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魔法の基本

 吸血鬼となった事による不都合と言うのは殆どなかった。

 漫画やドラマの中にある様な十字架、大蒜、ネギに弱いという事も無く、日中外出する事にも何の不便も無かった。

 何だったら先日に至ってはヴァレンティナはテラスで日光浴までしていたのだ。

 一応本人にも人間が吸血鬼になるデメリットはあるのかと聞いてみたが「そんな些細な事は知らん。いちいち気にした事もないわ」との事で、全く聞く耳を持たなかった。

 ヴィンセントさんにも聞いてみたが、僕が言った弱点の様なものは無いとの事だった。

 それを聞いて僕は少し安心した。

 だって日中外出られないとか、一生に関わる様なデメリットなんだから。

 せいぜい10歳の身で一生引きこもり生活とか考えたくも無い。

 もう少し外で遊ばせてくれ。

 などという一抹の不安は払拭された。

 良かった良かった。


 で、そんな僕は今日も宮殿の掃除や魔法の特訓に明け暮れていた。

 先日教わった樽から水を球体状にして持ち上げる練習は毎日行っていた事もあり、持ち上げていられる時間は日に日に長くなっていった。

 だが、毎日同じ練習ばかりで飽きて来た所でもあったので、他にも何か魔法の練習方法は無いかとヴィンセントさんに尋ねてみた。

 すると、この宮殿の中の書庫に初心者用の魔導書があるので、それを自由に使っても良いとの事だったので幾つか拝借して読んでみる事にした。

 

 この世界では魔法は日常的に使われているものであるが、無いと生活できないほどのものでは無いらしく、魔法を使えない人間もこの世界には多々いるようだ。

 また、この世界には魔物も存在しており、魔物と戦うための術を持たない人たちを守る為の職業に就く人間もいる。

 傭兵団や騎士団に所属している者がそれに該当する。

 そういった人たちが学ぶための教材が今僕が呼んでいる様な本になる。


 基本的な練習方法は幾つかあって先日ヴィンセントさんから教わった水の塊を持ち上げる方法もその一つ。

 他には指先に火を灯す方法や木の葉など軽いものを持ち上げる方法もあり、寧ろそちらの方が一般的な初心者向けの練習方法らしい。

 上記の方法をレベル1だとすると、ヴィンセントさんのやり方はレベル20くらいに該当するくらい難しいものだとヴァレンティナは言っていた。

 ヴィンセントさんって物腰柔らかに見えて意外とスパルタなのかな?


 僕はこの教本の中の1冊をまずマスターする事から始める事にした。

 早速、本を持って中庭に行く。

 今なら人も居ないし迷惑にはならないだろう。

 え~と、まずは火を起こす魔法からだ。

 人差し指の先端に魔力を集中させる。

 指先がじんわりと熱くなる感覚を覚える。

 その感覚を維持したまま…。

 

「火の精よ。その力を示せ。火よ灯れ(イグニス・ルクス)

―――ボウッ。


 指先からライター程度の出た。

 これは思った以上に簡単に出来た。

 僕は一旦、火を消して次の魔法に取り掛かる。


 次は軽いものを浮かす魔法だ。

 きれいに掃除された中庭では木の葉一枚見つけるのも大変だったが、偶然にも目の前にひらりと木の葉が落ちて来た。

 あれ?今誰かいたような気がしたけど…気のせいかな。


 気を取り直して。

 大気中の魔力を木の葉の周りに集めるイメージで…。

 少しずつ渦を巻くように、ゆっくり、ゆっくりと。


「風の精よ、我が力となれ。浮遊(トリスティーク)

 

―――ふわり。


 浮いた!

 ふわりふわりと目の前で浮いている。

 !

 このままどこまで上げられるかな。

 少しずつ少しずつ。

 ゆっくりと上に上がっていく木の葉。

 5mくらいの高さまで上がったくらいで突風に煽られる。


「あっ!」


 木の葉は僕のコントロールしていた魔力の範囲外へ流れ、遠くへと飛ばされて行った。

 あぁぁ…。

 飛んでっちゃった…。


 少し心寂しさを感じていると、後ろから声をかけられた。


「殊勝だな」


 振り返ると、そこには腕を組み明らかに寝起きだろうというぼさぼさ頭の小っちゃい吸血鬼がいた。


「あ、ヴァレンティナ…今起きたの」

「つい気持ちが良くて寝すぎてしまった。で、今日も魔法の練習か?」

「うん」

「楽しいか?」

「僕の世界には無かったものだから楽しいよ」

「ふむ。そうか」


 そういうとヴァレンティナは他にも何か言いたげにしていたが、特に何も言わず「まぁ頑張れ」とだけ言い残し、その場から去って行った。

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