8年の月日
評価をつけて下さる方、ブックマーク付けて下さる方も増えてきて大変嬉しく思います。
ひとえに皆様のおかげです。ありがとうございます。
あれから幾年月が経ったのだろう。
この世界の四季は日本と同じような感じなのだが、幾度も四季を繰り返した。
不老不死となっているからか、僕の体の成長はこちらの世界に転生して来た10歳当時から完全に止まってしまった。
本来なら今何歳で、どんな見た目になっていたんだろう。
僕はそんなことを考えていた。
ヴァレンティナに相談してみようか?
いや、したところで「興味ない」と一蹴されて終わりそうだ。
となると…。
僕はパンパンと二度手を叩きヴィンセントさんを部屋に呼びつけた。
彼はすぐに転移魔法で現れる。
「お呼びでございましょうか?ハルト様」
「ヴィンセントさんは僕がこの世界に転移してきて何年くらい経つか覚えてる?」
「はっ。ハルト様がこちらの世界に転移されてから凡そ8年といった所でございます」
「8年か。そんなに経ってたんだね」
「……元の世界の事が懐かしく思われますか?」
「うん。それもあるけど、ほら。僕は今不老不死じゃない?もし人間のままだったらどんな見た目の、どんな大人になっていたんだろうって思ってさ」
「人間は魔族や吸血鬼と違い、寿命が短い分成長も早いですからね。ですがハルト様なら人間のままであったとしてもきっと立派な方になられていたと思いますよ」
「ありがとう、ヴィンセントさん」
「いえ。ですがもし外見に関してお悩みでしたら、ヴァレンティナ様にご相談なされては如何でしょうか?」
「ティナに?」
「はい。吸血鬼の扱う幻術の一種で外見の年齢を偽る魔法があったと存じております」
「外見を偽る幻術魔法…。分かった。助かるよ」
「いえ、ご助力できたのであれば幸いです。では私はこれにて」
ヴィンセントさんは転移魔法で部屋から出ていった。
かく言う僕はその足で彼女の元へ向かった。
「ティナ!」
「どうした坊や。そんなに急いで」
彼女はいつも通り、玉座で退屈そうにしていた。
「見た目を変える幻術魔法があると聞いたんだけど」
「ん?あぁ、あるぞ」
「その魔法を教えて欲しいんだ」
「ほぉ?何故だ?人里に下りて悪さでもするのか?」
「違うよ。もし僕が大人だったらどんな外見になっていたんだろうって思ってさ」
「あぁ、そうか。坊やは元人間だったな。本来なら今頃成人していた頃合いか」
「そう。だから興味本位というか……」
「ふむ。まぁ教えてやってもいいが……ただで教えるのもつまらんな」
「え?」
「どうだ?久しぶりに……遊ぶか?」
ニヤリと広角を上げるティナ。
「え、ここで……?」
「バカ者。冗談に決まっている。ここで私たちが戦ったら宮殿が壊れるわ!」
プイッと顔を背け足を組みなおすティナ。
「お前もあっという間に強くなってしまったからな。全くもってつまらんな」
「でもそれは育ててくれたティナのおかげだよ。本当に感謝してるよ、師匠」
「師匠か。今でもそう呼んでもらえるのは少しは嬉しいものだな」
そういうと彼女は玉座から下り、僕の方へ近寄ってくる。
「今の私は気分が良い。幻術の魔法、教えてやろう」
「ホントに!?ありがとうティナ~!」
「いいか?幻術魔法はこうやるのだ。
光と闇の精霊たちよ。我に仮初の姿を与え給え。『偽りの姿』」
彼女はそう唱えると一瞬の内に、先程の10歳くらいの姿から20代半ば位のグラマーな女性の姿へと変化していた。
「凄い!本当に全然違う姿に変化出来るんだ!」
「大きくなった分の手足の長さなど、これはただの幻視と違い、ちゃんと質量が存在する。だから幻術魔法というと本当は的を射てない言い方になるがな」
ちゃんと質量が存在するという事は伸びた身長分、目線も高くなるのかな?
「ほれ。坊やもやってみると良い。ちなみに年齢とか体系とか頭の中でイメージしながら行うとイメージ通りに変化する事が出来るぞ」
「分かった。光と闇の精霊たちよ。我に仮初の姿を与え給え。『偽りの姿』」
一瞬で僕の体系は大きく変わった。
身長は高くなり、手足も大きくなっている。
18歳くらいをイメージしてみたけど、これが本来僕がなるはずだった姿。
へぇ~、ほぉ~。
ずっと憧れてた姿に僕は小躍りしたくなる気分だった。
「ほぉ。思ったより悪くないな」
「悪くないって外見がって事?」
「皆まで言わすな。まぁ元々素材も良かったしな。このくらいの美形にはなるだろうとは思っていたぞ」
「そう面と向かって言われると照れるな…」
「だから皆まで言わすなと言っただろうが」
「で、でもそういう話だったらティナだって…」
「ん?なんだ?」
「その…凄く美人だと思うよ…」
「ふっ、ガキの世辞などいらん。まぁ悪い気分はしないがな」
それにしても18歳かぁ。
そう言えばこの世界に来た時の事を思い出すな。
元々僕は病院に入院していて。
高校生になるまで生きられるかどうかって言われてて……。
それが何故かいつの間にかこっちの世界に来ていて……。
ティナやヴィンセントさんたちに出会って、ティナに命を救われて……。
宮殿の中でずっと修行をつけて貰って……。
あれ?そう言えば僕、一度だけシルフェッド大森林には行った事はあるけど、それ以外で宮殿の外に出かけた事なんてあったっけ?
ていうか、僕この世界について何も知らないや。
いや、知識としては多少知っている事はあるけど……。
なんて事を考えているとその様子を見てティナが話しかけてくる。
「ん?どうした?今度は何の魔法を教えて欲しいんだ?」
「いや、そうじゃなくて…」
「なんだ?」
「僕、この世界の事、何も知らないんだって思って…」
「ん?あぁ、そうか。そう言う事か。そう言えば坊やはこの宮殿から出た事が殆どなかったな」
「この宮殿の外の事に関しては知識として知っている事はあるけど、実際には……。」
ティナは顎に手を添える仕種を取ると、真面目な語り口調で「坊や」と問いかけて来た。
「坊やは生まれてから18年ほどだと言っていたな?」
「うん、そうだけど?」
「お前、旅に出てみるというのはどうだ?」
「正直この8年間、修行が目的であったとは言え宮殿に籠りっぱなしだったからな。それこそ世間知らずになってしまう。これを機に自分の目で世界を見て回るのも悪くないと思うのだが?」
「世界を巡る旅…」
正直、僕も同じことを考えていた。
自分の足でこの世界を見てみたいって。
どんな人たちがどんな所でどんな風に生活しているのか。
この宮殿の外にはどんな風景があるのだろうって。
「幸いお前も私と同じく不老不死なのだ。よほどの事が無い限り死ぬことも無いし、多少の怪我や病くらいならすぐに治る。世界中を旅して回るなら虚弱な人間よりもよほど都合が良いと思うぞ」
「うん。僕も同じことを考えていた。自分の足で世界を見て回るのもいいなって」
「そうか」
そう言うとティナは少し笑みを浮かべたものの、それ以上は何も言わなかった。
それから数日後。
僕はこの宮殿から旅立つのであった。




