馬車の中にて
馬車に揺られながら少しずつ遠く離れていくルクセリア城に3人はそれぞれ想いを募らせる。
「カレンさん、お城を離れるのはやっぱり寂しいですか?」
「……寂しくないといえば噓になる。それなりに長い事騎士団員として勤めていたからな。仲間たちの顔も自然と浮かんでくるな。だが二度と会えない訳ではないんだ。その時までにお互いに成長している事だろう」
「あたし、ノクスさんから聞きましたけどカレンさんは今でもすっごく強いんですよね。それでももっと強くなりたいですか?」
「ははは。マーシャ、それは勿論だとも。強いと言われているが、今目の前にいるノクスの足元にも及ばない程度だ。そんな程度の腕前では満足できないのは当然さ」
「そうなんですか……何となく知ってはいましたけど、ノクスさんってそんなに強いんですね」
「あぁ、ノクスは本当に強いぞ」
同じ空間の中でこんなにも真っすぐに褒められるのは少し恥ずかしいものがある。
「それで、ノクスさんはどうやってそんなに強くなったんですか?」
「私も興味があるな。君の話を聞かせてくれ」
「……僕にはすごく強い師匠がいたんだ。いつも師匠って呼んでいてね。今でも僕よりずっと強い人だよ」
「ほぉ、そんなに強いのか」
「うん。その人から魔法から格闘術から剣術まで本当に色んな事を教わったんだ。10歳でこの世界の事が何も分からなかった僕に、一から全て色んな事を教えてくれた人だよ」
「そうか。そんなに素晴らしい人なら、私も一度お目にかかりたいものだな」
「あたしも会ってみたいです」
「うん。いつか2人にも紹介するよ」
などと雑談をしながらゆっくりと馬車の旅を満喫していた。
そう言えば、ティナの宮殿を出てどれくらい経つだろう。
ティナは元気にしてるんだろうか?
いつものように吸血鬼のくせに日光浴を楽しんでいるのだろうか?
ヴィンセントさんやイザベルさんたちも元気かなぁ。
城を出て一月も経っていないけどあの宮殿での日々は既に少し懐かしいものとなっていた。
この馬車もこのまま南下していけばシルフェッド大森林の近くを通るだろう。
そのまま少し道をそれて森を抜ければティナの宮殿だ。
会いたいなと思ってしまう。
「はぁ……」
ついため息が漏れ出る。
「どうされましたか?ノクスさん」
その様子にマーシャが反応する。
「いや、何でもないよ」
「そうですか?」
「ノクスよ、悩んでいる事があれば話くらい聞くぞ」
「いや、別に悩んでなんか……」
「そうか?先程からどことなく上の空の様だが?」
「……少し昔を懐かしんでいただけだよ」
「ふむ。……ならば良い」
気が付けばルクセリア城がすごく遠くに見えていた。
思っていた以上に遠くまで来ていたようだ。
アズールポートまでまだしばらく時間がかかりそうだ。
ゆっくりとこの道のりを楽しもう。
あのいつも退屈そうにしていたティナの様に。




