彼女たちの安否
少しずつですが、書いていくつもりです。
続編は気長にお待ちいただければと思います。
とにかく宿から離れなければ。
この時はそれしか考えていなかった。
窓から飛び出す様な形で逃げ出した事もあり、神聖騎士団の追っ手を振り切るのにはそんなに難しい事では無かった。
しかしそれも一時的なものでしかない。
いずれ情報は拡散され、この町中に常駐する騎士団のメンバーに追われることになるだろう。
僕は一旦路地裏へと入り身を隠す事にした。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を整えて動悸を落ち着かせる。
改めて今の状況を整理してみる。
いや、整理するも何もないんだが、とにかくカレンたちを残して飛び出してきたのは失敗だったかもしれない。
下手したら彼女たちまで拘束されるような事になってしまっていたら……。
どうする……。
一旦様子を見に宿の近くまで戻るか……?
いや、それは危険すぎる。
寧ろ僕が捕まる様な事になったら、僕の旅に同行している2人にまで迷惑をかけてしまう事になる。
しばらくは身をひそめるか、もしくはこっそりと街をでるか……。
などと、考えている内に僕はティナから教わったとある魔法について思い出した。
そうだ、あの魔法が使えるんじゃないか?
自らの姿を偽る事の出来る魔法。
さっそく僕はその魔法を唱えてみる。
「光と闇の精霊たちよ。我に仮初の姿を与え給え。『偽りの姿』」
一瞬、身体が光ったと思えばその時には僕の姿は変化していた。
変化した僕の姿は本来の僕の姿からは想像できない様な老爺の姿になっていた。
おぉ、僕の思い描いた通りの姿になっている!
凡そ70代くらいの小柄な老爺。
この外見であればバレる事はないだろう。
今後の事はそれから考えればいい。
僕は日が落ちるのを待って宿に戻る事にした。
夕刻。
宿の近くまでくると、そこに騎士団の姿は無かった。
既に彼らは引き払った後だったようだ。
僕はゆっくりとその足で宿屋に入り、滞在していた2階の部屋へと向かう。
部屋の前まで来た僕は扉をノックしようとした。
しかし、そこで手を止めた。
僕は彼女達に何と言えば良いのだろう。
『実は元人間の吸血鬼だ』
そう言ったところで今現在、人間でない事には変わらない。
果たして彼女達に理解を示してもらえるのか……。
今の彼女たちにとって僕の存在というのは、どう見えているのだろう。
そんな事を考えながら扉の前に立ち尽くしていると、何者かが声をかけてきた。
「あら、そこの部屋の方に何かごようでしたか?」
その人は宿の女将さんだった。
「そこの部屋の方でしたら、食事に出られた様ですよ」
「それは……いつ頃の話ですか?」
「確か……15分くらい前だったと思います」
15分。
ならばちょうど入れ違いになってしまった形か。
だとすればいつ戻るかは分からないな。
とりあえず、神聖騎士団に拘束された訳ではない様なので、ひとまず安心した。
僕は一呼吸おいて考えた。
まず一番に考えるべきことはカレンと合流すべき事だろう。
事情を話して理解してもらわなければならないと。
だとしたら今はこの場所には無用だ。
女将さんへは「時間を改めて出直します」と伝え、僕はその場を去った。