんだ?」
「村の子供達が外に出てしまったみたいで……」
「なんだって?」
村の外は危険だ。
ティカが襲われたように、その村の子供達も魔物に襲われるかもしれない。
「今、村の大人達で探しに……」
「いや、ダメだ。すぐに引き返してほしい」
「え? ですが……」
「大人達は、ちゃんと戦うことができるか?」
「……いえ、難しいと思います。戦闘経験者は、ほとんどおらず……」
「なら、やめた方がいい。二重遭難に近い状態になりかねない。気持ちはわかるが、ここは俺に任せて、待っていてくれないか? 子供達は、必ず無事に連れて帰る」
「レオンさん……はい、わかりました! みなさんには、そう伝えておきますね」
「子供達が向かった方向はわからないか? 大体でいい」
「南の方に行ったらしいです。珍しい虫を見かけた、って」
「わかった、南だな?」
すぐに南に向かおうとして、
「レオンおじさん!」
ティカが、どこか必死な様子で言う。
「……無茶しないでね? 気をつけてね?」
「ああ、大丈夫だ。心配してくれて、ありがとう」
ティカの頭を優しく撫でる。
それから、改めて俺は村の南へ急いだ。
――――――――――
村の南は森が広がっていた。
その中を駆けつつ、周囲の気配を探る。
動物や魔物の気配はいくらかするが……子供はいないな。
さらに奥か?
それとも、別の場所に移動したか?
一度、足を止めた。
無闇に探し回るよりも、少し時間がかかったとしても、まずは場所を特定するべきだ。
「探知<サーチ>」
全方位に魔力を飛ばして、その反応を探る。
動物や魔物だけではなくて、虫や鳥など、さらに小さな生き物の反応も把握することができた。
そして、その中に子供らしき反応が。
「あちらか!」
少し進路を変えて、西寄りの南に駆けていく。
全力疾走だ。
行く手を塞ぐ大岩などがあるが、
「邪魔だ」
抜剣して、粉々に砕いだ。
斬るだけではなくて、こういう芸当も可能だ。
姿勢を前に低く、さらに速度を上げた。
駆けて。
駆けて。
駆けて。
「いた!」
三人の子供達を発見した。
男の子が二人と、女の子が一人。
ウルフの群れに囲まれて、抱き合うようにして震えている。
一匹のウルフが牙を剥き出しにして子供に襲いかかり……
ちっ、迎撃は間に合わないな。
俺は、一度剣を鞘に戻した。
とにかく、子供達のところに辿り着くことだけを考えて、全力の中の全力で駆ける。
そして……
「……間に合ったか」
「グルルルゥ……!!」
子供達とウルフの間に割り込み、腕を盾にすることで守る。
ウルフの牙が腕に食い込み、肉が裂けて血が流れた。
「えっ……あ、あれ……?」
「お、おじさん、誰……?」
「やぁ……ち、血が流れて……」
「キミ達、大丈夫か?」
ウルフのことは気にせず、できるだけ平静に子供達に声をかけた。
「う、うん……おじさんが助けてくれたから……」
「あぁ、で、でも、おじさんが……」
「俺なら問題ない」
空いている手で、噛みついてくるウルフを殴りつけた。
キャンと悲鳴をあげて、ウルフが吹き飛んでいく。
「ほら、この通りだ」
「でも、血が……」
「それに、こんなにたくさんの魔物……うぅ、私達、死んじゃうの……?」
「死なないさ」
強く言い、俺は剣を抜いた。
「キミ達は、俺が守る」
……思えば。
俺の剣は、聖女を……リュシアを守るために捧げてきた。
娘のために剣を振り、この体を盾とて血を流してきた。
あの子をお願い。
亡き妻との約束を果たすためでもあるが……
それ以上に、リュシアは娘だ。
聖女とか聖騎士とか関係なく、親として守ることは当たり前だった。
しかし、その娘から拒絶されて、関係を絶たれて。
誰かを守るはずの騎士である俺は、目的を見失い、道に迷う。
ただ。
迷うのはここまでだ。
俺は騎士として、子供達を守るために戦おう。
「さあ、来い」
「グルァッ!!!」
俺は、子供達を背中に守りつつ、襲い来るウルフに向けて剣を振る。