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魔法のある世界

 この世界にやって来て僕は宮殿で働く事になったのだが、半分客人扱いだったので任される仕事は簡単な掃除くらいのものだった。

 とは言え、この宮殿だが想像していた以上にやたらと広かった。

 掃除だけを任されているとはいえ、屋内全ての床掃除をしようと思ったら丸1日あっても終わらないだろう。

 この宮殿の主人は先日会った女の子『ヴァレンティナ』らしく、彼女には親や兄弟もいないらしい。

 この広い宮殿には数名の使用人と共に暮らしているそうだ。

 

 それと、この宮殿でしばらく生活している内に気付いた事がある。

 それはこの世界には『魔法』が存在しているという事だ。。

 初めて魔法を見たのはヴァレンティナが食事中に使用人を呼び付けた時だ。

 まるで地面から生えて来たかのように床から執事のヴィンセントさんが出てきたのだ。

 僕は唖然とするしかなかった。

 その様子を見てヴァレンティナは「どうした?」と尋ねて来たので、僕は率直に今のは何か尋ねてみた。


「なんだ?ただの転移魔法だろう。驚くようなものでもあるまい」


 まるで当たり前の事を何を言っているんだという返答をされた。

 だが、それでも理解していない僕の様子を見て執事のヴィンセントさんが口添えをしてくれた。


「ご主人様。ハルト様のいらっしゃった世界には恐らく魔法が存在していなかった可能性もあるのかと」

「魔法が存在しない……?あぁそうか。そういう意味か」


 そう言うとヴァレンティナは食事の手を止め、軽く口を拭う。


「魔法が存在しない世界とは不便だな。では魔法そのものを見たのも今のが初めてという事か?」

「うん。正直何が起きたのかさっぱり分からなかった」

「そうか。それは不便だな。よし、ヴィンセント。今日から暇を見てハルトに魔法の扱い方を教えてやれ。基本的なものだけで構わん」

「はっ、かしこまりました」


 こうしてこの日から僕は魔法の特訓を行う事になった。

 最初にヴィンセントさんから教わった事は『魔力の流れ』を掴む事であった。

 

「まずは魔力を扱い方から学んでいきましょう」

 

 そういうとヴィンセントさんは水の入った樽を用意した。


「では、まずこの水を手を使わずに持ち上げてみてください」

「手を使わずに…」

「大切なのはイメージです。水にだけ意識を向け、その水をゆっくりと持ち上げるイメージをしてください」

 

 言われるがまま、僕は両手を水に向けてみる。

 手の届かない位置にある水を持ち上げるイメージで…。


「…………」

「…………」


 水は微動だにしない。


「まだ完全にイメージを掴み切れていない様ですね。ではボールをイメージしてみてください」

「ボール…」

「そうです。手の平に収まるサイズのボールで構いません。それが水の中に沈んでいると思うのです」

「……」

「それがイメージ出来たらゆっくりとそのボールだけを水から持ち上げるのです」

 

 ゆっくり、ゆっくりと持ち上げると樽の中から水の塊が少しずつ顔を出す。

 少しずつ持ち上がり最終的に丸い球体状の水が宙に浮いていた。


「わ、わ、わ……!出来た!」

「お見事です、ハルト様」


 が、少し気を抜くと持ち上がっていた水の塊は形を崩し、樽の中に落下した。


「あっ…」

「いやいや、素晴らしいですよ。では次は今の動作を1分間続けてみましょう」


 先程同様に水をボール状にして宙に浮かべる。

 神経を研ぎ澄ませ、このまま1分間これをキープする。

 これは…思ってた以上に辛い。

 わずかにでも集中を切らすと水の形は崩れ歪になる。

 最初の挑戦では約20秒が限界だった。

 その後も何度か繰り返すがせいぜい良くて30秒ほど。

 ヴィンセントさんも丁寧にコツを教えてくれたが、思ったほどの結果は出せなかった。


「ふむ。日も暮れてまいりましたし本日はこのくらいに致しましょうか」

「はい…。分かりました」


 疲労困憊で膝に手を付きながら息を切らす僕を見てヴィンセントさんはそう言った。


「いやはや、それにしてもハルト様は才能高く将来有望ですな」

「え?でも僕ヴィンセントさんに言われた時間の半分しか出来なかったですし…」

「そうですね。確かに1分持ち上げる事は出来ませんでした。ですがハルト様。初めての練習で水を持ち上げる事など普通なら有り得ない事なのです」

「そうなんですか?」

「通常、人間なら水を持ち上げるだけでも数年くらいかかるものです。魔力の扱いに長けている吸血鬼や魔族ならともかく。

 ですので私も当初は数年かけてこの練習を行うつもりだったのですが、想像していた以上の潜在能力でございます」


 ずっと入院していたからか、何だかこういう風に何かを人に褒められたのも久しぶりで少し照れ臭いな。

 

「さ、そろそろ帰りますか。ディナーの用意もしなければなりませんのでね」


 そういうヴィンセントさんと共に僕は帰路に着いた。

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