次に向かうのは
Sクエストのワイルドホーン討伐が達成された。
その噂は冒険者たちの間で瞬く間に話題となった。
しかもそれが齢10歳くらい少年よるものだという。
「ただの噂じゃないのか?」
「いや、買取屋のガウインが直接買い取った物的証拠がある。間違いなく事実だそうだ」
冒険者ギルド協会としては前述の一件を踏まえた上でSクエストを受けられるかはまだ未定となっていた。
とはいえ暴れまわるワイルドホーンにはここ数年誰にも倒すことが出来なかった為、Sクエストとなっていた。
それをたった10歳くらいの子供がやってのけたのだ。
冒険者ギルド内では良く思う者もいれば、そうでは無い者もいた。
そしてその空気感は当然ながら当事者である僕自身もやはり感じているところであった。
「はい。ではこれが今回の報酬にです」
「ありがとうございます。ミリシャさん」
ミリシャさんは少しバツが悪そうに言う。
「…なぇノクスくん」
「何ですか?」
「ごめんなさいね。Sクエストの件、本部の方に問い合わせてみたんだけどやっぱりまだ受けられないみたいで」
というのも先日のワイルドホーンを討伐した一件から、ここのギルド職員の人達は自分の実力を評価してくれているらしい。
だが、ギルドの本部では登録したばかりの、しかも10歳の少年をいきなりSクエストを受けられるようにするのはいささか抵抗があるようだ。
「いえ、気にしてないですよ」
「とは言え、報酬の額が全く違うから。旅をしているノクスくんからすれば少しでも旅費は多い方が良いでしょうし」
「大丈夫ですよ。今の報酬でも全然何とかなってますから」
「そう?なら良いんだけど……」
「では、また来ます」
といい、僕はギルドを出立する。
確かに所持金は多い方が旅は助かるんだけど、現状そんなにお金には困ってはいない。
正直、次の町に着くまでの宿代さえ何とかなれば良いと思っている。
吸血鬼になってからは正直あまりお腹が空くという感覚がない。
これは以前イザベルさんが言っていたと思うが、あの宮殿にいた一部の人(魔族)はティナも含めて食事をしないのだ。
食費がかからないというのはかなりの節約になっており、怪我の功名である。
宿に帰ってきて僕は地図を広げる。
次に向かう町を決める為だ。
現在いるエルムウッドにも滞在し始めて数日が経つ。
まだ宮殿から出て数時間程の町にそんなに長居していても仕方がないし。
さて、ここから最も近い町は…サンブルームか。
距離は北西に歩いて2日ほど。
もしくは東の方へ行くという選択肢もある。
そっちにはルクセリア城という城があるらしいが、こちらは徒歩で3、4日ほどとだいぶ離れている。
ふむ。
今回の僕の旅の目的は言ってしまえば物見遊山。
ただの観光だ。
せっかくならお城は見ておきたいなぁ。
よし!次の目的地はルクセリア城にしよう!
そうと決まれば明日には出立だ。
翌日、僕はお世話になった人たちに挨拶を済ませ、エルムウッドを出立した。
ルクセリア城までの道のりは本来なら護衛を雇うのが一般的らしい。
というのも道沿いにシルフェッド大森林が右手に見えているので、魔獣に襲われる旅人も多いらしい。
距離も距離だし飛行術で飛んでいこうかな?
いやでもそれだとせっかくの旅の風情が……。
う~ん。
まぁいいか。
飛んで行っちゃえ。
―――ビューン!
おぉ、早い早い!
これなら想定していた時間よりももっと早く着きそうだな。
しばらく飛んでいると気になる集団が視界に入った。
ん?あれは…。
馬車が一台と、その他に合計で含めて5人ほどいるか?
よく見ると手に武器を持って馬車を威嚇しているように見える。
様子を伺うに恐らく護衛をつけずに馬車で移動している最中に野盗に襲われたと考えるのが自然だろうか?
僕は馬車と野盗たちの間に着地する。
「あん?なんだテメーは!」
「突然どこから現れやがった!」
「邪魔だガキ!そこをどけ!」
野盗どもはこちらにはお構いなしに手に持った武器で切りかかってきた。
僕は彼らの攻撃をひらりはらりと次々に躱す。
「くそっ!なんだこいつ!」
「攻撃が当たらねぇ!」
野盗どもの攻撃はあまりに直線的過ぎる。
宮殿でティナやヴィンセントさんたちから受けた攻撃に比べたら、比較にもならないものだった。
躱してばかりだとキリがない。
こちらからも反撃させてもらおう。
僕は攻撃を躱しながら魔法を詠唱する。
「火の精霊たちよ!契約に従い大地より天高く舞い上がれ!『炎の舞』」
―――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオォ!
大地に大きな紋章が描かれ、そこから上空に向かって渦を描くように炎が舞い上がる。
「うわあああああああ!」
「こ、これじゃ近づけねぇ!」
「ひ、引け!退却だ!」
退却していく野盗。
しばらくして炎も収まり収束する。
これでひとまずは大丈夫だろう。
馬車の人達は大丈夫かな。
と、思っていたら馬車から1人の女性が下りて来た。
白いワンピースに身を包んだその女性はまだ若いながらも穏やかな雰囲気を持ちつつ、どこか高貴さも感じられた。
女性はこちらに問いかけてくる。
「あの、お怪我はありませんか?」
「いえ僕は何とも」
「そうですか…。助けて頂いて本当にありがとうございました。なんとお礼を申し上げたら良いのか。あのお名前を伺っても…?」
「本当に気になさらないで下さい。こちらが勝手にした事ですので」
「そうですか…。あの、私はセシリアと申します。いつか『エインシェント』までいらっしゃる事がありましたら是非私を訪ねて下さいませ。このお礼は必ず致しますので」
「分かりましたセシリアさん。その時には必ず」
そう言うと僕は彼女を見送り、再度ルクセリアへ向けて歩みを進めた。




