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エルフとの出会い

 ルクセリア城から北に進んだところにある『エルドリン山』。

 ドゥリンガルドへ向かうにはこの山を越えていくしか方法がないのだとか。

 正直、低空飛行で進んでいるので疲労は全くといって良いほど感じないのだが。

 

 それにしてもこの山にはシルフェッド大森林と同じような感じがする。

 異様に静かではあるものの、周辺には間違いなく魔物の気配を感じる。

 魔物の方から襲ってくる気配は無い。

 どちらかというと警戒しているといった様子だ。


 さて、どうするか。

 こちらを警戒している魔物だが、正直かなり強い。

 向こうから手を出してこないのであれば、わざわざこちらから手を出す必要もあるまい。

 敵の数は3…いや4体か。

 僕の左右に2体ずつ。

 気配だけとはいえ、ずっと付きまとってこられるのも面倒くさいな。

 少し強い覇気でも出して追い払うか?

 いや、それは逆効果になる可能性もある。

 覇気を感じ警戒を強められると、より動きにくくなるかもしれない。

 ならば……。


 僕は飛行するのを止め、その場に立ち止まった。

 と、同時に周囲の魔物たちの気配もその場に留まった。

 やはりこちらを警戒している。

 そしてこいつらは群れだ。

 俺を囲うように、均一なフォーメーションを維持したままである。

 俺は昔ティナに教わった事を思い出していた。

 

『よいか。世の中には群れで戦闘を行う魔物もいる。必ずしも1対1の戦闘になるとは考えるな。そしてもう一つ。群れで戦闘を行う者は人間もそうだが、魔物でも何かしらの戦闘訓練を受けている者が相手だと思え』と。


 その時のティナの言葉を信用するなら、俺を囲っている奴らも何かしらの戦闘訓練を受けたものだろう。

 複数体同時に相手に戦闘を行うのは面倒だ。

 何とか話し合いに持っていけないだろうか。

 いや、そうだ。

 フォーメーションを取っているという事はコミュニケーション能力があるという事だ。

 ならば、こちらとも言語でのコミュニケーションは可能なはずだ。

 ダメ元で話しかけてみるか。


「もし。僕を囲っている魔物たちよ。何故僕を執拗に追い回す?理由をお聞かせ願いたい」


 しばらくの静寂の後、魔物の内の一人が姿を現した。

 彼の姿は身長180cm前後の人間に近い姿をしていた。

 しかし決定的に人間と違う部位が一つある。

 それはその種族の特徴ともいえる尖った耳だ。

 つまり、彼らの正体は……。


「エルフか……」

「ご明察だ。魔の者よ」

「魔の者とはどういう事かな?」

「ふん。しらばっくれるでない。見た目こそ人間に擬態しているようだが、その異様な魔力は我らにはごまかせんぞ」

「……」

「さて、貴様の目的を聞かせて貰おうか?何故(なにゆえ)に魔の者が我らが霊峰へと足を踏み入れたのだ」


 まさか魔物では無く、エルフの集団だったとは思いもよらなかった。

 確かエルフは魔物というより、人に近い妖精だったはず。

 外見はその特徴的な尖った耳と人より若干背が高いくらいしか違わないと聞いた事がある。


 そうか。

 ここ、エルドリン山はエルフたちの支配領域だったのか。

 となれば勝手に足を踏み入れた僕の方に非がある事になる。

 理由は正直に話してしまった方が良いだろう。


「あなたの言う通り私は元人間の吸血鬼です。一人旅をしているものでドゥリンガルドを目指してこの山を越えていくつもりでした」

「元人間の吸血鬼?そうか。ならばその姿は擬態したものでは無く、其方本来の姿である、と」

「はい」

「なるほど。事情と目的は分かった。しかしここは我らエルフの聖域であり、本来ならば魔の者が侵入した場合には即座に追い払うか、討伐する決まりとなっている」

「では、私を囲いついてきていたのも…」

「本来なら隙を見て殺すつもりだった。が、生憎ながら貴様が警戒を怠らない上に、忌々しい事に実力は我らの遥か上の様だからな。様子を伺っていたまでだ。正直、話が分かる相手で良かったと安堵している」

「……もし僕が話し合いでは無く、戦闘を選択していたら?」

「その時は全身全霊をもって戦うつもりだったさ」

「……それが仮に僕の様に完全に実力が上の相手だったとしても?」

「当然だ。我々にも家族や仲間がいる。彼らを危険に巻き込まない為にも、我らは相打ち覚悟で戦うつもりだった」

「そうですか……」


 話して見て改めて認識したが、エルフはやはり人間に近い種族だ。

 仲間意識があり、家族や仲間を大事にする。

 そして危険を排除する為なら自らの犠牲も厭わない。

 

「まぁ話は逸れたが、今回の件に関しては不問とする事にしよう」

「…それはまた何故急に?」

「我々エルフはあまり人里にこそ下りないが、本来人とは友好的な種族だ。貴様の話を信じるならば吸血鬼に血を吸われただけの元人間なのであろう?であれば他の魔物とは違う。扱いも変わってくる。それに話をしていてエルフに害をなす人物では無いと判断しただけの話だ」

「そうですか。ありがとうございます」

「もし今後、この周辺を移動している際に他のエルフに何か言われたら俺の名を出すと良い。俺はエルフの村の戦士長でライヴェルという」

「分かりました。ライヴェルさん」

「では、道中気を付けてな。ドゥリンガルドを目指すのであればエルドリン(ほう)はともかく、その先の山々では屈強な魔物も多いからな。まぁ君なら大丈夫だろうが」


 そういうと4人のエルフたちはさっさとその場から去って行ってしまった。

 エルドリン峯のエルフの村か。

 機会があれば一度訪ねてみたいものだが、元人間とは言え今現在吸血鬼となってしまった身としては、正直難しいだろうけど。

 そんな思いを胸に抱えつつ、僕はドゥリンガルドを目指し歩き続けるのであった。

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