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旅立ちの日

「それでは、お達者で」

「ハルト様。我々はいつでもお帰りをお待ちしておりますよ」

「ありがとう、イザベルさん。ヴィンセントさん」

「あぁ、そうだ。ハルト。旅立つお前に私から一つアドバイスだ。お前、人里では本名を名乗るのはやめておけ。この世界の人間では無いとすぐにバレるぞ。()()()を避ける為に何か偽名は考えておけ」

「分かったよ。ありがとう、ティナ」


 簡単な別れの挨拶を済まし、僕は宮殿を発った。

 僕はまずシルフェッド大森林の先にある人里に向けて歩みを進めた。

 正直、飛行術を使って空を飛んでいけば楽は出来るのだが、せっかくの旅行だ。

 自分の足で大地を踏みしめて歩いていきたいのだ。

 以前ティナも言っていたが、吸血鬼の人生は永い。

 長い時間をかけてゆっくりと歩みたい。

 

―――ガサガサッ


 と、しばらく歩いていると付近の茂みから草木を踏みしめたような音が聞こえてくる。

 そう言えばこの森は魔獣が出るんだったな。

 僕は歩みを止める。

 音のする方向から考えて魔獣は…右か。

 しばらく静寂が続くと、ガオオォ!と魔獣の方から飛び出し突進して来た。

 僕はその突進を軽くいなし、魔獣と敵対する。

 その魔獣には見覚えがあった。

 

「こいつは…ワイルドホーンか」


 そう、8年前にイザベルさんと共にこの森を訪れた際に敵対した魔獣だ。

 あの時は散々戦って決着がつかずに最終的にはイザベルさんが倒したんだっけ?

 懐かしいな。

 あの時はこいつの攻撃を躱して反撃するだけでも必死だった。

 

―――ブモオオオオオオオオオオオオオ!!!


 ヤツは雄たけびを上げる。

 地面を蹴り、再度こちらに向かって突進して来た。

 僕はそれを今度は躱さなかった。

 正面から左手一本で受け止める。


―――ブモオッ!?


 魔獣も受け止められた事が信じられないと混乱しているのが左手を通じて伝わってくる。

 何とか押し返そうと、何度も地面を蹴るも僕の身体はビクともしない。

 それこそ暖簾に腕押しといった所だろう。

 これ以上続けても無駄だ。

 

「『雷撃波(フルグル・ウンダム)』」


―――バリバリバリバリィ!!!


 強い電気ショックを受け、一瞬で気を失うワイルドホーン。

 全身が焦げ、その場にバタンと倒れてしまった。

 8年前、あれだけ苦戦したワイルドホーンを一撃。

 そう考えると少し感慨深いものがあるな……。

 身体の成長は止まってしまったかもしれないけど、ちゃんと成長出来ていたのを実感できた。


 さて、それはさておきこのワイルドホーンは人里に持っていくとするか。

 人里に持っていくと肉は食用、牙は装飾品などに使われると聞いた事がある。

 こんな時の為に『異空間魔法』を覚えておいてよかった。

 この魔法は異空間に様々な武器や道具を入れて置ける便利な魔法なのだが、死体であればモンスターも収納できる。

 その後も、道中様々なモンスターに襲われたが、ワイルドホーン以上に強力なモンスターは特に居なかったのでここでは省略する。


 宮殿を出て4時間ほど経ってやっと人里に辿り着いた。

 さて、まずは宿を探すか。

 幸い、旅に出る際の餞別としてヴィンセントさんから幾らかお金は持たされている。

 宿代くらいは何とかなりそうだ。

 

「ここが宿かな?ごめん下さい」

「は~い!いらっしゃい!おひとり様でご宿泊ですか?」

「はい。空いている部屋ならどこでもいいのですが」

「では2階の一番奥の部屋へどうぞ!」


 ふう。やっと一息つけそうだ。


「あ、そうだお客さん。宿帳に記名をお願いします」


 そういえば忘れてた。

 ティナも言ってたっけ?

 あまり本名を名乗らない方が良いって。

 ここでも本名を名乗るのは控えた方が良いだろう。

 とりあえず適当に書いておくか。


「え~とお名前はノクスさん?ノックスさん?」

「ノクスです」

「畏まりました。ではノクスさん、こちら部屋の鍵です」

「はい。ありがとうございます」


 僕は部屋でしばしの休息を取る。

 そうだ、夕方になる前にワイルドホーンの肉と牙を買取してもらわないと。

 早々にこの里の冒険者ギルドに駆け込み、買取をしてもらった。

 ワイルドホーン1頭丸々の買取で銀貨5枚。

 この人里の平民なら1週間分くらいの生活費にはなるらしい。

 冒険者ギルドに登録すれば魔獣を狩ってその報酬で生活する事も可能なんだとか。

 冒険者ギルドか。

 一度行ってみるのも良いかもしれないな。

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