友情。そして別れ
今回はいつも以上に短めです。
キリが良い所で分けたらこの長さになってしまいました。
―――ザッ!カァン!カァン!ザッ!カァン!
今日も演習場には砂埃が舞い、木刀のぶつかり合う音が響く。
「はぁはぁ……すこし……休息を挟むとしよう……」
「うん」
「それにしても君は……本当に呼吸一つ乱さないな……」
「それを言ったらカレンだって、ぶっ倒れなくなってきてるじゃないか」
「ははは。なんとかな」
呼吸を落ち着かせるとカレンはこちらに問いかけて来た。
「なぁ、ノクス。君は旅人だろう。いずれここも旅立つと思うのだが、日程は決めているのか?」
「旅立ちの日は具体的には決めてないけど、もうそろそろ出立しようとは考えていた」
「そうか……ではこうして剣を交えるのもあと少しという事だな」
「そうだね…」
「寂しくなるな……私と同等以上に渡り合えるものはこの城には君しかいないからな……」
しばしの沈黙が流れる。
「そう言えば、次の目的地はもう決めているのか?」
「うん。ここから北に行ったところにあるドワーフの国に行ってみようと思っている」
「ドワーフの国…ドゥリンガルドか。何故そこへ?」
「有名な鍛冶師がいると聞いて」
「あぁいるな。ドゥリンガルドで有名な鍛冶師と言えば恐らく『ダルガン』の事だろう」
「ダルガンさんか」
「だが、会えるかどうかは分からないぞ?なんせ世界一の鍛冶師と呼ばれる男だ。年がら年中引っ切り無しに依頼が舞い込んでおり、果たしてすぐに武器を作って貰えるかどうか……」
「そうか……ならどちらにせよ早めに尋ねた方がいいな」
それから三日後。
謁見の間にて。
「カレン師団長!来賓ノクス様!ご入室されます!」
「カレン・エルヴァイン。推参致しました」
「同じくノクス・ヴェルセリオン。推参致しました」
「うむ。2人共、息災である。して今日参った理由はカレンより前以て余も聞いておる。ノクスよ。旅立つのだな?」
「はい」
「旅の目的地はドゥリンガルドの鍛冶師、ダルガンを尋ねる事だと聞いたが間違いないか?」
「仰られる通りでございます」
「短い間ではあったが、後継ぎのおらぬ余としては其方を実の息子の様に思って居った。いなくなると聞くとそれはとても寂しいものがあるな」
「恐れ多く存じます」
「だが、其方にも旅をするという目的があるのは理解しておる。引き留めたりするつもりはない。だが、またルクセリアを訪れる事があれば是非顔を見せに来て欲しい。空き部屋はいつでも空けておくのでな」
「はっ。身に余る光栄です」
「うむ。ではこれより旅立つお主に余から餞別じゃ。これに持て」
王がそういうと従者の一人が何やら巻物の様なものを持ってきた。
「ノクス様。お受け取り下さいませ」
「これは…?」
手に取り、これは何だろう?と思っていると。
「それは余からダルガンに宛てたお主の紹介状じゃ。これをもってダルガンに会いに行くと良い。きっと良くしてくれるはずじゃ」
「その様な心遣いを……恐れ多くも恭しく頂戴致します」
「うむ。其方の旅が良いものになる事を願っておるぞ」
王様はにこりと笑顔を見せ、送り出してくれた。
「して、カレンよ。其方も彼の友として、送り出しの言葉をかけてやるが良い」
「はっ。ノクス。君がこの城に来てからの毎日は私にとって非常に充実した毎日であった。君の強さに憧れ、ルクセリア騎士団師団長として、幾度として剣を交えたが私は君に呼吸一つ乱す事さえ出来なかった。悔しい思いもあるが、それ以上に私は君を尊敬している。だから敢えて言わせてほしい。君がここから旅立ってまたルクセリアを訪れるのがいつになるかは分からないけど、また会う事があればその時はまた私と剣を交えて欲しい。きっと今よりも強くなって君と肩を並べられるように、ここで君を待っているから」
「うん、勿論だ。けどその時には僕ももっと強くなっていると思う。その時を楽しみにしているよ」
そういうとカレンとがっしりと握手を交わす。
その様子にその場にいた王や衛兵たちからは自然と拍手が沸き起こった。
そうして送り出された僕は、カレンをはじめとする騎士団に見送られルクセリア城を後にした。
目指すはドワーフの国ドゥリンガルド。
目的はこの世界随一の腕を持つという鍛冶師『ダルガン』に会い、僕だけの武器を作ってもらう事だ。
ドゥリンガルドはルクセリアから北の山を越えた先。歩きならば10日ほど。
少し長い旅路になるだろうが、僕は次の目的地に向けて歩み始めた。




