ルクセリア出立
僕とカレン、マーシャは次の目的地について相談していた。
「で、次はどこへ向かう予定なんだ?」
「ここから一度西に向かってみようと思っているんだ」
「ここから西……というとイーセリアか」
「イーセリアはとっても良い所ですよ。わたし、イーセリアからルクセリアに向かってきたので」
「へぇ、そうなんだ」
「とはいえ、イーセリアはどこにでもある普通の農村だぞ。わざわざ見に行く様なところでもないと思うが。それよりも南西のアズールポートなんてどうだ?エルムウッドよりも更に南下した所にある港町だ。魚介料理も有名で旅をするなら是非立ち寄りたい町の一つだな」
「アズールポートなら私も知ってます!お魚料理が有名なんですよね」
「そんなに有名なら行ってみるのも良いかも。うん。次の目的地はアズールポートにしよう」
今までは道中一人旅だったが、今回は三人だ。
これまでの様に飛行術でさっさと飛んでいく事は出来なくなった。
ルクセリアからアズールポートまで徒歩で一週間以上はかかるだろうけど、仲間たちと雑談をしつつ、のんびりと道を進むというのは、それはそれで良いものかもしれない。
「……なあ、ノクス。もしかしてなのだが、君はアズールポートまで歩きで移動するつもりなのか?」
「え?そのつもりだったけど……」
「…………」
カレンは呆れた様な目でこちらを見ている。
「え……?ダメ……?」
はぁ、と大きくため息交じりにカレンは言う。
「ノクス。君と私の二人旅だったなら、正直それでも良いかもしれない。しかしマーシャはどうするつもりだ?彼女は私たちと違い、足腰も鍛えていない普通の女の子だぞ。そんな子を一週間以上も歩き旅に付き合わせるつもりか?」
「あっ……」
「……全く、戦闘技術は大人顔負けだというのに。君にも年相応に未熟な所があるんだな」
何故か安心した様に語るカレン。
「……」
「なに、落ち込むことはない。年相応である事は何も悪い事では無いし、これから学んでいけば良いだけだ。私も君もマーシャも、全員でな」
「うん。ありがとう」
カレンの言葉には非常に勇気づけられる。
正直これまでは自分ひとりで旅をしてきた。
だから自分で何でも解決しなければならないと思っていたけど、これからはそうじゃない。
悩んだ時には支えてくれる仲間がいる。
「……さて、では私は馬車の手配でもしてくるか。2人はここで待っていてくれ」
そういうとカレンは部屋から出ていった。
「マーシャは旅支度はすんだかい?」
「はい!バッチリです!」
「うん。なら後はカレンが返ってくるのを待つだけだね!」
「そうですね!」
そういう彼女の様子はどこか落ち着かない様子で、上機嫌なのがこちらへも伝わってきた。
「……マーシャはアズールポートに行くのがそんなに楽しみなの?」
「はい!と、言ってもアズールポートに行く事というより……」
「?」
「ノクスさんとカレンさんと三人で旅が出来るという事が楽しみというか……」
彼女はえへへと笑顔でいう。
「私は早いうちに母を亡くし、兄弟もいないまま、父と2人で生きて来ました。だからノクスさんとカレンさんが一緒にいて下さる事って、私にとっては兄弟が出来た様で嬉しいんです」
「なるほど。兄弟ね……」
「ノクスさんには兄弟っているんですか?」
「僕?居ないよ。マーシャと同じで一人っ子」
「そうなんですか~。カレンさんはどうなんでしょうね?」
「カレンとはそういう話はした事ないから知らないな」
「へ~。じゃあ戻ってきたらカレンさんに聞いてみましょう!」
「ん?私に何を聞くって?」
と雑談をしているとちょうどそこへカレンが戻ってきた。
「あ!カレンさん!カレンさんには兄弟っているんですか?」
「兄弟?いや、いないよ」
「そっか~。じゃあ三人とも一人っ子なんですね」
「という事は2人共そうなのか」
というとカレンは優しく言葉をかける。
「マーシャ、それにノクスも。一応この中では私が最年長だ。もし何かあったら頼ってくれて構わんからな」
「はい!ありがとうございます!カレンさん!」
「うん。ありがとう、カレン」
「さて、馬車の手配だが思ったより順調に進んでな。今すぐにでも出発できるぞ」
「じゃあそろそろ出発しようか」
「はい!」
「あぁ」
そういうと僕らは王へ出発する事を伝え、馬車へと乗り込んだ。




