VSワイルドホーン
前の話を書いた勢いでそのまま一気に書き連ねました。
評価のほど宜しくお願い致します。
シルフェッド大森林に足を踏み入れてから凡そ2時間程。
大百足と戦って以降、他にも色んな魔物と戦った。
大赤蠍、鎧蜥蜴、小鬼族等々。
イザベルさんの助けもありつつ、歩みを進めていた。
しかし、この森林は本当に広大であり行けども行けども同じような景色が続いている。
もし一人でここに来ていたら間違いなく迷子になっていただろうな。
イザベルさんは黙々と迷いなく足を進めているけどここには来慣れているのだろうか?
「あの~イザベルさん」
「はい。何でしょう?」
淡々とした口調で返答する。
「イザベルさんは人里に行くときとか、この森を良く通られるんですか?」
「いえ、この森は魔物も多いのであまり通りません」
「え、じゃあ人里へ行かれる際にはどうされているんですか?」
「人里へ行く際には転移魔法で移動するか、空を飛んでいく事の方が多いですね」
「空を飛んでですか?」
「はい。ハルト様もいずれ出来るようになるかと」
そうか。ここは魔法のある世界。
空を飛ぶ種族や魔法があっても不思議ではないか。
「普段人里へ行かれる際にはどういった用事が多いんですか?」
と、尋ねると手を顎に当てながら「そうですね」と答える。
「主に食料の買い出しでしょうか?ヴァレンティナ様やヴィンセント様などは本来食事をする必要の無い種族ではありますが、私やカミラなど一部の従者は食事による栄養補給が必要ですので。それに先に申し上げたお二方もお食事はなさいますよ」
「本来必要ないのに、ですか?」
「えぇ。例えば人間でも甘味などの嗜好品を召し上がられる事がありますよね?必要は無いですが本来の3食の食事とは別に。そう言った類のものだと思われるとご理解されやすいかと」
甘味ってお菓子の事だっけ?
確かにお菓子はご飯とは別か。
そういえばお菓子とかもうずいぶん食べてないなぁ。
やりたいゲームとかもいっぱいあったけどもう出来ないんだよな。
こういう事を考えると元の世界が恋しくなってくる。
「元の世界が恋しいですか?」
イザベルさんが尋ねてくる。
あれ?
そんなに寂しそうに見えたのかな?
まぁ寂しいと言えば寂しいんだけど。
「少しは。でも今はヴァレンティナとかヴィンセントさん、イザベルさんたちがいるのでこっちの世界も楽しいですよ」
「そうですか。それは良かったです」
と、にこりと笑顔を向けて来た。
その時だった。
―――ブモオオオオオオオオオオオオオ!!!
突如、木々が騒めく様な魔獣の鳴き声が森に鳴り響く。
僕は一瞬で察した。
間違いない。この声の主は『ワイルドホーン』だ!
「ハルト様。警戒を。ワイルドホーンは急突進して攻撃してくる魔獣です。どこから襲い掛かって来るか分かりません」
「は、はい」
鳴き声が反響し終わり、森は静寂に包まれる。
時々ガサッ、ガサッと足音は聞こえるので、音のする方向を警戒する。
するとバキバキッ!と木々をなぎ倒しながらこちらに向かってくる巨体が見える。
―――ドドドドドドドドドド!!!
咄嗟に左へ飛び、突進を躱す。
その巨体は凡そ3mはあろうかという大きな牛型の魔獣であった。
―――ブルルルルッ!
「イザベルさん!こいつが…」
「はい!ワイルドホーンで間違いないです!」
などと相談しているとそこへ再度突っ込んできた。
話をしている余裕など全く与えてくれそうな相手ではない。
それでもイザベルさんはこちらに語り掛けてくる。
「さぁどうしますか?今までの様に悠長に魔法を詠唱している余裕など無いですよ」
っていうかイザベルさん、空を飛んでるし。
ズルい!
だからかワイルドホーンは完全に僕だけを狙っている。
―――ドドドドドドドドド!!!
また突っ込んできた。
僕も再度それを躱す。
くそっ!考えても仕方がない。こちらからも攻撃しなければ。
「火の精霊よ!魔法の弾丸となりて敵を撃て!『魔法の銃弾・炎の6弾』!
6発の火球がワイルドホーンめがけて飛んでいく!
―――ドドオオン!!!
よし!当たった!
しかし倒せるほどのダメージは与えられていない。
ワイルドホーンは相変わらず突進攻撃しかしてこないが、先程と比べるとスピードは若干落ちている。
倒せはしなくても多少のダメージは与えられていると考えていいのだろうか?
僕は継続して炎の6弾を打ち続ける。
ワイルドホーンはこちらの攻撃を受けるもすぐさま立ち上がり、その都度こちらに突進してくる。
戦闘は膠着状態が続いている。
しばらくそのような状態が続くと…。
「ハルト様。時間切れです」
え?
「深淵より来たれ漆黒の雷撃よ!『黒の雷』」
―――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
一瞬だった。
真っ黒な雷が空から真っすぐに落ち、ワイルドホーンは黒焦げとなった。
僕は唖然とするしかなかった。
あれだけ苦労して戦ったワイルドホーンをイザベルさんは一瞬で倒してしまった。
力不足……。
その一言しか出てこなかった。
「ハルト様」
空から降りて来たイザベルは言う。
「今回の討伐は生憎ながら時間の問題もあり、こちらで対処いたしましたが今はどのようなお気持ちでしょうか?」
「正直悔しいというか、力不足を実感しています」
イザベルさんはいつも通り淡々とした口調で話す。
「ヴァレンティナ様は少々不愛想な所もございますが、無理な課題を出されるような方ではございません。今回の討伐の課題もハルト様ならば成し遂げられると思われてのお使いだったと私は感じております」
「つまり、僕の戦い方が悪かったって事?」
「言ってしまえばそう言う事になるかと。ですが、実力では十分張り合えたはずでございます」
イザベルさんは空を見上げながら言う。
「如何でございましょう。もしハルト様さえ宜しければ私が戦闘訓練のご助力を出来ればと考えております」
「ご助力って…」
「お手伝いさせて頂く、と言う意味でございます」
僕はその言葉がすごく嬉しかった。
今まではヴィンセントさんから魔法を学んではいたものの戦闘に関する事は基本的な事しか教わっていなかった。
実戦を想定した練習も出来るのであれば、それは願ったり叶ったりだ。
「ぜひ、宜しくお願いします」
「畏まりました。ですが…」
「ですが?」
「一応、ヴァレンティナ様には確認を取らなければならないので。私の一存では」
「じゃあ、今日の所は…」
「えぇ、一度帰宅すると致しましょう」
そう言い、僕とイザベルさんは帰路に着いた。