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我が名はヴァレンティナ・ヴェルセリオン


 目を覚ますと固い床の上に1人横になっている状態だ。

 僕はゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡してみる。

 まず、明らかに分かる事は間違いなく僕が眠りにつくまでいた病院とは違う場所だという事。

 そしてもう一つ。

 ここが日本かどうかすらも分からない。

 広間の柱と柱の間から見える風景からは海が見えているからだ。

 この時、僕の頭の中には一つの可能性が浮かび上がった。

 

「もしかして、ここが天国なのかな?」


 そう。自分自身の容態が悪化し、死んでしまった可能性だ。

 元々高校生まで生きられないかもとは言われていたが、小学生のまま今日明日死んでしまう可能性だってあったはずだ。

 何があったかは分からないが、何かあった事だけは分かっている。

 その中で自分の置かれていた状況を思い返すなら、原因不明の病を患って長い間入院生活をしていた事くらいしか思い当たる節がない。

 死。

 ただそれだけが自分の頭の中を過る。

 そんな事ばかり考えてしまうからか、動悸も激しくなり、呼吸も荒くなる。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 もうお父さんとも、お母さんとも、お祖父ちゃんも、お祖母ちゃんも、学校の友達も。

 もう会えなくなってしまったんだ。

 感情が込み上げてくる。

 目からは涙がボロボロと溢れ、僕は泣いた。

 ただひたすらに。

 大声を出して。

 咽び泣いた。


「やかましいぞ。小僧」

挿絵(By みてみん)


 大声で泣き喚いていた僕の耳にハッキリと、女の子の声が聞こえた。

 僕は驚き泣くのを止め、声のした方を振り向いた。

 ペタペタと裸足でこちらに歩いてくるのは自分と同い年くらいの金髪の少女だった。

 彼女は膝くらいまであるダボダボの黒のタンクトップで、明らかに寝起きだと言わんばかりに大きなあくびをしている。

 誰だろう?

 ここの人なのかな?

 というか、そもそもこの子金髪だし、彼女は日本人なのかな?

 頭の中で様々な疑問が駆け巡る。

 色々考えた結果、とりあえず騒いだ事は誤っておいた方が良いだろう。


「……ごめんなさい」

「ふむ。素直なヤツだな。で?貴様はここで何を泣いていた?」


 見た目は同い年くらいだが、物凄く上から物を言う少女だった。


「えっと、僕病院のベッドで寝てたはずなんだけど、気が付いたらここにいて……」

「はぁ~?何を訳の分からん事を言って……いや、ちょっと待て……もしかして貴様……」

 

 少女は顎に手を当て何かを考える素振りをしている。

 しばらく考えた後、こちらに色々と問いかけてきた。


「お前、名前は?」

「小宮山ハルト」

「歳は幾つだ?」

「今10歳」

「種族はなんだ?」

「(種族って何?)えっと、人間」

「どこの国の生まれだ?」

「日本の東京」

「ふむ。……やはりか」


 それだけ聞くと彼女は再度考え込んで黙ってしまった。

 彼女は何を尋ねたかったんだろう。

 今度は逆に僕からも質問してみる事にした。


「あの、君って…」

「うるさい。少し黙っておれ」

「…………」


 生憎ながらコミュニケーションは片道切符しか用意されていなかった。

 仕方ない。

 黙っていよう。

 それにしても彼女は見れば見るほど不思議な雰囲気がある。

 会話こそ日本語で話してはいるが、恐らく彼女は日本人ではない。

 それはすぐに分かった。

 ただ、アメリカやヨーロッパ等の国の人とも違うのではないかとも感じている。

 実際に外国人と会ったり話したりした経験は無いけれども、テレビで見た外国人の人達。

 そのどれとも違う雰囲気があるからだ。

 と、いうかそもそもの話だ。

 何故そう思ったのかは分からない。

 何故かと聞かれたら困るのだが…。

 彼女は人間らしくない印象を受けるのだ。

 なんて事を考えていると彼女はようやく口を開いた。


「お前、間違いなくこの世界の人間ではないな」


 え~と、どういう意味なんだろう?

 遠回しに「お前はもう死んだ人間だ」って意味なんだろうか?

 意味が分からないので聞き返してみる。


「この世界っていうのはどういう…」

「つまり、お前は別の世界からこちらの世界に何らかの理由で転移して来た人間だという事だ」


 元居た世界から別の世界へワープしたって事なのかな?

 って事は僕はまだ死んだわけではなさそうだ。

 

「最近よく聞く話で『異世界からこちらの世界に突然飛ばされる事象が発生するらしい』んだが、

 恐らくお前は今回それに巻き込まれたと見るのが妥当だな」

「あの、それって元の世界にどうやって戻ったらいいのか分かる?」

「さぁ?戻り方までは私も知らん。自然現象の様な物だと思った方が良いな」

「そんな……」


 僕はショックでその場に座り込んでしまった。

 その様子を見てか、少女は僕に語り掛けてくる。


「時にお前、ハルトとか言ったか?その歳でこちらの世界へ1人飛ばされて行く当ては無いのだろう?

 これからどうするつもりだ?」

「どうって…」


 僕は動揺と不安でまだこれから先の事など考えられる状態ではなかった。

 しかし、彼女の言う通り帰れないのならばこの世界で生きていく方法を考えなければならない。

 彼女は「はぁ」とため息交じえながらこう言った。


「仕方ないな。ここに転移されたのも何かの縁だ。ウチで面倒見てやろう」

「え…?良いの?」

「流石にこのまま放っておくのも気が引けるしの。私の気まぐれだよ。それと生活の面倒は見てやるからその分しっかりここで働くようにな!」

「あ、ありがとう!え~と名前……」

「ヴァレンティナ・ヴェルセリオンだ。呼び方は好きに呼ぶがいい」

「う、うん!ありがとう、ヴァレンティナ!」

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