VS大百足
時間を見つけて合間合間で何とか書いているので投稿日時はバラバラですが、少しでも良いと思って頂けたなら評価やブックマークもお願い致します。
魔法の練習方法を教わってから約半年。
毎日欠かさず行っていた事もあって、自分で言うのもなんだがかなり上達したと思う。
ヴィンセントさんに教わった樽から水を球体状に持ち上げる練習方法も今では1分と言わず、5分は継続できるようになったし、他の魔法も最初と比べれば色んな魔法が使えるようになった。
そんなある日。
自室までヴィンセントさんが「ヴァレンティナ様がお呼びです」と呼びに来た。
なんだろうと思い、ヴァレンティナの所へ行くと彼女は玉座で脚を組み、いつも通り退屈そうに僕を待っていた。
周囲には2名のお付きのメイドさん、そしてヴィンセントさんだけ。
粛然たる空気がこの部屋の中には流れていた。
「やっと来たか」
「どうしたの?いきなり呼び出すなんて」
「いや何、小僧に少々お使いを頼みたいと思っただけだ」
「お使い?別に良いけど、何か買ってくればいいの?」
「あぁ、ちょっとしたものをかってくるだけだ。何、念のため付き添いも付ける」
「付き添い?」
そう言うとヴァレンティナは視線をメイドたちの方へ移す。
「イザベル、カミラ。どちらかこの小僧に付いていってやれ」
命じられたメイドさん達は姿勢を正し、ヴァレンティナに一礼する。
「はい。では、私イザベルがハルト様の付き添いのお役目を仰せつかりましょう」
「あぁ、宜しく頼んだぞ。困っていたら助けてやれ」
「畏まりました」
胸に左手を当て一礼するイザベルさん。
「それで、僕は何を買ってくればいいの?」
「あぁ『ワイルドホーン』という牛型の魔獣だ。そいつを一頭かってきて欲しい」
「ワイルドホーン…。分かった」
「では、行って参ります。ヴァレンティナ様」
「うむ。気をつけてな」
そう言うとヴァレンティナは僕とイザベルさんを送り出した後、玉座に肘をつき退屈そうにしていた。
そういえばこっちの世界にやって来て以来、宮殿の外に出るのは初めてだ。
宮殿の外には鬱蒼とした森林が広がっていた。
「ハルト様。こちらは『シルフェッド大森林』と申しまして、危険な魔獣も多く存在しておりますので、くれぐれもご留意を」
「はい…。分かりました」
森林に足を踏み入れてから僕とイザベルさんの口数は極端に減った。
理由は単純に魔獣と遭遇するのを避けるためというのもあるが、もう一つ理由があった。
僕はイザベルさんの事を良く知らない。
ヴァレンティナの宮殿に使えるメイドだという事は知っているけど、それくらいだ。
要は単純に会話に困っているだけなんだけど。
など、考えながら歩いているとイザベルさんは急に足を止めた。
「ハルト様、ご注意を」
「え、何?」
「魔獣です」
「!」
良く耳を澄ますと草木を踏みつけ走りまわっている音が聞こえる。
その音はどんどんこちらに近づいてきている。
「正面です!」
―――シャアアアアアアアアアアア!
「こ、こいつは!?」
「大百足です!」
全長5m以上はあろう上体を起こして威嚇している。
「ハルト様。戦います」
「た、戦うってコレと!?」
「もたついてるとやられますよ!」
そういうとイザベルさんはナイフを片手に大百足に突っ込んでいった。
ザシュ!バシュ!
―――シャアアアアアアアアアアア!
まるで人とは思えない様な素早い動きで大百足と渡り合っている。
あ、そうか。
種族は知らないけどイザベルも人間じゃないんだっけ?
僕も何か出来る事は……。
覚えたばかりだけどやってみるか。
「ハァアアアアアアア!」
両手に周囲の魔力を集中させる。
その溜めた魔力をしっかり狙いをつける!
「火の精霊よ!魔法の弾丸となりて敵を撃て!『魔法の銃弾・炎の6弾』!」
―――ドドドオオオオオオオオオオン!!!
―――キシャアアアアアアッ……!
放った魔法は全弾命中。
大爆発を起こし、大百足はその場に横たわる。
やった…!うまくいった…!
「おお!お見事です!ハルト様!」
これにはイザベルも手放しで褒めてくれた。
「は、初めての実戦でしたけど、上手くいって良かったです」
緊張が解け安堵し、つい笑みがこぼれてしまう。
それにしてもこんな大きな魔獣がうろついてるなんて…。
と、こちらの心情を見透かしたかのようにイザベルさんが尋ねてくる。
「おや、どうされました?怖気づかれましたか?」
「というよりビックリしました…。あんな大きな魔獣が突然現れるなんて思わなくて…」
「ふふふ。この程度で驚かれては困ります。目的の『ワイルドホーン』はもっと気性も荒くすばしっこいですので」
……え?
「ちょっ、ちょっと待ってください!今回の目的ってワイルドホーンをかって…あっ…」
「ええ、そうですよ。買うのではなく、狩るのが目的です」
「……」
「不思議ですか?ヴァレンティナ様が何故あなたにこの様なお使いを頼んだのか」
「はい……」
「あの方なりにハルト様が成長する為の試練を与えているつもりなんですよ。ハルト様はどう感じられていらっしゃるか分かりませんが、だいぶ気に入られていらっしゃるようですよ」
そっか。
ヴァレンティナが。
何となく不器用そうだもんな。
でも、せっかくヴァレンティナが与えてくれた成長の機会なんだ。
しっかりこなして帰ってやろうじゃないか。