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弟子入り

少しずつですが、ブックマークや高評価を付けて下さる方が増えてきて嬉しく思います。

なるべくモチベーションを維持しつつ書き続けていけたらと思います。

「小僧の戦闘指南役?お前がそうしたいのか?」

「はい。お許しを頂けたらと」

 

 ふむ、といつも通り退屈そうに肘をつきながら話すヴァレンティナ。


「一応、理由だけ聞いておこうか?わざわざお前がそうまでして小僧の戦闘指南役を買って出る理由を」


 イザベルは跪いたまま答える。


「はい。本日ハルト様はワイルドホーンの討伐には失敗しました。ですがハルト様の能力のポテンシャルをもってすれば本来倒せない相手ではなかったはずです」

「そうだな。私もそう考えていたから今回の課題を与えたのだ」

「私もヴァレンティナ様のお考えは重々承知しております。ですが事実討伐は失敗しております。その原因は実践経験の少なさからくるものだと考えております」

「それはそうだな」

「また、ハルト様の扱える魔法ですがまだワイルドホーンを倒せるほど火力のある魔法を扱えないのも事実です」

「ふむ」

「そのような点から1人戦闘指南役が必要なのではと感じ、この度ご提案させて頂いた次第にございます」

「…………」


 ヴァレンティナはイザベルさんの提案を聞くと黙り込んだ。

 彼女は彼女で何か考えがあったのだろう。

 しばらく考えたのち、ヴァレンティナは口を開いた。


「イザベル、お前の考えは分かった」


 少し笑みを含んだ様な表情で言った。


「だが、ダメだ」

「それは何故でございましょう。お考えを伺っても宜しいでしょうか?」


 イザベルは納得がいかないという口調でヴァレンティナに対し、伺いを立てる。


「イザベル、貴様が小僧を育てたとしてどの程度まで育てるつもりだ?」

「どの程度、と申されますと…」

「よいか?この小僧は私が血を吸うた時点で既に我が眷属となっている。それはつまりどういうことか分かるか?」

「はっ……」

「ただ強いだけでは困るのだ。私の眷属である以上、この世界に敵無しという強さでないと私の名に傷がつく。どうしてもこの小僧に指南役を付けるというのなら私が直々に育ててやる。どうだ?それならば貴様も文句はあるまい?」


 その言葉を聞き、イザベルさんは姿勢を正して返答する。


「はい。ヴァレンティナ様が直々にご指導されるのであれば不満などございません。」

「うむ。決まりだな」


 嬉々とした表情でヴァレンティナは僕に語り掛ける。


「そう言う事だ小僧!貴様の事は私が直々に面倒を見てやる!有難く思うが良い!」


 そういう彼女の表情は僕がここに来てから半年の間で最も楽しそうな顔をしていた。


「う、うん。ありがとう」

「さて、それでは…」

「!」


 彼女はそう言うなり僕の視界から消えた。

 と、頭が理解した瞬間。

 左側頭部にとんでもなく強い衝撃を感じる。


―――ドシャアアアアア!


 気が付いたら僕は吹っ飛ばされていた。

 いや、もう少し正しい言い方をするなら『ヴァレンティナに蹴り飛ばされていた』


「どうした小僧!無防備に突っ立ったままだったが、私の動きは見えたか?」


 見えなかった。

 おそらく彼女は先程の一瞬で玉座から僕のいる場所まで移動し、僕の頭を蹴り飛ばしたんだ。

 

「ほら。どこを見ている?」

「!」


 まただ。

 また僕の隣まで一瞬で移動している。

 よく見ると彼女の右手はデコピンの構えをしていた。


「ほれ、耐えてみろ」


―――バッコオオオオオオオオオオオオオン!


 彼女のデコピンは額に強烈な衝撃を与えた。

 何mという距離をただのデコピン1発で吹っ飛ばされてしまった。

 同じくらいの背格好の女の子から蹴りとデコピンを1発ずつ。

 ただそれだけで僕の呼吸は荒く、動悸も激しくなっている。


「ふん。まだこんなものか。つまらんな。だが逆に言えば育てがいがあるという事でもある」

「はぁ…はぁ…」

「まぁ今日は疲労がたまっているのもあるだろう。本格的な練習は翌日からだ。しっかり身体を休めておけよ、坊や」


 そういうと彼女は「はぁーはっはっは」と高笑いをしながら、部屋から出て行ってしまった。


「はぁ…はぁ…」


 呼吸が未だ整わず、床に突っ伏している僕にイザベルさんは声をかける。


「ハルト様。大丈夫ですか?」

「は、はい…何とか…」


 何とか意識を保っていられる状態である。

 最後のデコピンがとにかく効いた。








 

 ……………と、ここまでは覚えている。

 今は目が覚めて自室のベッドの上にいる。

 あの後おそらく気を失った僕を誰かがここへ運んでくれたのだろう。

 あとでお礼を言わなくちゃ。


 それにしてもヴァレンティナは強かったな。

 魔法も使わずに体術(?)だけであんなに強いだなんて。

 彼女からすれば文字通り、赤子の手をひねるって感じだったんだろう。

 動きだけでも目で追えなかった。

 瞬間移動でもでもしてるみたいに。

 僕も訓練すればあんな風に動けるようになるのかな?

 それとも何か魔法を使ってたのかな?

 理由は分からないけど少しワクワクしてきたぞ。


 と部屋で一人興奮していると、そこへイザベルさんがやってきた。

 

「ハルト様。お目覚めになられましたか」

「イザベルさん。おはようございます」

「おはようございます。お身体の具合は如何ですか。どこか痛みなどは…」

「身体には特に痛みは無いですよ」

「それは良かったです」


 イザベルさんはほっとした表情で安堵する。


「そういえば、僕をここへ運んでくれたのって…」

「あぁ、それはヴィンセント様ですね」

「そうでしたか。あとでお礼を言わないと…」


 ベッドの上で少し考えた後、僕はイザベルさんに尋ねてみた。


「イザベルさん」

「はい。何でしょう?」

「ヴァレンティナってどのくらい強いんですか?」

「ヴァレンティナ様ですか?そうですね…間違いなくこの世界では5本の指には入る強さかと思われます」

「そんなに凄いんですね。ヴァレンティナって」

「はい。その強さに感銘を受け、この宮殿にて配下として従事する者もいるほどですから」

「今僕ってヴァレンティナの眷属…?ってやつなんですよね?僕もヴァレンティナの様に強くなれたりするんでしょうか?」

「それは分かりません。が、その領域に辿り着くだけの素養は持っていると私は考えています。要はハルト様の努力次第かと存じます」

「僕の努力次第…」


 今の僕とヴァレンティナでは天と地ほどの差がある。

 足元にも及ばないとはこういう事をいうのだろう。

 でも、これから何年かかるか分からないけど彼女の眷属として恥ずかしくない様に。

 彼女の隣に並び立てるように。

 僕は自分の拳をぎゅっと握りしめて、そう決意した。

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